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飛鳥②

 飛鳥國は総じて長寿な傾向にある。

 15000歳とか30000歳生きる人もいる。

 だからバニラ・アイスクリームと姉のイチゴ・アイスクリームが450年ぐらい離れ離れになってはいたものの、それは今生こんじょうの別れではなかった。

 とはいえ、時間の流れはどの民族にも平等であるし、450年は450年であるので、本当に久しぶりの再会を果たした二人はお互いの姿を見た瞬間に泣いてしまった。

 ふたりは固く抱きしめあった。


 イチゴは妹のクリーム色の髪をなでてながら、涙でそれを濡らした。

 バニラも姉の胸のなかで泣いた。


「元気そうね、バニラ」

 イチゴは長い烏帽子からのぞかせるピンク色の髪をゆらしながら、慈愛の目で見つめた。


 イチゴは大膳識だいぜんしき大膳大夫だいぜんだいふという重職を務めており、めったに内裏だいりからは出ることができなかった。

 いっぽうバニラは「宙軍少将ちゅうぐんしょうしょう」という宇宙軍の提督ていとくであったので、そのあまりに違う職掌しょくしょうから、会う機会がほぼないのも仕方ないことであった。

 それが今回の特別任務で再会できることになったのだ。


「イチゴねーちゃん! これ、もってきたよ!」

 例の保冷ボックスをバニラは手渡した。

「まぁ! 久しぶりの九色ね!」

 イチゴは嬉しさに興奮した。

「わたしらの故郷でもほんとーにめずらしいもんね、九色のアイスクリーム!」


 イチゴとバニラは「アイスクリーム」という名字をもっている。

 それは故郷の惑星「アイスクリーム」が由来だ。

 天然のアイスクリームが獲れるので有名である。

 植物と極寒の自然が織りなす珍しい現象で、果実と氷と自然的な地盤の流動が自然のアイスクリームをつくるのだ。

 そして稀に多色のアイスクリームができる。特に七色は珍重されて「七色のアイスクリーム」として飛鳥國に有名だった。

 虹色の素敵な天然のアイスクリーム。しかしそれが更に稀に黒と白が加わった伝説の天然アイスクリームができることがある。

 数千年に一度発見されるような、それこそダイヤモンドができるなんかよりも珍しいものだ。

 まさに女皇の食卓にふさわしいデザートだ。

 それが今回バニラが急いで持ってきた「九色の天然アイスクリーム」なのである。

 大膳識だいぜんしきがその職権を行使して艦隊を動員するほど価値のある逸品。

 だからこそ、今回たまたまバニラと再会を果たすことができたのだった。

 バニラは時速1000光年のところを、手動でふかしにふかして、超とってもすごいスピードで輸送してきたのだ。


 その九色のアイスクリームを確認すると、イチゴはピンクの髪をふわっとさせて微笑んだ。

 イチゴアイスクリームと名付けられた由来になった、本当に映える髪の色だった。

「ありがとうバニラ! 本当に、本当によく届けてくれたわ!」

 会心の笑みで久しぶりに再会した妹に応える。

 女皇へのデザートが確実に一品決まるということは、そこまで大きな価値のあることなのだ。

 大膳識だいぜんしきという部署は、あらゆる手段を講じて最高の食材を女皇に供するところなのだ。


「で、バニラ、次の食材なんだけれど」

 にっこりとやわらかい瞳をかわいい妹に向けた。

「ちょ、まさか…鬼マグロとか言わないわよね?」

「あれはもう10尾ぐらいあるから大丈夫」

「あんなの10匹もいるの?!」

「小さめの惑星の体積とほぼ同じぐらい」

 バニラはその規模にあきれて絶句した。

「でねでね、今度の食材は、ぜんぜん大きくもなんでもないんだけど」

 イチゴは新たな食材にうきうきしながら話し出す。

 さすが大膳識のおさである。

「いったいどんなの?」

「えっと、ただのお米なんだけど!」

「お米ぇ?!」

「お米ほしいの。でもね、ちょっと遠いのよ」

「遠いっての? あたしたちの故郷だってひとっ飛びで来たけど」

「飛鳥國が最近領土にした、すっごい辺境で、端南っていうところの」

「端南っていうなら、行けなくもないわ?」

「そっからさらに南へ一万光年」

「うっそ」

「しかも最近領土になったので治安も保証されないかも」

「っていうかそこは飛鳥國の国境から、はみだしてない?」

「ええ。国内っていうか、国外にポツンとある惑星ほしみたい」

「なんていうところなの?」

「なんでも「地球」っていうそうよ」



 ◎◎ ◎◎ ◎◎



 文京区、本郷。

 未知のエリアでポツンと領地になっているのは、もちろん大聖がここの生まれだからであって。

 そうでなければ地球なんて宇宙のはずれの未開の地みたいなところなんてなんの価値もない。

 だから左近衛府さこのえふから転属してきたエリートの歩兵たちに24時間ガードされているのは、どんな事件があるかわからないから当然なのだという。


 そんな大聖は、久しぶりに赤門前にある学生向けの洋食店に行った。

「ゆきんこ、これが「どかんと鉄板」だよ!」

 スパゲティの上に牛肉焼きがドーンとのっかった、ジュウジュウいってる鉄板が運ばれる。

「おーっ」っと普段は声もなかなかださない彼女も、驚きの声をあげるほどのビッグサイズ。

 甘辛いスパイシーな焼肉の湯気があたりにたちこめる。いいにおい。

 大聖はゆきんこの服を汚さないように気を使いながら、アツアツのところを食べさせてやる。


 みゆき。

 飛鳥女皇あすかじょおうから赤ん坊で預けられて、三か月とちょっと。

 百日ぐらいか。


 みゆきことゆきんこは、もう幼児ぐらいの、2~3歳ぐらいの身体になった。


 そしておいしそうにアツアツの焼肉とスパゲティを焼肉のたれにからませたやつを、ごはんとからめてはふはふ食べている。

 成長の速さ、年齢。すべてが謎だった。


 でも大聖がいま見ているのは、本当にただの幼い女の子がおいしそうに食べている姿。

 ただ夢中に食べているほっぺに、ついてしまったソースをふいてやる。

 自然と微笑んでしまう。


 ぐーっっ!

 そこに大きなハラのへる音が割り込んだ。


 大聖がふと見ると、今日の護衛中隊の責任者であるラミット=パラ校尉こういが大きな空腹の主張をしていた。

 彼女は恥ずかしそうに顔色を赤らめたが、堂々と不動のポーズそのままに毅然としている。

「あ、ゴメン。お腹へった?」

 大聖がラミットに声をかけると「おかまいなく!」と即座に返事された。

 一瞬、間をおいて。

「あの、ここにいる人たちにも同じものを」

 大聖は警備の兵たちのぶんもオーダーした。

「っていうか、十数人も店内に押しかけて、食べないなんて、迷惑すぎるよね」

 ラミットは「あはは…」とほおを掻いて笑った。


 一気にリラックスムードになった護衛の一団。ラミットと大聖は雑談ムードになった。

「校尉っていうのは、どういう役職なの?」

 大聖はここで欠けている飛鳥國の知識を色々気軽にきいてみた。

 校尉は重力下の軍である陸軍の階級で、200人の中隊を指揮する。ベテランになると500人の大隊も指揮することがあるという。

 ラミットは鍛え上げられた身体が要求する、予想通りの頑健な胃に、焼肉を流し込みながら話してくれた。

「おいしい?」

 地球産の食事は飛鳥国の人に気に入られるかどうか、きいてみた。

「ストライクっす!!」

 満面の笑みと、ほおについた焼肉ソースが元気に満点の回答だった。

「それはよかったよ」


 護衛の職務があるので、半数ずつ食事を終えた。

「11664円になります」

 18人前にしては、これは安い。

 大聖はさすが学生のための食堂!と、どこか誇らしげだった。

 惑星を所有する領主だから、財布なんていうのはいくらでもどうにでも。

 …ならなかった。

「ふぁっ、クレジットカード…はまだ持ってないし」

 大聖は中学三年生な身分だったので、そんなものはない。

 ラミットを見てみると、「日本円」なんてとんでもない辺境の田舎の惑星の片隅の国なんかの通貨を所持しているはずもなく…。

 飛鳥国の行政機関につけてくれ、というワケにもいかず。

 日本国につけておけ、とも言えず。

 お財布になんとかあった「おこづかい」を総動員して支払いを済ませる。残額800円ぐらい。危なかった。

「あの、領収書ください」

 宛名に困ったが、上様として領収書を書いてもらった大聖だった。


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