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双子×2のジャンルトリップ  作者: 仙葉康大
第一章
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面談 里山雷二郎の場合

「失礼します」


 椅子にかける前に「失礼します」と言った生徒は雷二郎らいじろうが初めてだった。しかし頭髪は、その礼儀正しさから考えられないような色をしていた。金色の髪は短く刈り揃えてあり、広いおでこの下には喧嘩を年中無休で売っている目があった。


 かつらは一瞬ひるんだ。が、すぐに思い出した。雷次郎は恰好かっこうが不良なだけで、優等生なのだ。おくすることはないと自分に言い聞かせる。


「この前の中間テスト、学年一位か。すごいな。よく頑張ってる」

「はい」


「何か気になっていることとか、悩みとかあるか?」

「ありません」


「学校が関係なくてもいいぞ。家庭のことでも、くだらないことでも」

「ありません」


 風二郎と違って、声音や表情から読み取れるものが少なかった。何も読み取らせないぞ、という姿勢だけは読み取れるのだが。


「君もアレだな。風二郎の言う『考える人』なんだな」

「兄が何か言ってましたか?」

「ロダンの『考える人』は、一人で考えることの虚しさを表現してるって」

「そうですか」


 雷二郎のポーカーフェイスは崩れなかった。

桂は話題を変えることにした。


「梅ばあの話だと、推理小説を好んで読んでいるそうじゃないか」

「はい」

「でも十冊に一冊のペースで恋愛小説が入る」

「いけませんか? 恋愛に興味があってもおかしくはないでしょう。思春期ですから」


 雷二郎は他人事のように答えた。顔色も声のトーンも依然として変わらなかった。

 桂は別方向へ話のかじを切った。


「四人とももう部活に入る気はないのかな?」

「少なくとも僕と兄は。一花いちか月夜つくよについては、本人たちに直接尋ねてください」

「もったいないな。それぞれ秀でたものがあるのに」


 桂は担任として、小学生だった頃の情報にも目を通していた。


 雷二郎はいくつもの子供将棋大会で優勝していた。将棋だけでなく、囲碁とチェスでも輝かしい戦績を残していた。しかし雷二郎は囲碁将棋部に入らなかった。独自にプロを目指しているわけでもないらしい。


 一方、風二郎はスポーツの世界ではちょっとした有名人だった。


「将棋はもう止めたんです。思い知りましたから」

「何を?」

「才能のなさを、です」


「そんなに簡単に分からないだろう。君はまだ若いんだし」

「簡単に分かったわけではありません。あれだけの勝利を収めた上で、分かったことです。それに、若さに希望を詰め込むのは無責任です」


 雷二郎の声が数段低くなった。一語一語()みしめるような言い方だった。鋭い目と目の間には、縦ジワが刻まれていた。


「すまなかった」

「いえ。僕の方こそ取り乱しました」


 雷二郎は元の調子に戻っていた。


「大人だな」

「まだ十四歳です」


 桂は心に刻んだ。この子たちはまだ十四歳なのだ。疾風怒涛しっぷうどとうの時代。


「まあ、困ったら俺でも、梅ばあでも、兄貴の風二郎にでもいいから相談しろ。ホームズほどの名探偵でもワトソンが必要だったんだ」

「よく分かります」


「次は雪岡ゆきおかさんを呼んできてくれ」

「どっちのですか?」

「君が愛してる方を呼んできてくれ」


 雷二郎が立ち上がって桂を見下ろした。瞳に氷のような冷たさを宿していた。


「五十音順で、一花を呼びますよ」

「はい。お願いします。からかってごめんなさい」


 桂の声がこんにゃくのように震えた。


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