ファンタジー 雪岡月夜の場合
月夜と一花は状況に順応し始めていた。今では戦いを楽しむ余裕すらあった。中でも竜人族二人の戦いは一際異彩を放っていた。
「先程決勝進出を決めた風二郎、雷二郎に続き、準決勝を快勝したのはこの二人、竜人族の生ける伝説、イッキとトウセンだー。まさに敵なし。今回も手持ちの武器を一切使いませんでした」
ただのアッパーパンチで巨人族の二人を倒してしまった。
「すごいなあ、あの二人」
「月夜、あんた分かってる? ライとフウは決勝であの二人と戦うことになったんだよ」
月夜は青ざめた。
「そうだった。多分、このジャンルのエンド条件って優勝だよね。どうしよう?」
「フウとライもけっこう強いけど、あの竜人族は格が違い過ぎるね。エンド条件は諦めてゲートを探すしかないんじゃない」
竜人族の二人は勝利者インタビューを受けている。
「姫様たちは風小僧と雷小僧を偉く気に入ってるみたいだけど、実は俺もあの二人とは戦ってみたいと思ってたんだよね」
「トウセン選手はどうでしょうか? 決勝で当たる相手について何かありますか?」
「相手が子供だろうと油断も容赦もしない。それだけだ」
「硬いってトウセン。せっかくなんだから楽しめよ」
「お前が軽すぎるだけだろう」
イッキとトウセンは口論を始めた。解説者は慌ててインタビューを切り上げ、月夜と一花に話をふった。
「姫様たちはどうでしょうか? 決勝戦への期待は? 自分の結婚相手が決まるわけですが」
二人はすでに事情を理解していた。この大会には国の王位継承が関わっているのだ。
「竜人族のお二人は何だか、フウ君とライ君に似てるなって思いました」
「あー、私も。イッキさんは風に似てて、トウセンさんはライに似てるよね」
「似た者同士の面白い決勝になりそうです。昼の休憩を挟み、決勝は十三時からになりまーす。遅れるなよー」
解説者は杖を床に置いた。
「王様、姫様方、大会二日目、午前の部、お疲れ様っす。昼飯ももうすぐ来るんで、てきとうによろしくっす」
二人は解説者の王様に対する態度の軽さに驚いたが、王様も怒っていないようだったので、敢えて突っ込まなかった。
「ウム。解説ご苦労であった。娘たちよ、体調は大丈夫か?」
「ハイ、桂先生」
「月夜、先生じゃなくて、国王、いや父上とか?」
「何をおかしなことを言っておる。熱気にやられたか? おい魔法師」
後ろに控えていた人たちが何やら呪文を唱えると、解説者、国王、月夜、一花の四人を囲むように水柱が飛び出た。
「涼しい」
「西大陸で最高の透明度を誇るザビエル湖の水を呼び寄せました。リラックス、美容、疲労回復などなど、様々な効果があります」
魔法師が解説した。
水柱が消えると、代わりに料理の載ったテーブルが現れた。
「では頂こう」
テーブルいっぱいに並べられた料理すべてを食べることは不可能だった。月夜は海藻サラダとそうめんのような細い麺を食べながら、あることを考えていた。
「あの、王様。王様もこの大会で優勝して王になったのですか?」
「何を言っておる? 話したことがあろう。世継ぎの男が生まれなかったときだけ、王位継承大会は開かれる。わしはもとよりこの国の世継ぎとして生まれた。だから大会で優勝して王になったのではない」
「新しい王を肉体的な強さで決めてしまっていいんですか?」
「武力は血筋の次に大事であるからな。平和の為には圧倒的武力も必要なのじゃ」
「でも武力だけじゃダメな気も。頭だってそれなりに必要なんじゃ」
一花が会話に入った。
「おお、それは心配いらぬであろう。イッキはともかく、トウセンは名参謀として大陸に名を轟かせておるぞ」
「なんで竜人のあの二人が優勝することが前提なのよ」
言いながら、一花はカニの足を折った。
「あの二人はその名の通り一騎当千。いやそれ以上であろう。風神と雷神の子孫であるとは言え、血を八分の一しか継いでおらぬ者たちには倒せまい。そもそも竜王が風神と雷神を殺したという伝説まである」
「そんなのやってみなくちゃ分からないじゃない」
「一花ちゃん、さっき格が違い過ぎるからゲート探した方がいいとか言ってたのに」
月夜は苦笑した。
=========================================
試合の時間を告げるラッパが高らかに鳴り響いた。ファンファーレと共に、風二郎と雷二郎が入場してきた。
「今大会のダークホース、風二郎と雷二郎の入場だー。竜人族相手にどこまでやれるのかー」
反対側からはイッキとトウセンが入場した。
「優勝はほぼ確定かー? 二人は剣を抜くことなく、槍を振るうことなく今大会を制覇するのでしょうかー」
四人は中央で向かい合った。何やら話をしているようだった。
一花は後ろの護衛部隊を振り返り、言った。
「ねえ、何話してるの? 音、拾うことできない?」
「ウム。わしも気になるぞ。聴覚系の魔法をかけてくれ」
突然、四人の会話が聞こえてきた。
「で、どっちが俺と戦う? グーパーじゃんけんして決めるか?」
「一対一で戦わなければならないなんてルールはないはずだ。そもそも戦う相手を決めていたとしても、手の内は明かさない」
「兄者、この雷小僧の言う通りだ。だが、雷小僧は俺が担当しよう。少しは頭を使えるみたいだからな」
「なら、俺はこっちの風小僧か。よろしく」
「よろしく。いやー、あんたたちすごいよ。少し手加減してくれない? このままだと俺ら勝ち目ゼロだから」
「何言ってんだ? 手加減ならずっとしてるんだぜ。死人を出さないように俺たち滅茶苦茶気を使って――」
突如、闘技場の半分が大きな影に覆われた。
四人は中央から散開した。
頭上から降りて来るもののあまりの現実味のなさに、月夜と一花は思考を止めた。エメラルドのような緑色の体表、人間を一気に五人は貫ける長さと切れ味の爪、見る物を金縛りにするような鋭い目。竜が闘技場に舞い降りたのだ。観客は悲鳴を上げ、散り散りに逃げ出そうとしていた。
竜は月夜たちの席へ頭を近づけた。王の後ろにいた護衛団は竜の鼻息で吹っ飛ばされた。竜の頭には黒いマントを被った者たちが十数人、乗っていた。
国王は目を大きく開けて、震える声で言った。
「空賊が何の用だ?」
「我々の目的は――」
言葉が途切れたのは、首が飛んだからだった。男の首を飛ばしたのはトウセンだった。試合では決して使わなかった槍で、竜の頭に乗っていた十数人を瞬く間に倒してしまった。
「竜の尻尾からここまで登って来たのか?」
「国王、しばしお待ちを」
トウセンの槍はさらに長く伸び、竜の鼻の上から、口を通って、顎までを一突きし、串刺しにした。口を塞がれた竜は痛みに首をひねった。そこをイッキの大剣が躊躇なく一刀両断した。首を切られ、竜の巨体は力なく倒れた。
噴煙の中、大剣と槍を持った竜人のシルエットが二つ、浮かんでいた。




