ジャンル2 SF
「パイロット雷二郎、パイロット一花。聞いているのか。次の訓練はより実戦に近い、リハーサルともいえるものなのだぞ」
天井が光っている。ホールには、ミリ単位で狂いのない隊列が組まれてあった。百×百の隊列だ。二人は、列の一番前に立っていた。
「朝礼で寝ぼけるとは言語道断。いくら両名が特級パイロットであっても、許されないことである。罰として、その場での腕立て百を命じる」
壇上の男がそう言った。
雷二郎と一花は顔を見合わせる。
「どういうこと? 私たちなんでこんな場所に」
一花の言葉の途中で雷二郎が口を開いた。
「腕立ては二人で二百回ということにしてくれ。一花は体力のあるほうではない。今日一日の訓練に支障が出るのは、そちらの望むことではないはずだ」
「パイロット雷二郎の提案を承諾する」
雷二郎は目で一花に合図した。
結局、一花五十回、雷二郎百五十回の腕立てを行った。
「よろしい。では解散とする。各自持ち場へ急げ。故郷を取り戻す日は遠くない」
人々が四散した後、一花は雷二郎に礼を言った。
「ありがと。ねえ、これって」
「ああ。次のジャンルに行けたみたいだな。さっきの様子と俺たちが着てるこの服からして、ここはどこかの軍隊の基地みたいだな。軍隊が出て来るだけじゃよく分からんが、時代物やラブコメでないことは確かだな」
「また何かと戦わなくちゃいけないの? そういえば、今回のエンド条件とゲートヒントは? ていうかあの本は?」
「第二図書室に残したままだ。持ってくるべきだった。くそ。まあいい。それより何か体に違和感ないか?」
「あ、そう言えば、腕立てふせそんなにしんどくなかったかも。私、普段は十回しただけでもヘトヘトになるのに。どうしてだろう?」
ホールを出ると、通路の透明な壁面から、外が見えた。真っ暗な空には星が宝石のように輝いていた。その中でも一際目立つのが青い星だった。地球だ。眼下には大きなクレータがいくつもあった。そこは地球の重力の六分の一の世界だった。
「ここ、月? ということは」
「SFだな。サイエンスフィクション。少し不思議にしてはやりすぎだが」
一花と雷二郎は月基地ルナ2、第二万三百五十四通路で、初めて見る宇宙の光景に立ち尽くした。
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「着陸失敗。アンコントローラブル。原因はパイロット両名の操作ミスです」
ビービービーと鳴り響くアラート音に、風二郎と月夜は目を覚ました。
二人は飛行戦闘シミュレーション機の中にいた。シミュレーション機の上部が開いた。二人をのぞき込んだ人影を見ると、月夜は悲鳴を上げた。
「桂先生、駄目。変な液体かけないで」
「先生だと? ふざけているのか? パイロット月夜」
人影は桂竜馬だった。緑の軍服を着ており、襟にはいくつもバッジがついている。
「落ち着けよ、月夜。ゾンビじゃないよ。どうやらジャンルが切り替わったみたいだ」
風二郎と月夜は丸型のシミュレーション機から出て、辺りを見回した。フロアにはシミュレーション機が五十台ほど並んでいた。
「教えてくれよ、かっちゃん。俺はいったい誰で、あんたは誰なんだ?」
桂が片手を上げると、白衣を着た人たちが二人を取り囲んだ。
「意識の錯乱が見られる。医師たちによるチェックを受けろ」
医師たちは二人にペンライトで様々な色の光を当てた。
「異常ありません」と医師の一人が言った。
「今ので何が分かったんだよ」
風二郎は声を荒げたが、桂は冷静だった。
「さて、パイロット風二郎。君は記憶喪失のふりをして先程のミスをごまかすつもりなのかね。それとも本当に分からないのか?」
「もの覚えはよくない方なんだよ。知ってるだろ、理科と社会が苦手なの。数学はもっと苦手だけど。そういえば、月夜も暗記は得意じゃなかったよな?」
「フウ君、そんなこと言ってる場合じゃないよ。あの、ここはどこなんですか?」
桂は左右の眉がくっつくほど額にしわを寄せた。
「パイロット月夜まで何の冗談だ? まさか本当に。シミュレーション機の方もチェックしろ。二人とも質問に答えろ。頭を整理しろ。名前は?」
「里山風二郎だよ。面倒くせーな。こんなときライがいてくれたら上手くやてくれるんだろうけど」と風二郎は床を蹴った。
「雪岡月夜です」
「よし。年齢と職業は?」
「十四歳。学生だよ」
「ノー。間違っている。年齢はその通りだが、職業が違う」
「もしかしてパイロットなんですか?」
「そうだ。だが月夜、確信を持って答えていないようだな。何を操縦するのか言ってみろ」
二人は首をかしげた。
「ついて来い」
三人はシミュレーション室を出て、動く歩道に乗った。
「あ、これ知ってるぞ。空港にあるやつだ」
「私たち、飛行機のパイロットなのかな?」
桂は第三部隊隊長に連絡を取っていた。
「ああ。そうだ。記憶が飛んでる。使い物にならないかもしれない。それはできない。オンタイムで進める」
三人はブリーフィングルームに入った。
「ブリーフィングって?」
「説明とか指令とかを意味する言葉だよ。ほらあっちで何かそれっぽいことやってるよ」
中では何人もの部隊長が命令を受けていた。部隊長たちは入って来た桂に敬礼した。
「すげえ。かっちゃん、偉いじゃん」
「それよりこれを見ろ」
桂が壁に埋め込まれたモニターをタッチすると、画面に銀色の戦闘機が映った。二人は流星のように宇宙を飛ぶ機体に見とれた。
「わが地球軍で最高速度を誇る戦闘機、エイジー47だ。専属パイロットは君たちだ」
風二郎と月夜は絶句した。
「そして普段から口をすっぱくして言っていることだが、私のことはかっちゃんと呼ぶな。桂司令と呼べ。月基地への攻撃はもう明日に迫っているんだぞ。しっかりしてくれ。どうだ? まだ何も思い出さないのか? このままだと月面軍に負けてしまうぞ。どうすればいいんだっ」
「こっちのセリフだ」
「ねえ、フウ君おかしいよ。ライ君と一花ちゃんは? 二人はどこ?」
三人が混乱している今も大型宇宙空母ライカは月へ向かっていた。




