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灰色の視界


 視界がぼやけている。


 見える景色が灰色なのは、空が曇っているせいなのか。

 視線が上下にぶれる。

 落ち着きがないのは、頭が重いせいなのか。

 おかしな感じだ。何やら無性に腹が減っている。喰いたい……クイタイ……。


 地面に向く視界。むき出しの地面が細い道を形成し、まっすぐ伸びている。土と、ところどころに石があって、正直道というには少しはばかられるが、周りは草が生え、数本の木が立っているから、そこは道なのだろう。


『――嫌だ! 死にたくない!』


 声が思考に割り込む。


『誰か助けてぇー!!』


 女の声。それに男の声。どれも切羽詰った声。どこか聞き覚えのあるそれらが木霊して、思考をかき乱す。――なんだこれ? 誰だ。いったいこれは何だ?

 思わず頭を抱える。


『いま、この城に魔人の軍勢が攻めてきています!』


 若い男の声。


『皆様のお力で、奴らを返り討ちにしてください!』


 やめろ――思わず声になる。

 無理だ、そんなことできるはずがない。何故なら、僕は……僕たちはただの高校生で、修学旅行の途中だったんだ――?


 僕は――ボクは……? 誰だ……?


 愕然とする。

 一瞬、視界の中で映像がフラッシュバックする。


 鬼のような顔をした屈強な戦士。ファンタジー映画で見るようなオークだかオーガだかに似た武装したものども。狼やトカゲの顔を持った亜人――いや、魔人か。それらが門を破って城内へ……。


 門? 城内……なんだそれは?


 思考深くを辿る。

 学生服姿の少年が、なにやら不審な動きで何もない宙をなぞる。――なにをやってるんだ?

 それは自分の声だったのか。それが聞こえたのか少年――クラスメイトだった川田は言った。


『異世界にきたんだから、きっとウィンドウとかスキルとかあるはずなんだ!』


 半泣きの顔でそんなことを口走る川田。そう、確か川田だ。クラスメイトの……。

 異世界? なんだそれ――お前は馬鹿か? そんなのは小説とかアニメの話だろう?


『ぎゃあぁぁっ!?』


 悲鳴というのはこうも酷いものなのか。視線をたどれば、首を跳ね飛ばされたクラスメイトの姿。

 数本の槍で串刺しにされ、祭りみこしのように身体を持ち上げられる同級生。

 何だこれ。……なんでこんなことに?


『あなた方は、別世界からこの世界に召喚された勇者なのです!』


 またも聞こえた声。


『その勇者の力で、魔人を倒してください!』


 何が勇者だ。僕たちはただの高校生だぞ――?


『助けてください! 殺さないで! たすけ――』


 トカゲ頭の魔人に川田が取り押さえられ、地面に倒される。魔人は斧を手に、まるでまな板の上の魚、その頭を落とすように構え――


「やめろぉっ!!」


 殴った。そう殴ったのだ。手にしていた棍棒をバットよろしく振りかぶり、そのトカゲの魔人を殴り飛ばしたのだ。


 無我夢中だった。


 視界に入る化け物どもを手当たり次第。だが所詮、素人。横から飛び込んできた一撃に殴り倒された。

 周囲を取り囲む魔人たち。そして遠くから聞こえる断末魔はクラスメイトのもの。

 目の前に黒いドロドロとした塊が這ってくる。スライムのようなその姿。だが次の瞬間、僕はその塊に頭から飛び掛られ――闇へと沈んだ。


 はづ、ち、けい……た。


 それが僕だ。僕の名前だ――

 あれからどうなったんだ? 僕は、生きているのか……?

 わからない。視界が歪む。頭が重い。何かごちゃごちゃと、よくわからない声のようなノイズが脳みそをかき回しているような感覚。


「……!?」


 遠くで何か聞こえた。声のような。聞いたことのない言葉――外国語だろうか。顔を上げたその時、突然胸倉をつかまれた。

 そこには、あごひげを生やした怖そうな顔をした男が立っていた。三十代……いや意外に二十代かもしれない。頭にバンダナを巻き、手には小さな斧を持っている。それを脅すようにこちらに見せつけ、何がしら言っている。


 ――ああ、これは……。


 たぶん、あれだ。強盗とか盗賊とかいうたぐいの人間だろう。

 だってここは『異世界』なんだろう……?

 ドクリと胸の奥がうずいた。


『クイタイ……喰いタイ……』


 それは自身の声だったのか。それとも別の何かだったのかわからない。

 だが次の瞬間、僕は、目の前の男に覆いかぶさるように飛び掛っていた。

 男の呆気に取られたような顔。化け物でも見て動けずにいるようなその顔が、僕の印象に残った。


どうぞ、よろしくです。

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