7話 厄介な建造物
俺の名前は真上悠異世界転移のビギナーだ。なんと俺にも特殊能力が目覚めた!というか持っていた!名付けて!!【魔眼】これを駆使して異世界無双のはじまりだぜ! (*注意*魔眼の効果は術を発動する際のエナが見えるだけです。)
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ここら辺りから結界だ。」
そう言うスタイル抜群のピンク混じりの金髪、金眼、この世界では相当有名らしい女性は、勇者三榮傑の一人。
水聖ルビィ・パンダイヤ
「おっけー、しっかしデカい柱だな…。」
「…」
俺の横で無言で立っている、白髪、赤と紺のオッドアイ、これまた一部では有名らしい美少女は、魔王の娘。
眷属継承権第2位ネオンディアナ・キングスター
俺が今生活しているこの土地は封印の地と呼ばれ、様々な結界が張られていて外部からの干渉を一切受けない聖域。
元々がなんのために作られた聖域なのか分からないが、俺は元居た世界へ帰る為、様々な書物を読み漁った。
そして小さな違和感が、俺達3人の暮らしているこの封印の地だ。
特に何かを封印する目的も、何かを守目的も一切記述されていない。
だが、誰もが「聖域」やら「封印の地」やら呼んでいる…違和感。
そんな大それた名前なのに、どの書物にも無いなんて逆に怪しいというか、なんというか、まぁ偶然にも、その怪しい地に俺が居るんだから、調べておこう。
ってな具合で手がかりを探る為に、結界柱の近くまでやってきた。
封印の地には4本の結界柱が建っている。
海岸線。
山の中腹。
草原の岬。
そして大砂漠。
今日俺たちがやってきたのは封印の地、最南端にある草原の岬だ。
目の前に立つ柱はおよそ高さ10メートルくらい横幅は5~6メートルくらい、4階建てのビルくらいの建造物だ、大草原の真ん中に聳え立つともう少し大きく見えるが。
当初ルビィもネオンもこの謎の柱を調べようと思って、近くまで行ったことがあるらしい。
だが、柱の近くになると見えない壁があり、それ以上は柱に近付けなかったということだ。
……
ゴィン…
「いてっ!」
ボケーと歩いていると額を見えない壁にぶつける…。
「本当に見えない壁なんだな。ということは術が発動しているってことか。」
おでこを押さえながら辺りを見る、視界に何の変化も無い、目の前の見えない壁を身体で確認する。
「なにか見えるか?」
「……?」
俺に問いかけるルビィと首をかしげながらこちらを覗うネオン
「ちょっと待ってくれ、、うーんっと。」
魔眼(自称)持ちの俺は術の発動の際使われるエナを視ることが出来る。
もちろん視認出来る類のものなら発動後も見えるが、こういう結界は見ることが出来ない。
結界も術の一つとルビィが言っていたので結界術を使ってもらったところ、ルビィの身体に一瞬だけ光の様な違和感を感じてすぐ消えたのだ。
ルビィ曰く人の張る結界はその場のエナや自身のエナを使うので広範囲には張れないと言っていた。
あの家にはルビィの多種多様の結界が幾重にも張られているみたいだ。
じゃあ遥か昔から結界に守られ、聖域とまで云われているこの土地はどうか?
勿論現在は聖域全てに結界を張る人物なんて居ない。
じゃぁ何時どうやって発動しているのか?
結界は張った人のエナに作用する「どんなに離れていようが、どんなに時間が経っても切れない結界」であったとしても張った人物に何かあれば、維持は出来ないみたいだ。
早い話が、術者に何かあれば結界は切れるということ。
もしも結界を張った人物が不老不死でない限り、何らかのシステムで結界を維持しているばず、俺はそれを探してみることにする。
ジー…っと集中しながら10メートルは離れてる結界柱を凝視する。
柱の建っている周りの地表から上にモヤモヤした違和感が伸びているようにみえる、モヤモヤをたどって一番上……
「見えた!」
陽の光に隠れて最初は分からなかったが、角度を変えてみると一目瞭然だ。
空と同化する水色の淡い光が薄ら放射線状に地表に降り注いでる様だ、これが見えない壁の正体か?
そしてその上に白く光る線が2本、海岸と山の方に向かって伸びている。
意識していなきゃ分からないくらい薄い違和感。
違和感……って確か……
あの日……ゴミ捨て場でゲートを見た感覚と似ている。
この柱と他の三本が聖域全てに結界術を使っている正体なのか…
そしてこの封印の地で使われている結界術もやはりというか当然エナを使っていた。
「思った通りだルビィ…ルビィの特別な能力も、ネオンの使う術も、結界も、そして俺が使ってやって来たゲートも全て同じだ。『エナ』だ!」
「仮説は正しかったな。そのゲートとやらが『エナ』ならユウの居た世界で術を使える者が居たということになるな。」
「あぁ、さらにこの聖域の結界は凄いぜ、あの柱からだけじゃなく地表からもエナが出てる、ルビィやネオンが術を発動するときの違和感というか、光が見える。」
「やはり柱に何か仕掛けがあるということか?人がその場に居なくても術を展開出来るなんてな……まぁ一応心当たりはあるが…にわかには信じられんな。」
「仮説だとそうなるな。この世界から俺の居た世界に行けるって事は、ほぼ確定だ…なんせ俺が居たとこではエナは勿論、こんな特殊能力なんて誰一人使ってなかったからな。」
「特殊能力?その眼か?眼はどうなのだ?その眼の力もエナの一種では無いのか?」
「ルビィ「眼」じゃない!「魔眼」な!
それなんたが、鏡越しでネオンのエナは確認出来たが、俺のエナは見えなかったんだ。」
「…?」
一度鏡越しにネオンの術を見たが、俺の眼からはエナを視認出来なかったのだ。
「それは本当か?だとすると…どういうことなのだ?」
「正直説明が難しいな。けど俺の魔眼なんだが、こっちに来る前だけど、一人エナを…ゲートを視認してる奴がいたんだ。」
あの時マナはゲートを見ていた。見えていた。
「そうなのか、ではユウの世界の人は皆魔眼持ちということなのか?」
「そこなんだよなー?俺が初めてゲートを見つけた時、視えてない人の方が多かったんだよ…。でもまぁ、エナっていう概念が無い世界だったからな、魔眼を持ってても気付かないさ、なんせエナを見るだけの能力だ。」
「そう言われると、そうか…。」
「さて、ここはもう大丈夫だ、次行こうぜ!」
「もういいのか?」
「見たいモノは見えたしな、どっちにしても壁のおかげで、柱まで辿り着くのは無理そうだ、それに後三本もしっかり確認しなきゃだしな。」
「よし、では朝ユウが決めたルート通り次は海岸線に行ってみるか。」
その場を離れようと、ネオンを捜す、遠くの方で結界柱に向かって術を放っているように見えるネオン。
「おーい、ネオン。なにしてんだー?」
ムスッとした顔で俺の方へ歩いて来たネオン。
シャシャッと必談する。
(柱を潰せるか試してたけど、てっぺんに当たった瞬間無効化された、プンプン!)
「なに、サラッと怖いこと試してるんだよ!魔王の娘が聖域の結界破壊とか止めてくれよ。」
「はっはっはっ。それは面白いなネオン。私も試してみるかな?」
「!!!!」
GO!GO!と片腕を上げながらルビィを煽るネオン。
「もう、勝手にしろよ…俺は海岸線の方に歩いてるからなー」
付き合ってたら日が暮れるわ。
まぁ、暮れたらまた明日だな。はぁ、腹減った。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そんなこんなで第二ポイント海岸線の結界柱。
「おい、ルビィ。話が違うぞ。」
「どうした?」
「…。」
腕を組みながら3人結界柱を見つめる。
「あれが結界柱だよな?」
「私にはそう見えるが?」
「…。」
「じゃぁここが海岸線の結界柱なんだな。」
「ああ、ここが海岸線の結界柱だ。」
「…。」
「柱あるのって、沖じゃね?」
「沖だな。」
「…。」
海岸線じゃねぇ!崖の下に綺麗な海。広がる空、遥か沖に見える結界柱らしき石柱。遠すぎだろ。
「俺ぁてっきり海岸線に建ってると思ったのよ、海岸線っていうからさ。あれ沖だよな?調べるも何も遠すぎだろ?」
「そうだな、海は海獣や魔獣がウヨウヨしている、調べるのは無理だな。」
「…。」
ウンウンと頷くネオン。
「じゃぁ最初から沖にあるって言ってくれよ、こんなことなら反対側の山行ってたよ。」
「いや?ユウが、こっち周りで行こうぜ!と言っていたから付いてきたのだが…」
「…。」
両手の平を肩の位置で上に向け首を振りながらヤレヤレのジェスチャーをするネオン。
「はぁ、今日はもう遅いから明日また調べよう、腹減ったしな。」
「そうだな、夕飯はウサギ焼きしようか!」
「…。」
(ウサギ鍋がいい!)
慣れた手つきで筆談するネオン。
また煮込みかよ…昨日煮込みだったからな、たまには焼き肉だろ、ネオンは本当に煮込みが好きだな、ルビィは焼きだし、もっと茹でとか、タタキとか、刺身とか、揚げとかあるんたぜ?
「んーじゃあ今日は焼きで、明日は鍋な。」
「…。」
ムーっと口を尖らせて不満げなネオン。
「ふふふ。久しぶりに腕がなるな。」
「いや、ルビィは焼くなよ?」
「えっ?」
「えっ?」
「…。」
ヤレヤレのジェスチャーをするネオン。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
そして翌日、3本目の柱を確かめるべく、山の麓までやってきた。
キョロキョロと警戒するように辺りを覗う。
「どうした?ユウ、そんなにキョロキョロして。」
「タイガー&ホースだよルビィ。
畜生、いつでもきやがれ、今回は近距離最強と遠距離最強のフォーメーションだ、俺は高みの見物だぜぇ…へへっ」
とトラウマの双頭の狼を警戒する俺を横目にネオンとルビィがサクサクと山へ歩いて行く。
「あ、待って、置いて行かないでぇ…」
ルビィが狩りの時以外、人の出入りのない山道は、人の歩けるスペース等なく、ただ切り拓かれた雑道だ。
そんな足場の悪いところを、グイグイ登っていく女性陣。俺の体力が無いのか、アイツらが異常なのか、どっちにしろ麓まで歩いて来たのに、そこからの登山は相当辛い。
そんな虚弱な 俺の前方で2人は立ち止まる。
「そろそろ結界だな。」
「おお。早いな、てか柱見えねぇよ。」
「…」
柱は見えない、大草原ならまだしも木が完全に進路を塞いでいるので、近くに在ったとしても障害物が邪魔で視認は難しい…。
目の上に手を水平に構え辺りを見渡すネオン。
この子はジェスチャーのバリエーションが増えてきたな。
「あいたっ!」
油断してると見えない壁に当たった。
改めて壁に手を当て周囲を確認する。
ルビィと念入りに調べる、隙間や綻び等を手探りで調べていく。
ネオンは退屈なのか一人どこかへ歩いて行ってしまった、まぁ、心配はないが…。
しかし、やはりというか、この結界も見えない。
ここの結界も多分岬の柱と同じような近づけない壁が張り巡らされてるんだろう。
なんとか結界の発動元が見える位置に移動したい俺達は、ゆっくり草木を掻き分け進む、結界に手を触れながら歩き、見えない壁からはみ出た木にぶつかり、その木の先からまた手を当て結界を確認…あれ?
「なあ、ルビィさんや、これはどういうことだい?」
「ん?ああ多分内部で結界が作用してるんだろう。」
そう、目の前の小さな木は見えない壁から少しはみ出るように生えている、木自体が結界化しているなら分かるんだが、内部で?作用して?はい?
「まぁ見てろ。」
と剣を構えるルビィ。
ガィン!っと音と共にルビィの放った一閃は、木の幹を切断すること無く途中で止められてしまう。
は、速い!見えなかった!
「このように木の内部では見えない壁の結界は作用しているのだ。」
「へぇー…半分は守られて、もう半分は晒されてってか。しかし結界も謎だな、剣も術も通さない、オマケに人も入れない。」
「いや、ユウ。少し見ていろ…」
そう言って落ちている木の枝を拾い、軽く腕を振るうルビィ。
シュン!っと音が聞こえたと同時に目の前の小さな木は切断される。
「おお!すげえ!」
「そんなことはない。ただの技術の応用だ。だが見ての通り剣でないのなら結界には弾かれないのだ。」
「あ!?本当だ、えっ?どういうことなの?これ。」
「結界を通り抜けれる物質など、細かい制約があるのだろうな。」
なんか色々試してみたい衝動がウズウズとあるが、どっちにしろ俺達が通れない事に変わりは無いな。
そんなやり取りをしていると、いつの間にか帰ってきたネオンが何かを手に持ちながら俺の裾を引いていた…
「おお、ネオン、って何持ってるん……」
ネオンの小さな右手には俺の因縁の相手、8つ足ウサギが掴まれている。
「うおぃ!まだ生きてるじゃねぇか!ソイツ凶暴だぞ!」
「…?」
(なにか問題でも?)と言わんばかりの顔で俺を見るネオン。その凶暴なウサギは、8つの足をバタバタと逃げる様に暴れているが、首元をしっかりネオンに掴まれている為、噛みつくことも出来ず、ただ藻掻いてるだけだ。
「姿見えないと思ってたら晩飯確保してたのか?今夜は煮込っ…」
と俺が聞いている最中、ネオンは手に持っているウサギを大きく振りかぶって結界に投げ付けた。
勢いよく飛んできたウサギ、ウサギからしてみれば何が起こってるのか解らない、もちろん俺もだ。
ネオンが何をしているか解らない。
バチンと結界にウサギが激突「キィッ!」と小さく鳴いて、すぐにその場から逃げて行ってしまった。
え?何してるのこの子…。いつから動物虐待なんて趣味を持ってしまったの、あたしゃ悲しいよ…。
「ユウ、見ての通り野生動物も結界を潜れないのだ。」
「ん?あぁなるほどね、ネオンがウサギ投げ付けたのはそういう事か。」
「いや?他にどんな理由があるのだ?」
「……?」
「あ、いやなんでも無い。んじゃこの見えない壁の結界は生物全般通れないって事なのか?」
「ふむ。実はそうではない、あそこに花が咲いているので、虫の類は通れると私は思う、もしかしたら向こう側に居て出られないだけかもしれないが。」
「なるほど…んじゃ、もしもこの見えない壁の結界が張られる前に人が中にいたら大変だったな。」
「…。」
コクリと頷くネオン。
その後ある程度見回ったが、めぼしい所もなく、山を下った。
さて、時間はまだあるし、最後の柱でも確認しますかね。えっと最後は砂漠か…こんな大草原に砂漠なんて想像つかないけどな。
「おーい2人共!砂漠って遠いのか?」
一応確認だけしておかなくてはな、なんせ砂漠だ、歩いて行ける距離に砂漠があるなんて誰が想像出来るんだ。
あ…。でも砂漠近辺に住んでたら当たり前なのかな?
「そうだな、ここからの距離だと、家と大して変わらないな。一度戻って明日また出る方が良いな…帰りが暗くなってしまうぞ。」
「それもそうだな、んじゃ一度家帰りますか!ネオン、今夜は煮込みな。味付け頼むぜ。」
近くに寄ってきたネオンの頭をクシャッと撫でる。
「…」
満面の笑みで俺を見る。任せろ!って顔だな。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
家に帰り、夕食を食べる。もちろん本日は煮込み、ウサギ肉の在庫があったので、帰りに狩りをする必要も無くサクサク歩いて帰ってきた、まぁサクサク歩いてたのは2人で、俺は結構疲れた…。
……
「ぷはー食った!食った!ごちそう様でした。」
手を合わせ一礼。
「…。」
ネオンもルビィも真似して一礼。こういう日本人ぽいところを真似してる2人を見るのもなかなか面白いな…。
「さて、明日の砂漠なんだが、やっぱり暑いのか?」
「うーむ、あまり外の気温に関しては、意識しないな。私は、結界があるので快適に過ごしているからな。」
「改めて聞くと本当結界って万能だな、雨にも濡れないし、暑さも感じないのか…。」
「ふふっ。明日はユウとネオンにも結界を張って行くので安心しろ、暑さを感じてみたいなら話は別だがな…」
「…!!」
ブンブンと首を振るネオン。
暑いの嫌いなのか?
「暑さなんて感じなくていいなら感じたくないね、結界バンザイだ、明日は頼むぜルビィ。あ、でもエナ切れとか起こさないでくれよ?」
「ははは。私のエナはそうそうに切れないので安心してくれ、当時は二日間ぶっ通しで戦場に居たこともあるのだぞ?」
「いつぞや、雨に濡れてた時はどんだけ外で暴れてたんだよ!」
3人顔を見合わせ笑う。
そんな何気ない一日の終わりに俺はベッドで1人考え事をしていた。
…
「聖域に4本の柱か…」
ここイグザ連合国の最南端、封印の地とも呼ばれる場所に聳え立つ4本の柱、ルビィもネオンを匿う為にこの地へ来たと言っていたが、あの4本の柱がどういった効果の結界を張っているのかは分かっていないみたいだ。
何のための結界なんだろう。これだけの広範囲を何から守っているのか。例えば、エナや生物反応を感知出来ないとか?いや、そもそもこんな広い地だ、それこそルビィの認識阻害の結界で事足りる。
それとも別の意味があるのか?
封印の地…。
聖域…。
4本の柱…。
そして柱に近づけない見えない壁の結界…。
あの柱をもう少し詳しく調べることが出来れば情報も入ってくると思うんだけどな…
駄目だ!頭が混乱してきた。
えっと、まずこの地は何かしらの広範囲の結界が張られている。
その結界は4本の柱からなるもので、柱の周辺のエナを使い発動し続けている。
柱には見えない壁の結界が張っていて近づけない、この結界も周辺のエナを使い発動し続けている。…か。
このまま手がかりが無ければ、やはり次の段階に進まなきゃいけないんだよな…
まぁそれも明日の砂漠の柱次第ってとこだけどな。
そんな事を考えながら独り暗い部屋で眠りにつく。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
真っ白の空間。
誰かが話してるようだ。
「エリオット全てお前に任せっぱなしで悪いな」
「いえいえー、主の為ならぁ。このエリオット!なんの問題もごさいませんよぉー。」
「ーーーを早く見つけに行かなきゃいけない、もう少し頑張ってくれ」
「お任せ下さい我が主。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ん……朝…か。
なんか変な夢見たような気がするが、あまり思い出せないな…。なんか懐かしいような。前にも似たような感じあったな、いつだっけ?
まぁいいか、今日は砂漠へのお出掛けだ…
モヤモヤした感じを残して下に下りる。
お、誰も居ない?2人とも寝てるのか?いや、多分どちらかは水浴びしているはずだ、ここで顔を洗いに行ってはいけない。俺の本能がそう言ってる。
まだ頭がボーッとするが、朝食の用意を始める、今日は甘くないフレンチトーストに菜っ葉と自家製ベーコン、チーズを挟んだクロムクッシュもどきだ。
珈琲の一杯でも飲みたいが、残念ながら珈琲というものが存在しない…いや在るのかもしれないが、この家には無い、あるのは酒とミルクくらいだ。
「ぉはよう…ユウ、なかなか良い匂いだな。」
目を擦りながら階段を下りてくるルビィ。
「おはようルビィ。今日はクロムクッシュもどきだ。」
「ほぅ…何か分からないが旨そうなのは確かだな。ネオンは水場か?」
「多分な…俺は怖くて水場に行けないんだ。」
ふふっと笑いながらフラフラと水場に向かっていくルビィ。まだ眠いのか…
水場の扉を開けると奥から音が聞こえてくる…
俺の本能が告げる通り、やはりネオンが水浴びしていたか…危ない危ない、今度やったら脳天叩き割られるからな…。気を付けねば。
そんな事を考えてると、水場からネオンが出てきた。
「おはようネオン、朝御飯出来てるぞ。」
「…。」
ニッコリ笑いながらこっちに寄ってきて朝食を眺めてるネオン、髪の毛がまだ濡れてて少しだけ色っぽい。
が!子供だ!俺からしてみたら子供だ!ってか、そもそもルビィもネオンも年幾つなんだろう?
何気に聞きそびれてるんだよな…。
(おはよう、ユウ。これ凄い美味しそう。)
慣れた手つきで筆談しながら、風の術で髪を乾かし始めるネオン。
「おう、これはな卵と牛乳を混ぜたのを、パンに浸したサンドイッチだ。俺の世界ではクロムクッシュって言ってな…」
と俺のうんちくをネオンは目を輝かせながら聞いている、元々料理好きなネオンは俺が作ったものや、教えた元の世界の味付けを覚えてくれて助かる。
この前もネオンと2人でベーコンの自作に挑戦した。
といってもルビィが干し肉を作っていたから、そこに塩の加減とスモーク工程を挟んだだけなんだが、なかなか上手く出来たと思う。俺ももちろん2人ともベーコンはお気に入りのようだ。
ドレッシングとかマヨネーズも、その内試してみようと思う。
「ユウ、ネオン、待たせたな。さぁ食事に…」
「……」
「…。」
水浴びから戻ってきたルビィ。
クロムクッシュを咥えた俺とネオンが無言で見つめる。
ごめん、先食べてた。