表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子×2のジャンルトリップ  作者: 仙葉康大
第六章
29/37

ファンタジー 里山風二郎の場合

 風二郎ふうじろう雷二郎らいじろうは何もできなかった。


「離れてろよ」

「邪魔だから何もするな」


 そう言うと、イッキとトウセンは流れるように竜を倒してしまった。板前が魚をさばくみたいに。

 トウセンは国王と話し込んでいた。一方、イッキは二人のもとに駆け寄って来た。先程切った竜の血を浴びて、赤い体表がところどころ緑色に染まっていた。


「悪いな、俺らの身内が迷惑かけちまって」

「あいつらはいったい何だったんだ?」


「空賊だよ。王族とか誘拐して、多額の金銭や万能薬のレシピや禁魔術の解除コードとかを要求するんだ。竜を使ってるなら、成功率は八割を超えるだろうな。竜の頭に乗ってた奴らは竜を従えるぐらいに強い奴らだし」


「でも、そいつらよりあんたたちの方が強かった。なあ、ライ、棄権する?」

「おいおい、棄権だなんてつれないこと言うなよ。ちゃんと手加減するって。トウセンもガキの命までは取らないと思うよ。多分」


 トウセンに呼ばれたイッキは国王のもとへ向かった。トウセンとイッキは頭を垂れて、謝罪し、国王はそんな二人に対し恐縮し切っていた。

 竜の死体の片づけが終わり、四人は再び対峙した。


「えー、ハプニングもありましたが、大丈夫のようです。イッキとトウセンが国王になったとき、この国に踏み込む勇気のある空賊は果たしているのでしょうかー。風二郎、雷二郎コンビも死なない程度に頑張ってください。では、時間も押しています。決勝、スタート」


 開始と同時にトウセンが突っ込んできた。風二郎は突風をトウセンにぶつけたが、トウセンのスピードは全く衰えなかった。雷二郎の落雷すら、涼しい顔で避けていた。

 トウセンは風二郎には目もくれず、雷二郎の胸ぐらをつかみ、西入場ゲートの方へ投げた。


「じゃあ、風小僧。お前は俺とだな」


 イッキの目が笑っていた。


「よっしゃあ。せめて一発入れるぜ」

「元気がいいじゃないか。なら、そうだな。俺に一撃入れることができたら小僧の勝ちでいいぞ」

「ホントに?」

「あくまで俺との勝負は、だがな。トウセンの方は何とかするんだな」

「なら問題ない。あっちはライがやる」


 イッキは不敵に笑った。


 風二郎は風を全身に巻き付かせ、よろいのようにした。風を自在に操り、低空飛行で突進する。

 同時に風二郎はイッキの背後から鎌鼬を仕掛けていた。しかし鎌鼬はイッキの赤い体表に当たると、力を失い、風の刃はほどけていった。 


「え?」

「竜の鱗をなめるなよ、小僧」


 風二郎が方向転換しようとしたそのとき、既に拳が迫っていた。衝撃が腹から全身に走った。二十メートルはぶっ飛ばされた。口の中に入った砂を吐き出すと、一緒に血が飛び出た。


「大丈夫か? 無理はするなよ。風の鎧がなければ体が飛び散るぐらいの強さで殴ったからな。ギブアップするか? 声は出せるか? ギブアップする意思があるなら、右手を挙げてくれ」


 風二郎は痛みに身をよじりながら、かつて感じた痛みのことも思い出していた。小学生の頃、風二郎はあらゆるスポーツを得意としていた。大会があるたびに必ず助っ人として呼ばれた。風二郎の技能は色あせることなく輝き続けた。優勝、優勝、新記録、また優勝。


 しかし、風二郎が活躍すればするほど、他の選手がかすんでいくのだ。真面目に、一つの競技を一筋に頑張ってきた選手が。


 次第に風二郎は、相手チームからも味方チームからも煙たがれていった。風二郎が入ったチームは全てワンマンチームになってしまった。チームプレーなしで勝ち進める限界は思っていたより、早く来た。サッカーの地区大会、準決勝で敗退した時、チームメイトは風二郎に笑顔を向けた。


「これで分かっただろ」

「いい気味だ」

「調子に乗ってるからだ」


 笑顔はそう語っていた。

 風二郎はスポーツを全て止めて、気ままに過ごすことを選んだ。

 立ち上がりながら、問う。


「イッキ。あんたそんなに強くて辛くないのかよ? 卓越たくえつした力を持ってても、周りから嫉妬されるだけだろ? 独りになるに決まってる」


 イッキは鼻から黒煙を吐いて笑った。


「確かに強大な力は嫉妬を生むし、恐れられる。凡庸ぼんような者達とは自然にみぞもできる。しかし、俺は独りにはならん。トウセンがいるからな」

「そうか。うらやましいぜ。俺には誰も――」

「私がいるよ」


 客席から声が聞こえた。毎日、聞いてきた声だった。鈴の音よりも凛としていて、芯が通った声だった。月夜つくよが解説者からマイクの杖を奪ってしゃべっていた。


「私がいる。フウ君みたいにスポーツ上手くはないけど、凡人だけど、私が傍にいる。それじゃあ足りないの? 私も一花いちかちゃんもライ君だっている。だから、フウ君はもう進んでいいんだよ。立ち止まらなくてもいいんだよ」


 客席の誰もが月夜の声に耳を傾けていた。

 風二郎は背筋を伸ばした。胸を張る。袖で口元の血を拭う。


「もう一度問おう。ギブアップするか?」

「いや、ギブアップはしない。勝つよ」


 風二郎は飛び上がった。観客席すれすれを飛んだ。


「誰かー、剣、貸してくれー」


 ロングソードが二本、風二郎めがけて飛んで来た。


「使って」


 風二郎と雷二郎が二回戦で戦ったことになっているエルフの女剣士が手を振っていた。


「サンキュ」


 風二郎は剣を抱えて、高く高く舞い上がった。真下にいるイッキに向けて剣を投げつけた。剣に続いて自身も落下攻撃を仕掛けた。


 イッキは易々と剣を躱し、風二郎の攻撃に備えた。


 風二郎は急旋回した。風二郎の背後に隠れていたもう一本の剣がイッキを襲う。剣はイッキの右腕をかすめた。風二郎はすかさずイッキの斜め後ろから、顔めがけて殴りかかる。


 イッキの目が風二郎を捉えた。イッキは瞬時に体勢を立て直し、風二郎と向き合った。風二郎は直観的に、自分の拳が届くことはないと悟った。ヒットまでまだ一秒以上かかる。


「ウオオー」


 でも拳を止めなかった。

 次の瞬間、拳に硬いものを感じた。イッキの頬だった。


「見事だ、小僧」

「どうしてだ? 避けれたはずだろ」

「受けてみたいと思わせた小僧の勝ちだ」


 闘技場が湧いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ