ジャンル4 恋愛
里山兄弟の寝室、雪岡姉妹の寝室、そのどちらにも朝日が差し込んでいた。
四人は目を覚ました。
風二郎は時計を見て、二度寝することを決意した。ジャンルトリップのことなど頭になかった。
雷二郎は確認しなければならないことを、頭の中でリストアップしていた。まずは梅ばあと会わなければと思った。
月夜は辺りを見回すと、肩の力を抜き、息を吐いた。
一花は、これまでの旅はすべて夢だったのかもしれないと思った。喜べいいのか、残念がればいいのか分からなかった。
雪岡家の朝食はパンと決まっていた。トーストかロールパン。たまにホットサンド。
「おはよう」と顔を合わせた二人はあまりに自然な朝の訪れに戸惑いながらも、トーストに好みのジャムを塗るのだった。
一方、里山家の朝食は米が基本だ。おにぎりにしたり、明太子と一緒に食べたり、お茶漬けにしたり。今日はおにぎりだった。
「何やってるの、雷二郎。風二郎を起こしてきて」
頭を空っぽにしておにぎりを食べていた雷二郎は、母にそう言われた。
「おい、兄貴。朝だぞ」
布団を引きはがす。
「そろそろ起きるかー」
風二郎は上体を起こして腕を上げ、大きく伸びをした。
「なんか、眠った気がしないなあ」
「帰って来たみたいだぞ。現実に」
「どこから?」
「もう忘れたのか? ゾンビに追い回されたり、火星人と戦ったり、猫を探したりしただろ」
「ああ、ジャンルトリップね。もう戻ったのか。よかったじゃねえか」
雪岡家から里山家までは徒歩三十秒の距離だ。両家は道路を挟んで向かい合っていた。
ちょうど家を出るのが一緒になって、四人そろって登校した。
「今日の日付はジャンルトリップに飛んだ日から大きく離れていない。飛んだのが七月四日の金曜日。今日は七日の月曜日。無事、戻って来れたみたいだ」
「よかったー。もうあんなのこりごり」
「俺はけっこう楽しめたけどなー。月夜はどうだ?」
「私は、分かんない」
雷二郎だけは道路や人々の様子を細かくチェックしていたが、あまりに見慣れた光景に、青葉中学の門をくぐったときには警戒心は解けていた。
朝のホームルームが始まる頃には、四人は戻って来た日常に浸り、顔をゆるませていた。
「そういや、かっちゃんもいろんな役やらされてたよなー」
「ゾンビと司令とホームズだったね」
「あのゾンビだけはやめて欲しかったわ。トラウマ」
「俺はホームズが嫌だった。本物と全然違う」
「あのなあ、君たち。ホームルーム中は休み時間と違うんだぞ。いつもはおとなしい月夜さんや雷二郎までどうしたんだ、今日は」
「えー、私だって普段からおとなしいよ。その言い方じゃ、フウと一緒になっていつも騒いでるみたいじゃない」
「まあまあ、一花ちゃん」
昼休み、四人は南教棟四階端の第二図書室へ向かった。
「これであとは終業式だけ。それで夏休みだー」
「フウ君、まだ終業式まで二週間もあるよ」
「今年もプールとか海とか四人で行く?」
「多分行くことになるんだろうな。他にすることもないし」
「なんで嬉しそうじゃないの?」
「いや、あまりいい思い出がないからな」
「ライ君はフウ君に付き合わされて、へとへとになるもんね」
「あー、なるほど」
会話に終止符を打ったのは、廊下の壁だった。第二図書室があった場所には何もなかった。空き教室から先には、行き止まりの廊下があるだけだった。
「あれ? 階間違えた?」
「そ、そんなはずないよ。他の教室は四階にある教室なんだし」」
「てことは?」
「どういうこと?」
一花が首を傾げた。雷二郎はすぐに次すべきことを考えた。
「第二図書室はない。梅ばあは? 梅ばあがどこにいるか訊きに行こう」
職員室まで行き、桂に尋ねると、
「梅ばあ? 誰のばあちゃんだ?」
という答えが返ってきた。
「第二図書室なんてものもないんですよね」
「もちろん」
「失礼しました」
四人は職員室を出て行こうとした。
「あ、お前ら。朝、様子がおかしかったけど、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないかも」
一花が呟いた。その呟きは他の三人の気持ちも代弁していた。
一日の授業が終わり、ひとまず家に帰ることにした。下校中、雷二郎は状況を整理していた。
「第二図書室はない。梅ばあもいない。つまり、ここはもとの世界じゃない。他に何か変化はあったか?」
三人は首を振った。
「仮に今もジャンルトリップ中だとしたら、考えられるジャンルは? 日常もの? ノンフィクション?」
「あと、恋愛?」月夜が補足した。
「普段の私たちの生活を壊さなくてもできるジャンルってことね」
「で、いつも通りエンド条件は分からない、と」
四人は次第に無口になっていった。朝よりも足取りが重たかった。
「とりあえず、今日は休もう。この先も旅が続くならこういう安全なジャンルのときに休んでおかないと。一日経てば状況も変化するかもしれないし」
雷二郎は自分が言ったことに疑問を持った。
本当に安全なのか? このジャンルが一番危ないんじゃないのか? 第二図書室も梅ばあもいないこの環境に慣れてしまえば、俺たちはこのジャンルを出たいとすら思わなくなるかもしれない。




