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迫る足音


 村人の集団が駆け抜ける。よほど切羽詰まった様子だった。派手にすっ転ぶ者もいれば、落とした箱をそのままに去って行くものもいた。

 それらが駆け抜けた後、クライツは茂みの後ろで立ち上がった。


「荷物より子供、だよなぁ」


 小さくなっていく集団の後ろ姿を見やる。道に戻り、落ちているものの物色をしはじめる。慧太けいたは同じく道に出た。


「かなり急いでいた」

「ああ。もう魔人の奴らがそこまで来ているんだろう」

「……その割には、あんたはノンビリしてるんだな」

「来ているって言っても、どうせ魔人は村を襲ってるんだろ」


 クライツは荷車からと落ちた箱の中身を漁る。


「まだ少しばかり猶予はあるさ。……けっ、食器かよ。金目のものはどこだ?」


 やってることは火事場泥棒だよな――慧太は呆れる。もともとクライツという男は、盗賊で生計を立てている人間だったわけだから、ある意味これが自然なのかもしれないが。


「とりあえず、金目のもの漁ったら、オレたちもおさらばしようぜ。……あ? そういや慧太。ついオレたちって言っちまったけど、お前はこれからどうするつもりなんだ?」

「どうって……」


 慧太は自身の黒髪をかいた。


「オレはこの世界のことをよく知らない。どこで何をすればいいのかわからんし、当然行くあてもない」

「なら、オレと一緒に行くか?」


 クライツは気楽な調子だった。


「人間じゃなくなった者同士だ。せっかく色々できそうな身体になったんだ。オレたちで面白おかしく生きてくってのはどうだ?」

「盗賊になれってか?」


 昨日まで普通の高校生だった身からしたら、泥棒はいけないこと。犯罪者の仲間入りするのは、いくら別世界に転移したと言ってもすぐに頷くことはできなかった。……こういう中世じみた時代の犯罪者って、捕まったら即死刑だったりするのだろう? それはごめんだ。


「……まあ、オレは盗賊やってきたから、そっちのことは教えてやれるけど」


 クライツは、移動しながらやはり落し物を物色し続ける。


「こんな身体になっちまったから、別の仕事を始めるってのも悪くないかもしれないな。殴り合っても怪我もしない身体ってんなら、荒事専門の用心棒とか傭兵ってのもできなくないかも」

「傭兵……」


 慧太は思わず呟く。……それなら盗賊よりも、まだマシに思えた。

 とはいえ、戦う訓練を受けていない身だ。盗賊らを喰らった影響で、多少武器の扱い方は頭の中に入っているが、彼らにしても専門の訓練を受けたわけでないようだった。


 だが働かないことには生きていけないのは、この世界だって同じだ。そして今頼ることができそうなのは、盗賊であるクライツという目の前の男だけだった。……それに案外、そこまで悪い人間ではないのは、やはり喰らった時にわかっていた。


「そういうことなら――」


 言いかけた時、遠くで獣の咆哮ほうこうとどろいた。

 それを耳にしたクライツは瞬時に身を伏せ、慧太もまたやや遅れて道に伏せた。

 狼とか虎とか、そういった猛獣を思わす力強い声。自然、周囲をきょろきょろと見回してしまう。


「今のは……?」

「さあな、オレも聞いたことがねえ」


 クライツは木箱の影に隠れるようにしながら、そっと覗きこむ。


「やべぇ、魔人のやつらだ。……こっちへ来るぞ」


 村人たちが逃げてきた方向から、武装した鬼やトカゲ顔の魔人が十数名やってくる。黒い馬のようなものにまたがった騎兵や、虎を一回り大きくしたような猛獣も連れている。逃げた村人らが落とした荷を見やりながら、粛々と進んでくる。おそらく慧太とクライツがいるあたりも、魔人たちの視界に入りつつあった。


「マズイ……」


 これ以上、近づかれたら連中に気づかれてしまう。いくら切られても刺されても平気な身体とはいえ、武装した魔人十数名のほか、魔獣を相手にしたら果たして――


「いま立ち上がったら見つかる……」


 立つなよ――クライツは伏せたまま、慧太のほうを見て言った。しかしその慧太は、伏せているとはいえ、遮蔽物に隠れていない。このままだとすぐに見つかってしまう!


「なあ、慧太。あの魔獣に食われたら、さすがにオレたちも死ぬんだろうか」


 クライツがそんなことを言ったが、当然ながら慧太にもそれはわからない。いや、いまはそれよりも――


「どうしよう! このままだと見つかる!」

「ああ、えーと、そ、そうだ! 何かに変身するってのはどうだ!?」


 半ばパニクりながらクライツが言った。慧太は首を小さく横に振る。


「変身? なにに?」

「そ、そりゃお前、石とか木とか……ええーい、んなもん、自分で考えろ!」


 石とか木――慧太は眉をひそめる。道の真ん中に木とか不自然だろ――他に何かないのか。


 じりじりと魔人兵らがやってくる。彼らが道に点在する荷物に気をとられていなければ、そろそろ地面に伏せている慧太に気づく頃だ。つまり、もう時間がない!


 ――ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ……!


 ダメだ、見つかる。慧太は頭を抱える。くそ、オレも何か隠れられる遮蔽物の陰に潜りこめていたら。だが今から立ち上がれば間違いなく見つかる!


 ――遮蔽物……?


 慧太は顔を上げる。道に落ちている村人たちの落し物。家財道具、箱、その他もろもろ。


 やってきた魔人兵の先頭が顔を上げ、伏せている慧太たちのほうを見やった。

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