表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子×2のジャンルトリップ  作者: 仙葉康大
第一章
2/37

面談 里山風二郎の場合

「かっちゃんは悩みとかあるわけ? 俺で良ければ話聞くけど、何しろこっちはまだ十四年と何か月かしか生きてないわけ。人生経験が溜まってないのよ」


 風二郎ふうじろうは歯切れよく、テンポよくしゃべっていた。ムードメーカーな風二郎はクラスでもこの調子だった。


「かっちゃんじゃなくてかつら先生だろ。それに俺の悩みはいい。先生って職業は生徒に悩みを見せちゃいけないんだ。過酷なんだ」


「だからそんなゾンビみたいな目してるの?」

「そんなに隈ひどいか? いや、じゃなくて実際どうなんだ? 何もかも順調なのか?」


 風二郎はロダン作『考える人』のポーズをとった。成長途中の体格では様にならなかった。


 桂は「ふざけるなよ」と言おうとした。しかし、言えなかった。風二郎の目は虚空の一点を凝視していて、二人の間にはぎ澄まされた空気が醸成じょうせいされていた。


「ロダンはさあ、あの像で何を伝えたかったと思う?」

「考えることの大切さとかだろう」


「俺は違うと思うんだよね。きっとロダンは一人で考えることの虚しさを伝えたかったんだよ。『考える人』は考えているようで、思考はぐるぐると同じところを回っているだけ。一人だからスパイラルから抜け出せない」


「なんだ、自分の考えを持てているんじゃないか」


 桂は自身の口角が上がるのを感じた。

 周りに流されるだけでなく、独自の考えが持てる。中学生としては満点だ。


「人は気づいたら『考える人』みたいに一人になってるんだ。悩みが重大であればあるほど、打ち明けにくいものだから」


 桂は両肩が重たくなった気がした。


 風二郎の唇から生まれる言葉はブラックホールのように桂を引きつけた。現在の桂だけでなく、学生だった頃の桂をも引きつける求心力を持っていた。桂自身、教師に真の悩みを打ち明けたことなどなかったのだ。


 風二郎の肩が噴火をこらえる火山のように震えた。


「プッ、ハハハ。なーにシリアスムードになっちゃってんの? かっちゃんよお。いやー、それっぽいこと言ってみるもんだわ。俺が胸に悩みを秘めた、傷つきやすい十四歳に見えた?」


 桂は名簿で風二郎の頭頂部を軽く叩いた。


「もういい。お前との面談は終わり。次、雷二郎呼んできてくれ。あと、来週の期末テスト、数学で赤点取るなよ」

「分かってるって」


 風二郎は笑っていた。しかしそれは表情筋を無理やり動かして作った笑いに見えた。

 風二郎が出て行く直前に、桂は再び口を開いた。


「『考える人』はもともと『地獄の門』っていう作品の一部だったんだ。地獄の門はダンテの『新曲』地獄篇に出て来る。中学生には難しいかもだけど、『新曲』呼んでみたらどうだ? うめばあから聞いたぞ。最近、よく本を読んでるって」


「気が向いたらな。サンキュー、かっちゃん」


 教室に一人残された桂は呟いた。


「桂先生だ。バカヤロ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ