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双子×2のジャンルトリップ  作者: 仙葉康大
第三章
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SF 雪岡月夜の場合

 大型宇宙空母ライカの上部に位置する発着場では、パイロットたちが各自発進準備を進めていた。

 青色ばかりの機体の中に、銀色に光る機体が一機あった。エイジー47だ。コックピットで、月夜つくよは、射撃用レバーを握ったり放したりしていた。


「緊張してんのか?」

「だって戦争だよ。人が死んじゃうかもしれないんだよ」

「ホラージャンルでは、人の死体がゾンビになって動いてたじゃん」

「それはそうだけど」


 ホラージャンルの話が出たので、月夜はあることを思い出してしまった。


「あ、あの、フウ君。ホラージャンルで屋上から飛び降りたとき言ってたこと覚えてる? あれって、その」

「え? 俺、何か言ってた?」

「覚えてないの?」

「さあなー、どうだったかなー」

「もういい」


 月夜は風二郎ふうじろうに背を向けた。

 私の聞き間違い? 空耳? いやそんなはずない。


「月夜、すねるなよ。お前がそんなんじゃ、誰も倒せないぞ。俺は機体コントロールしかできないんだから」


 月夜は気が重たかった。


「ねえ、フウ君。やっぱり撃たないと駄目なのかな? 人の命を奪うなんて、私、そんな勇気ないよ」


 物語の登場人物が死ぬのとはわけが違うのだ。


「シミュレーションでいくらできたって、実際に引き金を引く勇気なんてないの」


 風二郎は月夜の肩に手を置いて言う。


「なら撃たなくていいんじゃね? 俺が相手の攻撃、全部避けるよ。だから、撃たなくてもいい」

「でもそれだとフウ君の言う通り、敵機を倒せない。いつかやられちゃうよ」

「そのときはそのときだな。まあ、月面軍にはライと一花がいるから合流して、ライの作戦を仰げば何とかなる」


 月夜は風二郎の方に向き直り、頭を下げた。


「ごめん。臆病で。何もできなくて」


 月夜はホラージャンルでの自分を振り返った。

 フウ君の後についてただ逃げていただけ。最後もフウ君がいなかったらゾンビたちに溶かされていた。

 機内のモニターにかつら司令が映った。


「エイジー47、発進シークエンスに入れ。先発部隊の後に続いて発進するぞ」

「了解。かっちゃん、宇宙に出た後、先発部隊を追い越しちゃダメなの?」

「駄目だ。命令はそのまま守れ。パイロット月夜、パイロット風二郎が暴走しないよう、頼んだぞ」


 モニターの映像が消えた。

 発進シークエンスに入ると、風二郎は慌ただしくスイッチやレバーをいじり始めた。月夜は管制と連絡を取り、状況を確認した。


「いよいよだな。しょっぱなから飛ばして行くぞ」

「だ、だめだよお。先発部隊は追い抜いちゃダメだって桂司令も言ってたでしょ」

「そうだよなー、やめとこうかなー」


 ハッチが開いた。先発部隊二十機が宇宙へ飛び立つ。


「エイジー47、発進してください」


 風二郎が操縦桿そうじゅうかんを握った。風二郎の目玉は、いくつもの計器を同時に見ようとして、絶えず微動している。


 勢いよく大型宇宙空母ライカを飛び出ると、エイジー47は一気に加速した。みるみるうちに先発部隊との距離を縮めていく。


「フウ君、何やってるの? 駄目って言われたでしょ」

「ワーハハハ。とろい、とろい」


 先発部隊の間を縫ってエイジー47は一気に一番前に躍り出た。

 モニターに再び桂が映った。


「風二――」


 風二郎はすかさずモニターのスイッチを切った。


「かっちゃん、ちょい邪魔」

「フウ君っ」と月夜は声を荒げたが、風二郎は全く耳を貸さなかった。

「ちょっと寄り道しようぜ」


 風二郎は大きく予定のコースから外れた。最高速度近くまで加速すると、星々の光が幾千もの輝く線になって後ろへ流れていくような光景が見えた。

 突然、風二郎は操縦をオートに切り替え、減速した。


「ほら、見てみろよ」


 視界の端から端まで星、星、星。赤や青や緑の光を放っている。どの星も、自らの光を届けようと懸命にきらめいている。


「月夜に一つ、問題です。この星たちの中で一番駄目な星はどれでしょうか?」と風二郎はクイズを出した。

「え、それは、あ、そうか。見えてない星だよ。光が弱すぎてここからじゃ見えない星」

「ブッブー」

「どうして?」


「光が弱いなら近づけばいいだけだろ。ある星に近づいたら、他のある星から遠ざかる。そしたら、ここでは大きく光って見える星も小さな一点になるかもしれない」

「じゃあ、うーん。まだ人類が見つけていない、名前のない星とか?」


「ブッブー。名前なんてただの記号だよ。コロンブスやアメリゴ=ヴェスプッチがアメリカ大陸を見つける前から、あの大陸はちゃんと存在していて人々の生活もあっただろ。星だって存在していればそれでいいだろ。発見してないって言っても、地球人が発見してないだけで、他の宇宙人は発見して名前もつけてるかもしれない」


「そうだよね。でもそれじゃあ駄目な星なんてないんじゃない?」


 風二郎が月夜の目をのぞき込み、破顔した。


「正解。見る人の立ち位置によって評価なんて変わるし、名前がなくても、目立たなくても、地味でもちゃんと見てくれてる人や宇宙人がきっとどこかにいる。月夜も同じだよ」

「私も同じ?」


「臆病だとか、何もできないとか、そんなのどうでもいいんだよ。俺から見た月夜はすっごくいい奴で、優しい奴で、面白い奴だ。俺はちゃんと月夜のこと見てるから、いちいち自分が役に立ってるかとか、自分が存在してる理由は? とか考えなくていいの」


 不意に頭を撫でられた。

 フウ君の手は大きくて、皮がざらついていて、温かかった。


「ありがとう、フウ君」


 エイジー47は旋回し、作戦に復帰するため、速度を上げていく。


「そういえばさ、月夜」

「何?」

「プールに突っ込むとき、あのとき、『私も』って言ってくれたけど、あれ、本当?」


 月夜は顔に血が上って来るのを感じた。


「もう。ちゃんと覚えてるじゃん。フウ君の嘘つき」


 風二郎は馬鹿みたいに笑いながら、機体の速度をさらに上げた。

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