SF 里山雷二郎の場合
雷二郎の頭の中では、会議が開かれていた。
「まず火力とスピードが違いすぎる」
「飛車角落ちで勝てる相手じゃない」
「次のジャンルに移りさえすればいいんだから、無駄な戦いは避けるべき。たとえ誰が犠牲になっても構わないじゃないか。あくまでこのジャンル内の争いだ。俺たちの生きる現実とは関係ない」
抗議の声は多数あった。
それでも、雷二郎は風二郎の提案に乗った。
二機のエイジー47は、敵の放つビームを次々に相殺していた。
一花は目を細め、敵機に標準を合わせている。
「ライってやっぱり優しいよね」
「火星人を倒すのがエンド条件かもしれないと考えただけだ。それにここで奴らを倒さなければ、基地に戻っても基地ごと破壊されるかもしれない」
「照れ隠し?」
「うるさい」
月面軍も地球軍もまだ退却が完了していなかった。しかし、そろそろ攻撃に回っていい頃合いだろう。
「兄貴、作戦を伝える。これから通信はずっと入れたままにしておいてくれ」
「撃ち落せ。月夜、お前ならできる。諦めるな、撃て撃て。おしい」
「おい、聞いてるのか?」
「はいはい、何でしょう?」
「一機ずつ落とすぞ。追尾型のビームは赤色、それ以外は青色だ。速度はこちらより出るようだが、小回りを効かせて逃げれば大丈夫だ」
ビームをかわし、一息ついて、続ける。
「一花、敵の機体をナンバリングしろ」
センサーに映っている光点に1から4までの番号がふられていく。
「このデータを共有し、一機を集中して攻める」
「同期及び共有、完了したよ」
「ナンバー3から撃ち落す。一番動きがとろい機体だ」
ナンバー3はほとんど動いていなかった。攻撃もでたらめで、考えなしにビームを撃ちまくっている。
エイジー47両機は、左右から挟撃し、敵の攻撃を潜り抜け、ビームを浴びせた。黒い機体は呆気なく爆発した。
「やったぜ。楽勝」
「調子に乗るな、兄貴。次、ナンバー1を狙うぞ」
ナンバー1はとにかく速かった。接近して近距離から攻撃するスタイルで、一番多く地球軍と月面軍の機体を破壊していた。
「来たよ、フウ君」
ナンバー1が風二郎たちの機体に急接近した。後方からビームを連射してくる。風二郎は急旋回を連続で行って、攻撃を避けた。
「ライ君、逃げながらじゃ狙いが定まらないよお。当てるのは無理かも」月夜が訴える。
「分かった。こちらで仕留める。攻撃を相殺することに集中してくれ」
「は、はい」
「一花、やれるか?」
「やらないわけにはいかないじゃない。月夜の命がかかってるんだから」
「おい。俺もいるからな、バカ」
方向転換を繰り返すエイジー47、それを追う敵に狙いを定めるのは、難しかった。
「兄貴、座標3―5―50に敵を誘導しろ」
「了解」
雷二郎は、指示した座標を狙えるポジションに機体を移動させた。
「一花、俺の合図で撃て」
どのタイミングで風二郎が敵を連れて来るか、手に取るように分かった。だてに十四年間一緒に暮らしてきたわけじゃない。
「今だ」
一花の放ったビームは吸い込まれるようにナンバー1に命中した。コックピットに当たった。一発で大破だ。
「ざまみろ、タコ」
「ちょっと、フウ。タコっぽい外見してるかどうかなんて分かんないでしょ」
「火星人ってどうしてタコのイメージがあるんだろうね」
雷二郎は操縦桿を手放して頭を抱えたくなった。
「お前たちは何でそうなんだ。緊張感のかけらを拾い集めろ、バカども」
戦場は刻々と変化していた。退却は完了し、残っているのは火星人の機体ナンバー2とナンバー4の二機とエイジー47二機だけだった。
雷二郎は機体の操縦に集中していた。敵機は無駄のない動きで、時に攻め、時にこちらの攻撃を回避していた。
「どうするんだ? こいつら上手いぞ」
「今、考えてる」
雷二郎は眉間にしわを寄せた。
上手の相手と勝負するときは、飲まれてはいけない。相手より自分の方が上だと思い込む。それが勝負の鉄則の半分だ。もう半分は驕りを捨てること。敵機には驕りがある。旧型の戦闘機には負けるはずがないという驕り。付け入る隙はそこだ。
「月夜、小型ミサイル、持ってるな」
「うん。まだ二発残ってる」
「充分だ。兄貴、敵一機を引きつけろ。一花と月夜はミサイルの発射準備をしておけ。俺の合図で発射だ。ターゲットはお互いの小型ミサイル」
「あー、俺、ライの考えてること何となく分かったかも」
「タイミングが命だ。兄貴は――」
雷二郎たちの機体にビームがかすった。右翼がわずかに損傷した。
これで最高速度は出せなくなった。一か八かに賭けるしかないのか? それとも作戦を変更した方がいいのか?
迷っている間も敵は攻撃をやめてくれない。
雷二郎はある言葉を思い出していた。それは将棋大会の決勝で雷二郎を破った相手が言った言葉だった。
「井の中の蛙は大海を知らない方がいい。泳ぐのが嫌いになるぞ」
そいつは中学生になって半年でプロになった。
「ライ」
背中を叩かれた。
「ライならできるよ。私が保証する」
一花の方を見る余裕はなかった。だから余計に、きれいな声が耳に残った。
「すまん」
「こういうときはありがとう」
「ありがとう」
「熱いぜ、ヒューヒュー」
「フウ君、からかわないの」
通信をつないだままだったことを思い出し、赤面する。
「おい、指示出すぞ。兄貴たちは座標5―40―30でUターンして、5―30―10へ向かってくれ」
二機のエイジーはそれぞれ反対の方向へ飛んだ。後ろから敵機が迫る。
あるところまで行くと、エイジー両機はUターンした。そして二つのエイジーはある一点を目指して互いの距離を縮めていく。敵はまだ追ってきている。
「今だ、ミサイル発射」
二つのミサイルが座標5―30―10で衝突した。爆発が起こり、煙が綿あめのような形で滞留した。
「兄貴、煙の中へ突っ込め。三秒後、右に方向転換だ」
「アイヨ」
エイジー両機は煙の中へ突っ込んだ。真後ろに敵機が迫っている。煙の中でエイジー両機はそれぞれ進行方向に対し右に軌道を修正。ギリギリで衝突を避けた。エイジーを追っていた二機は、急な方向転換についていけず、激突した。
コックピットから見える宇宙には、星のように輝く文字が浮かんでいた。
Congratulation.




