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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第一章 異世界 ~封印の地~
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6話 伸ばす手の先見えるもの

 


 デカい双頭の狼に襲われた日から、幾日が過ぎた…



 傷はそこそこ重症だと思っていたのだが、家までも歩いて帰れたし、大したことは無かったみたいだ。

 というか俺が貧弱過ぎて満身創痍だっただけなんだよな…。


 まぁ、そんな情けない自分を変える為、俺は毎日筋トレと剣の稽古を続けている…

 最初の1週間は掌の豆が潰れグチャグチャになるまで素振りをした。


 身体の怪我が治ってからは、ルビィ剣の相手をしてもらってるが、ルビィは剣を持たず俺の剣を躱すだけ…

 どんなに目一杯振るっても、自身の最速の動きをしても、アッサリと躱す…

 最初はムキになって何度も剣を振り回していたが、ルビィは俺に対剣の動きを教えてくれているようで、それに気付くまで暫く時間が掛かった…


 おかげさまで、素人(ネオン)の剣くらいならなんとか、躱せるようになってきた。


 ルビィは説明不足というか「あれ」「これ」「それ」が多いので頭で理解するより身体に叩きこむしかないんだよな…




 …


 ……




 ネオンには魔族の術を教わっている…

 あの凄い重力の術や、風の術を、小さな女の子が使ってるのをみると、なんというか少年心くすぐられるというか…


 せっかくの異世界なんだ、もしかしたら努力次第では俺も術を使えるのようになるかもしれないしな!


 と浅はかな考えで、剣の稽古が終わったら術の勉強をしていた…




 が!全く理解出来ない。



 俺のイメージでは陣を描いたり、呪文を詠唱したりっていうのが理想だったのだが、どうやら違うらしい。


 ネオン曰く…

 体内のエナを巡らせ、近くのエナとシンクロし、大気のエナに干渉するらしい。



 正直さっぱり分からん。



 そもそもこの世界では当たり前の「エナ」

 俺の中でそんなモノは存在すら分からない、術を使う以前にスタートにすら立てない訳だ…




『ふふふ。この右手が貴様を紅蓮の炎で焼き尽くそうぞ!』



 とか中二ッぽい事とか言ってみたかったんだがな…。




 まぁ、そんなこんなで毎日筋トレ効果もあって、身体付きも大分良くなってきた。

 腹筋はまだ綺麗に割れないが無駄な肉は徐々に落ちてきている。

 腕も毎日剣を振っているだけあって引き締まってきた、このまま頑張ればルビィの様にロングソードを片手で振れるかもしれない。


 というか両手持ちの剣を片手で振っているルビィが異常なのだが…






 ……





 家での生活も3人体制に基盤が出来てきた。


 朝の水浴びはラッキースケベ防止の為、俺が水浴び出来るのは夜になった、朝はルビィとネオン。


 掃除と料理は俺とネオンが担当、これは言うまでもなくアイツに料理はさせてはいけない、全てが台無しになるからな…


 ルビィは食料調達専門に、肉捌きや下ごしらえは俺も手伝う。

 洗濯は俺とネオンが担当してたんだが、乙女の事情により俺は洗濯から外された。


 こっちの世界には時計が無いというのもあって2人とも時間にかなりルーズだ、陽が昇る前から起きる時もあれば、陽が真上(昼間)まで寝てる事もある。


 おかげで俺が昼前に水場の掃除をしていると全裸のネオンが目を擦りながらやってきたこともある。

 通称「セカンドインパクト」だ。


 勿論その日は口を聞いてくれなかった。




 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




「んんーっ!!!」

 椅子に座りながら両手を上げ身体を伸ばす


「ふぁーーっ!!」

「…?」

 首を傾げながら己を見つめるネオン。


「いや、ルビィそろそろかなーってさ。」


 ネオンとテーブルで術の勉強中、今は結界について教えてもらっている。

 どうやら、ネオンの使える術とルビィの使える術は性質が違うみたいで、結界もまた性質が違うらしい…

 この術の種類がなかなか面白く、「エナ」に作用する石や水晶体(クリスタル)など様々なところで術は使われているみたいだ…。


 そういえば、台所の灯りは石が光ってんだよなー、そういう石だと思っていたけど、術が関係していたのか…。


「さて、勉強!勉強!っていってもエナってなんなんだよ?さっぱりだぜ…」

(説明が難しいけど、もともと体内に宿る力?かな?)

 ササッと筆談するネオン。


「体内ねぇ…静電気みたいなあれか?っても、科学が分かんねぇか…」

「…??」


 なんとか体得したいな…術…。


 どうせ元の世界に帰ったら使えないパターンだろしな…こっちに居る間だけでもファンタジーしたいぜ…


「元の世界…か…。」

「…。」

(ユウは帰りたいの?)


「ん?」


 少し寂しそうな、何とも言えない表情で俺の顔色をうかがうネオン。



 帰りたい?

 そういえば、俺はもう2、3ヶ月こっちに居るんだよな…

 あっちに帰った後の事なんて…





『ズキンッ!』






「痛って!」

「??」


「ん?あぁ急に頭痛がさ…」

(大丈夫?)

 心配そうに俺を見つめるネオン。


「大丈夫だ!小さな頭に色々詰め込み過ぎたバツだ。

 そうだな…最近はネオンとルビィと暮らしてるのも悪くないって思えてきたよ…。」

「…。」


「まぁ、でも一生こっちに居るにしろ、元の世界に帰るにしろ、方法は調べなきゃだろ?」

「…。」

 小さく頷きながら俺の話を聞くネオン。


「ルビィやネオンにも見せてやりたいなぁ、俺の居た世界…マジで楽しくて毎日ワクワクだぞ?」

(でんきと、きかいが、いっぱいなんだよね?)


「そうだ、前にも話したけど、あっちじゃ電気がなきゃどうしようもないんだ。」

(エナみたいな感じ?)


 エナ…?

 そう言われると、そうなのか?電気?なんか違うような気がするなぁ…


「まぁ無くなったら困るっていう点では同じかもな。」


 ほほう…と口を開けながら、なにやら納得のご様子だ。




「さて、そろそろルビィが帰ってくるかな…って、俺さっきも言ってたな…」

(ユウはルビィ大好きだもんね)

 サラッと紙に書き出すネオン。


「ははは、なかなか誤解を招く文章だな、まぁルビィもネオンも大事だよ、大好き?うーん、まぁ俺は2人とも大好きだぞ。」


(浮気者)

 少し顔を赤くしながら、照れてるネオン…



 まったく、俺はこんな少女相手に何を言ってるんだ…



 ……


 …




 今日ルビィは日の出前から物資の受け取りに行っている。


 前回から2ヶ月か… 


 2ヶ月に一度、ルビィには生活用品や消耗品、調味料や保存食などの物資が届けられる。


 最寄りの街まで最速20日掛かるって事は物資の運搬も相当大変だろうな…。



「なぁ、そういえばネオンは物資の受け取り現場とかには顔出さないのか?」


(私は見つかっちゃいけない存在だから)

 シャシャッと筆談するネオン


「まぁそうだよなー。あっ、でもほら、あの認識なんたらの結界使えば付いて行っても大丈夫なんじゃないか?」


(来た当初はそれでルビィと一緒に受け取り行ったこともあるけど、ルビィも私が気になって受け取りの人と、ゆっくり話出来ないから…)


「あー、それもあるか。なんせ2ヶ月に一度の情報源だもんな。ってかさ、ルビィに話をする人ってどんな感じ?毎回違うのか?男か?男だろ?へへへ。」


 んふー。

 っと鼻息を一つ、ネオンの色違いのオッドアイがジトーっと下世話な俺をみる。


(私が見たのは女の人、ルビィを凄く慕ってる感じ。

 あと、たまにするユウのその顔嫌い。)


「うおう!口にされるより、文字にされる方が心に刺さるぜ!顔は生まれつきだから勘弁してくれぇ…」



 そんな茶番を繰り返していると表から物音が聞こえる…



「おっ?帰ってきたかな?」





 ……






「ただいま帰ったぞ!」

「…」

「おう!お帰りなさい、お疲れ。」


 ネオンと一緒に笑顔で帰ってきたルビィを迎える。



 ニヤニヤしながら腕を組み仁王立ちのルビィ。


 おいおい、ルビィさんや。

 その大きなお胸が大変な事になってるぞい。


「ふっふっふー!ユウ、お待ちかねのアレが来たぞ!」

「マジか!!やっぱりあると思ってたけど、こんな早く来るとは思わなかったよ!」



「クラリスが丁度中央都市の図書館に知り合いが居たらしく文を送ったらすぐに現物が届いたと言っていたぞ。」

「クラリス?あぁ物資の人か!次の時にでもしっかりお礼言っておいてくれ!」


「うむ。それよりも早いとこ搬入して夕飯にしてしまおう、道中保存食が切れて自足してたのだが、物足りなくてな…」


「なるほど、それでこんな遅かったのか…了解!んじゃネオンは夕飯作り始めちゃってくれ、モノ運びは俺がやるよ。」


「…!」

 ビッと頭に右手を付け敬礼のポーズ!

 またネオンは変な事覚えて。



「んじゃ、パパッと終わらせますかー!」





 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ 




 夕飯後俺は水浴びしてからテーブルにて本を読みながら勉強タイム。




 見ている本はルビィにお願いしてあったものだ。


「なになに?純血種とは…」


 前にルビィから聞いた創世記、あの話が本として世に残っていれば、その後の世界の記録も残っていると思っていた俺は、ルビィに「各国の歴史が記されている書物」をお願いした。


 魔大陸から中央大陸、東聖大陸、等様々な本。


 その数なんと十数冊。


 何故歴史書かというのは、俺が居た世界の文化がこの世界に導入された痕跡を探す為だった。


 最初の違和感は、この家の造りだったのだが、明らかに俺が見知った形の家、元の世界でいうとこのログハウスみたいなものだ。


 そしてルビィに聞くところによると、似たような家屋は大陸内には無く、この辺境の更に封印の地と呼ばれているここに一つだけ建っている事。


 んじゃこの家だが、どうやって建てたのか?組み立てて運んで来た?片道何ヶ月掛かるか分からない道を?

 運んで来るのはほぼ不可能だろう。


 それにこの家には地下室がある、冷蔵庫として使ってたみたいたが、そこには何らかの結界が張ってあるから寒い…みたいな事をルビィが言っていた。

 まぁおかげで食材も腐らず保存出来るので問題ないが…。

 要するに建物ごと運んで来たなら地下室完備ってのも変な話だ…。


 結果として、時期や目的は分からないが、この大草原の真ん中に家を建てた頭のおかしいヤツが居たってことになる。

 その頭のおかしいヤツは、俺の居た世界の知識を少なからず持っているはずだと俺は思う。

 それなら他の国や大陸にも俺の居た世界の痕跡が少しくらいは残ってるのでは!?と考え、各歴史書を読みその痕跡を探す。

 上手くいけば俺と同じように、この世界に来てしまった人に逢える。

 それだけではない、元の世界に帰れる方法も知っている可能性がある…


 まぁこれは願望じゃなく、確信なんだがな。


 あの時、俺が初めてこの世界に来る寸前の出来事。

 あの時の女、マナは「ゲート」「亜人」という単語を、口にした。


「亜人」という単語を使う人物が元の世界に居た事実、そして「ゲート」を使うと言っていた、即ちマナは、こっちの世界から俺の居た世界へ来たって事なんじゃないか?


 帰る手がかり、ようやく指先に引っかかった手がかり。


 俺は元の世界へ帰れるかもしれない……

 その一心で歴史書を虱潰しに読み耽った。




 ……





 とは言ったものの…。


 こういう歴史書物ってのは読み説くのに苦労するなぁ、知らない地名や言葉が辛いわ。


「なぁルビィ…このアイコ8点てなんだ?」


 試験で最低点数を叩き出した伝説の女アイコ。 みたいな感じかな?


「ん?どれどれ?……これは東聖大陸のアイ湖、発展の事だな。」

「アイ湖発展ね、なるほど、歴史書だもんな、ちょっと頭のネジが飛びかけてたわ。」


 亜人語は全部カタカナ表記で書いてあるような感じな書き方が多すぎる。

 大体意味は通じるが知らない単語と地名が組み合わさると理解不能だ。

 もっと読みやすく書けなかったのか。


「んじゃここの、文は?」

「これは…。ーーー」




 そんなやり取りが毎日の様に続いた。




 ネオンも歴史書物に興味があるらしく、いつも俺の隣で一緒に本と睨み合ってる。


 偶に、技術の始まりや、人の暮らしの変化、そういった記述を見つけてくれので、正直助かる。








 翌る日


「そういえばさ、ルビィ、ネオン。」

「?」

「ん?」

 術の勉強中にネオンと意識通信しているルビィ。


 相変わらず淡い光をネオンの頭に当てている。




「その指先の淡い光って、術によって色が違うのか?」

「!?」

「なんだって!?」



 2人とも驚いた様に俺を見る。



「あ、いや、ルビィのは淡い緑っぽい光で、前にネオンが使った重力のヤツは何ていうか白っぽい光だったから、属性別に色分けとかあるのかな?って思っただけなんだけど。あれ?なんか変なこと言った?」


 眼を丸くするネオンと、それを聞いて、深刻な顔付きのルビィ。



「質問の答えから言わせてもらうと、属性別に術の色は違う。それは間違いない、そして、ユウは変なことを言っている。」

「…」


 ネオンも頷く。


「色分けが当たってるなら、変なことじゃないだろ?なんだよ、二人して。」

「…。」

「いや…。私も半信半疑なのだが、そうだな、ネオン水の術を小さく展開してくれないか?」

「…」



 コクっと頷くと、ネオンの右手から青く綺麗な薄く伸びる一筋の線、その線の先から小さな水の球が出来る。



「おお!水は青か綺麗だな!」

「!!!!!」


 驚いた様に俺の方を振り返るネオン。



「驚いた、本当に見えているのだな。」

「ほえ?」

「ユウ、私にはネオンの作った水球は見えるが、青い光は見えないのだ。」


 ん?見えない?いや、見えてるでしょ?


「はい?いや、だってほら、掌から線が伸びてて…。え?どういうこと?」

「それはエナだ。自身のエナは他人には認識出来ない、私は自分で発する光は見えるが、ネオンから光は見えないのだ。逆も然り、今ネオンが使っているエナの流れは私には見えていない。」

「んじゃ、結局俺はなんで見えているんだ?」


 よく分かんねぇな、どういうことだ?


 ネオンとルビィが腕を組みながら首を傾げる。


「こっちが聞きたいくらいだ、もしかしたらユウは生まれ持って不思議な眼を宿しているのかもな。」




 あん?不思議な眼って言ったの?眼!?

 これって、もしかしてー?


 特殊能力キター!!の展開!!


 何!?凄い!未来とか見えちゃうやつ?はっはっはー!マジかよ!うはーっ!キタキタコレコレ!

 ついに異世界っぽくなってきたぜ!


 じゃぁ何か?これから俺はこの能力を駆使して…ってか?


 エナがさっぱりな俺には最強の眼があるから問題なし的な!




「はい!先生!」


 ビッと挙手する。


「どうした?」

「その眼とはなんですか?未来とか見えちゃうやつですか?」

「いや、エナの流れを視認出来るだけだと思うぞ?」


「…おや?いやいや、でもエナの流れが見えちゃう眼というくらいですしね、ほら、時間を止めたりとか、目からビームとか」

「そんな術は聞いたことがないな。」

「うそーん…またーそんな事言っちゃって、アレかな?信じられない様な能力だけに羨ましくて、意地悪しちゃった流れ?……じゃ…ない?……え?…うそっ!まじ?」



 ネオンを見ると深く頷く。



 ぐほぁ!!!マジかよ!!!

 ただエナが見える能力って、嘘だろ?

 え?この眼って、あんまり意味無くない?

 いや、一概には言えないよな、使い方次第では…。



「まぁ驚いたが、あまり意味の無い能力だな。」

「てめぇ!言い切るなよ!」



 俺の最後の希望をバッサリ断つルビィ。


「あ、いや、ほら、なんだ、色とか綺麗だろ?」

「フォローになってねぇよ!誰かが術を放ってる時に『あ、綺麗』とか意味無ぇよ!あーっ!期待したのになー!一気に落とされたぜ。」

「まあ、そう言うな。特別な能力は、持って生まれてくる方が少ないのだからな。」


「……」


 ポンっと俺の肩を叩くネオン。ウインクしながらさ親指を立ててサムズアップ


「それ、使い方間違ってるからな。」





 こうして俺の眼はエナの流れが見えるということが判明した。


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