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双子×2のジャンルトリップ  作者: 仙葉康大
第六章
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ファンタジー 雪岡一花の場合

 王様、月夜つくよ一花いちかの三人には魔法がかけられていて、戦っている四人の声が聞き取れるようになっていた。月夜が先程、イッキと風二郎の会話に入っていけたのもそのためだった。


 トウセンが口を開いた。


「あちらは終わったようだ。こっちもそろそろ終わらせたいのだが。どうだ? もう分かっただろ? お前は賢いはずだ」


 雷二郎らいじろうが地面に膝をつく。


「確かに、いくら頭の中でシミュレーションしても、お前に勝てる構図が思い浮かばない」

「ギブアップしろ。ガキを痛めつけるのは趣味じゃない」

「へーい、ライ。俺は勝ったぞー」


 風二郎ふうじろうがVサインをして見せた。

 客席では、月夜が一花に杖を差し出していた。


「一花ちゃんも何か言ってあげたら?」

「無理だよ。だって、ライに何て言ってあげたらいいのか、分からない」


 雷二郎はおもむろに立ち上がった。


「俺はギブアップしない」

「退くのも勇気だぞ」

「今はその時じゃない」

「分かった。なら後悔しろ」


 トウセンが雷よりも速いスピードで雷二郎に近づき、蹴りを入れた。雷二郎のガードは間に合わず、端の壁まで蹴り飛ばされた。


「体内の電気信号を操り、反射に近いスピードでガードしようとしたようだが、それでも遅過ぎる」


 雷二郎は脇腹を押えて、立ち上がった。


「もういい。充分だ。お前はよくやった。俺は兄者のように甘くはない。ハンデもなしにお前が勝つのは不可能だ。殺さないように力をセーブしてるからやり辛いのだ。ギブアップしてくれ」


 一花には、雷二郎がギブアップしない理由が分からなかった。

 勝負の世界から逃げたんじゃなかったの? トウセンは超一流。勝てる見込みのない相手と勝負しなくてもいいじゃない。エンド条件がクリアできなくても、ゲートを探せばいいだけなのに。


 雷二郎は空に向かって手を挙げた。闘技場の上に巨大な黒雲が集まり始めた。


「止めろ、無駄だ」


 黒雲は、巨大な柱と見間違えるほどの雷をトウセンに落とした。

 光が消えた。トウセンは先程までと変わらない姿で立っていた。トウセンの周りの地面だけが真っ黒に焦げていた。


「だから無駄だと言ったんだ。分からないか? 竜はどこを飛ぶ? どんな天候でも飛べる竜の鱗に雷が効くと思ったか? もういい加減諦めてくれ」

「悪いがもう少し付き合ってくれ。せめてちゃんと負けさせてくれ」


 その言葉を聞いて、一花はこらえきれなくなった。月夜から杖をもらい、叫ぶ。


「どうして? もういいよ。どうして勝負しようとするの? 勝負の世界からは逃げたんじゃなかったの?」


 雷二郎が顔を上げて、客席の一花を見た。


「弱い自分すら肯定してくれる人がいたんだ。兄貴よりスポーツはできない、将棋でもライバルには勝てない。そんな自分でも肯定してくれる人がいたから」


 一花は目頭が熱くなった。視界がにじんだ。


 ジャンルトリップ中、ずっと考えていた。ライは自分を必要としていないんじゃないかって。各ジャンルで四人をまとめたのはライだった。戦略を練ったのもライだった。それに比べて私は、ピアノを弾くかどうか迷っていただけ。ライにだって悩みがあったのに。


 告白だって自分のエゴだった。私の気持ちを知ってほしい。ただそれだけのワガママだ。なのにライは私の言葉を覚えていてくれた。私の言葉は戦う理由にまでなっていた。


「そっちの雷小僧も根性あるじゃねえか。いいぞ、やれやれ。トウセンなんてぶっ飛ばしちまえ。あのすかし顔には俺もムカついてたんだ」


 イッキが雷二郎に声援を送った。客席からの声援も徐々に大きくなっていく。


「一花ちゃん、まだ何を言ったらいいか、分からない? 何を言ってもいいんだよ」


 一花は大きく深呼吸した。


「ライー、頑張れー。勝っても負けてもいいから、頑張れー」


 雷二郎は一花に手を振った。

 左肩は下がっているし、膝も曲がってる。顔は土だらけだ。でも一花は雷二郎の姿を目に焼き付けた。


「客席を味方につけても実力の差は埋まらないぞ」

「言う通りだよ。俺は飛車格落ちのあんたにも勝てないだろう。でもあんたの歩を一枚取るぐらいならできるかもしれない」

「ヒシャカク? 何を言っているのか、理解できんな。おい、そこの風小僧。お前も後でギブアップさせるつもりだから、今から二人がかりでかかってきてもいいぞ」


 風二郎はかぶりを振った。


「必要ない」


 一花は会話を聞きながら、雷二郎が将棋を打つ姿を想像していた。駒音が高く響いていた。

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