ファンタジー 里山雷二郎の場合
雷二郎は次が最後の攻撃になると悟っていた。トウセンはこれ以上、戦いを長引かせるつもりはないだろう。
「知ってるか? 将棋の面白さは取った相手の駒を使えることにある」
トウセンの周りに強力な磁場をいくつも発生させる。観覧席にいる戦士や兵隊たちの剣が、磁力に引き寄せられ、トウセンめがけて飛んで行く。
トウセンは槍を手にし、同時に襲い来る数千の剣をさばいた。まさに舞だった。見えない壁がトウセンの周りに張り巡らされているかのように、剣ははじかれていった。
数千の剣をさばき切った後の一瞬の隙を雷二郎はついた。雷二郎の拳がトウセンの頬にヒットした。
雷が駄目なら、肉弾戦だ。
トウセンは無表情のまま、蹴りを繰り出した。腹に走る激痛と共に、雷二郎は一花たちがいる客席の方へ吹っ飛んだ。
思うように力が入らない。すぐには立ち上がれそうもない。
トウセンが唐突に右手を挙げた。
「ギブアップだ。帰るぞ、イッキ」
闘技場全体に響く大声で言った。
観客は呆気にとられた。
「あれれ、俺は兄者とは違うとか散々言っておきながら、最後はそれー」
風二郎がからかった。
「貴様、今からでも殺してやろうか?」
「すんません」
解説者は、一花と月夜から杖を返してもらった。
「今大会の優勝者は風二郎、雷二郎コンビに決まりましたー。皆さま、釈然としない気持ちもあるかもしれませんが、竜人族相手によくやってくれたと思います。竜人族には敵わなかったというだけで、武力の面は申し分ありません。少なくとも現国王よりは数十倍強いです。拍手ー」
闘技場は拍手と歓声に包まれ、空砲が鳴った。
しかし、それも一瞬で静まり返った。空が真っ黒に染まり、観客の目が赤く光った。
「何だ、何だ」
「どうなってる?」
イッキとトウセンも戸惑っていた。
「ジャンルトリッパーの四人、おめでとうございます」
解説をしていた男がさっきまでとは明らかに違う声音で話し始めた。
「五つのジャンルを攻略したので、四人にはこの旅を続けるか、続けないかの選択権が与えられます。続ける場合はその場に待機してください。続けず現実に戻る場合は、闘技場の西入場ゲートをくぐってください。ちなみに制限時間は三十秒です」
突然の選択に迷う時間は残されていなかった。
風二郎と雷二郎は客席の月夜と一花を見上げた。
「二人とも飛べ」と風二郎。
「ちゃんと受け止めてよ」
「いいから早く」
赤い目を光らせた観客たちが闘技場に次から次へと飛び込んで、入場ゲートの方へ集まっていた。
風二郎と雷二郎は疲弊しきった体で何とか二人を受け止めた。そのままゲートへ向かって走る。
「あー、これが本当のお姫様抱っこかー」
「フウ君、冗談言ってる場合じゃないよ。あの人たち、ゲートくぐらせてくれないよ」
「ライ。早く下ろしなさいよ。そんなボロボロの体で無理しなくていいから」
「時間がない。このまま行く。あと、俺も一花のこと好きだから」
「うん」
一花は頬を赤らめた。
西入場ゲートの前三十メートルは観客で埋め尽くされていた。満員電車よりも密度の濃い空間ができている。
四人の前に人影が二つ、走り出た。
「道は俺たちが作る。行け」
「別にお前らのためじゃないからな」
イッキは大剣を一振りし、右半分の群衆を吹き飛ばし、トウセンは槍を振り、左半分を吹き飛ばした。きれいに一掃されたスペースを四人は走り抜けた。
「ありがとー」
四人はイッキとトウセンに向かって叫んだ。
入場ゲートの中に入ると、光が見えた。




