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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第一章 異世界 ~封印の地~
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3話 危機去りて居候

 

 あのー?

 ルビィ…さん?

 これはいったい?




 目の前には

 黒い塊と

 黒い塊と

 黒い塊と

 ワインのような液体


 …



 チラッとルビィを見る。

 バツが悪そうに窓の外を見ながら、プヒューと、音の掠れた口笛を吹く。


 なにそのリアクション…




 まさかとは思うが料理出来ないのか?


 パンであろう物体は黒く焦げている。

 芋であろう物体は黒く焦げている。

 肉であろう物体は黒く焦げている。

 ワインっぽい飲み物は上手そうだ



 ………


 チラチラ此方を見てはすぐ目を逸らすルビィ。


 喰えってことか?これを?



「まぁ、この際文句言ってられないか…。」



 ひと思いに噛みつく

 ガリッ

 バリッ



「ぶへぇっ!苦ぇっ!硬ぇっ!」

「……」

「なぁルビィ…コレ焼きすぎだろ!パンなんて普通は、そのまま食べれるんじゃないのかよ?」



 目を見開き驚いた様に、俺を見るルビィ。

 俺の言っていることはなんとなく分かっているのか、少し申し訳なさそうな顔をしている。




 ………






「ぐっ、…。ふっ…。っふぅー。

 なんとか食べきったぞ!おぇ」




 正直何を食べてるのか分からなかった、空腹は満たされたが、不味すぎだ。


 もしかして、この世界の犯罪者や捕虜はこんな食事ばかり食べさせられてるのかもしれないな、今俺は捕虜みたいなものだし…。

 なんだかんだ言っても、食べ物を持ってきてくれたんだ、ありがたい事じゃないか!そうだよ!もしかしたら味覚が違うのかもしれないしな!


 そんなことを考えていると、食事が終わった俺の目の前にルビィが座る。そして先ほどと同じように額に指先を付ける。


 ポウッと淡い光と共に、俺とルビィの意識がシンクロする。








『正直完食するとは思わなかったぞ…かなり焦げてしまったのだがな。』




 こらぁ!


 やっぱり焦げてたのかよ!これくらい焼くのが普通かと思って完食したじゃねえか!

 そもそもどうやったらあんなに黒く出来るんだよ!




『うむ。冷えたまま出すのも悪いかと思い気を利かせたまでは良かったんだが、ユウから借りたライターに夢中になってしまってな。気付いたらオーブンから煙が出ていて驚いたぞ。はっはっは。』




 子供かよっ!腹は膨れたよ!

 昼間からのワインも旨かったよ!ありがとうよ!

 他は苦かったよ!


 ……



 うぇっぷ、さて腹ごしらえも済んだし、色々と話したいんだが…



『うむ。そうだな。ユウの事をもう少し聞くついでに質問には答えよう。』



 おう。

 とりあえずここの場所なんだが、俺は目覚めた場所から半日くらいは移動してたんだ。

 それなのに見える景色は変わらず大草原だった。

 こんな家なんて視界に写らなかったぞ?

 俺を発見してくれた場所からそんなに離れているのか?



『ふむ。少し長い説明になるが、まずユウが燃やしたであろう藁の山は私が庭に集めておいた物だ。』



 ????

 庭に集めておいた?



『そうだ。ユウを発見したのもこの家の庭だ。』



 いやいや、それはおかしいぞ?確かにあの時は夜だったが、近くには何も無かった。

 夜って言っても、月明かりもあったし、家を見つけれないほど暗くも無かったような。



『結界だ』



 結界?



『そうだ。この家を簡単に見つける事が出来ないように結界が張ってある。ちなみにこの結界は一度通ると効き目は無くなる。即ち、初めてこの地に来た者だけに作用する結界だ。なので私は遠くからでもこの家を確認出来る。そして一度結界を通ったユウも今後はこの家を確認することが出来る。』



 結界ね。なるほど、随分と警戒してるんだな。



『まぁ、こちらにも事情はあるからな。しかし、昨日帰ってきたら庭が大炎上しているのには驚いたぞ。』



 ルビィがもう少し早く俺のこと見つけてくれてれば、火を放って無かったさ、さすがに人の家の庭の物に火を付けて遊ぶ趣味は無いしな。



『たまたま昨日は帰りが遅かったのだ。いつもなら明るいうちには家にいるのだがな。』



 タイミング悪かったってやつだ。まぁ、ウサギの恐ろしさは勉強になったよ。

 それにしても、大草原の中でこの家が見えなかったのは結界ってことで、納得したんだが、他にも家があるのか?




『いや、ここら辺一帯は人が住める環境にないからな。大草原地帯にはこの家だけだ。』




 なるほど、そりゃ結界一発でいい目眩ましになるな、現に俺は大草原の景色に気が狂うかと思ったからな。

 それにしても本当にルビィが昨夜帰って来なかったら…と考えると恐ろしいな、火の手が無くなったらまたウサギ達は俺という餌を求めていたに違いないし、肉食ウサギ、永遠と続く大草原、多分他にも野生動物が居るんだろうが、この場所は人が立ち入る所では無いと改めて思うよ。




『概ねその通りだ。ユウは理解が早くて助かるよ、私の説明の手間が省けるな。ふふ。

 さて、話は変わるが、これからここで生活してもらうことになるのだが、色々と教えておかなければならない事、守って欲しい事、コレを今から話したいと思う』




 これから生活?

 ん、まぁ怪我が治るまで居て良いなら助かるけど。

 どうせこんな足じゃ外に出ることも出来ないしな。

 いいぜ、なんでも言ってくれ。

 治療もしてくれて飯も…。

 飯も寝床も用意してくれたんだ、それなりに協力出来る事はするぜ!



『分かった。今も体感してもらっているが、この術というか能力での会話は実に相手の事が分かるものなのだ。いくら上辺の言葉を表面で言おうが、この能力を使用している時には全てが曝される、おかげで人の嫌なところも沢山聴いてきた。皆、水聖ルビィの力を利用することを考えている輩ばかりさ、早い話が能力によって私は人の也が分かってしまうんだ。』



 便利な力だと思ってたけど、それだけじゃ無いってことか…。確かに信用してた人間が敵とか分かってしまうんだから、そん時は辛いもんだな。



『ああ、おかげさまで私は人と接するのが苦手となってしまってな、剣ばかり振っていたよ。まぁ、その点ユウは、まぁ少し卑猥なところを除けば、信用に値する人物であるな。ふふっ。水聖ルビィ相手にここまで言わせる相手など、そうそう居ないぞ?それだけ私はお前を完全ではないが信用している。だから、この先私を失望させないでくれることを祈ってる。』



 一瞬哀しそうな眼を見せる

 だが直ぐにその顔は真剣に。



『ではこの家に住むもう一人を紹介しよう。』



 と部屋の入り口へ空いた手を伸ばし

 指を「パチッ」と鳴らず


 その刹那


 何も無い空間が歪む

 歪んだ空間から一人の少女が現れる




 なっ!!!




『驚かせて済まない。これも結界のひとつだ。飯を運んで来た際に一緒に部屋へ入ってもらっていたのだ。』



 口をパクパクとしている俺に淡々と説明をするルビィ




 いや、部屋に居たっていうけど、呼吸すら気付かなかったぞ?まさかそれも結界の効果なのか!?




『察しが良くて助かる。そうだな種類は違うが彼女を認識させなかったのは結界の効果だ。ちなみにユウが起きた時に私に気付かなかったろう?それも同じ結界を使っていたのだ。』



 そう彼女。

 改めてその姿を見る。


 全体的に小さな身体付き、成長途中な申し訳なさそうな胸の膨らみ、服でよく分からないが、細身の身体に伸びた手足。腰まで伸びた穢れ無き純白の髪、病的なまでの青白い肌、燃えるような真紅の瞳と、黒に青を混ぜたような紺の瞳のオッドアイ。

 そんな印象的な目元のフォローをするかのような薄ら桃色の唇の美少女。

 多分ルビィと同じ服を着ているのだろうが、少女の身体にはサイズが合っていなく、ブカブカだ。身に纏うグレーの衣服はお尻までスッポリ収まっている。



「……。」

 無言のままニッコリ微笑む少女、その微笑みに俺の視線は釘付けになってしまう。



 なぁルビィ…

 彼女はいったい?



 少女の微笑みは時に可憐で、子供っぽくもあり、寂しそうにも見えた。

 そんな少女に釘付けの俺を見ていたルビィが口を開く


『紹介しよう、私水聖ルビィ・パンダイヤが護る彼女は、私の古い友人である魔王の第二子女、眷族継承権第2位ネオンディアナ・キングスターだ』


 さらッと魔王の娘を紹介された。



 ちょっ!ちょっといいか?魔王って名前じゃないよな?

 マオウキングスターの娘ってことじゃないよな?



『魔王は魔族の象徴であり権力者。人の象徴であり権力者は人王や王と呼ばれているな。』



 すまん、ありがと、いや、なんというか、一応俺の中での魔王とか魔族ってのは人と敵対しているイメージなんだが、ルビィって有名人?なんだよな?そんな有名人が護るって事に疑問しか浮かばないんだが…



『ふむ。ユウのいた世界では人族と魔族は仲が悪いのか?まぁこの国に限らず、他の国では確かに確執はあるな。全ての人族が魔族と共存している訳ではないが…今の国の情勢は人種差別を廃止しているのでユウが思ってるような対立は無い……と言いたいところだが、ソレは後々話そう。』




 いや、俺の居た世界は魔族なんて居ない、というか人以外の知的生命体なんて居ないんだが…。

 てかルビィって何者だよ!?

 人種が違うとはいえ王様と友人なのか?

 しかもその娘を護るとか重大任務じゃねぇか。



『先程も言ったが私は三榮傑の一人。三榮傑というのは10年前の世界大戦を終わらせた勇者に与えられし称号なのだ。なので、この世界で私の名を知らない者に会うのは初めての経験だったぞ。』




 わぁー!勇者様キタコレ!

 じゃぁ、あれかな?魔王とはこんな感じか!?



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



『ふはは!見事だ勇者よ、我に悔いはない、さぁトドメを!』

『魔王!その力私と共に平和な世を造るのに使う気はないか?』

『何を馬鹿な!我は魔王ぞ!人々に仇為す存在ぞ!』

『魔族も人も関係ない、これからは共に生きようではないか、この世界を!それにはお前の力が必要だ!』



 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※




 みたいな?

 的な?

 魔王と激戦を果たし芽生える友情ってかー?

 少年漫画みたいだけど嫌いじゃないぜ、そういうの。




『いや、魔王とは共に世界大戦を終わらせた戦友だ。アイツは勇者の称号になぞ興味は無い。

 と言ってたからな…私からすればアイツも充分な立役者だ、四榮傑でも良いと思うのだがな。』





 お、おう。

 なんか俺の知ってるファンタジーものと、違う流れだな。

 世界を救った魔王も勇者扱いですか…。ちなみにルビィと魔王以外の立役者ってのは人間なのか?




『むぅ。少しユウとは価値観が違うので一概には言えないが…私達の世界では、亜人、竜人、獣人、魔人、そして聖人。厳密に言えばもう少し居るのだが、、これらを全て人間と呼んでいるのだ。そして私以外の三榮傑は獣人と竜人の2人だ。』




 なんかよく分からないが種族が違えど人間には変わりないって思想なのか?

 でもルビィがさっき言ってた人族ってのはどこに入るんだ?





『族分けは線引きが難しいのだが、基本的には見た目の問題だと私は思う。そして、人族や魔族、竜族などは亜人種の大別する呼び方だ、早い話が亜人種以外は族分け等の細かいものは無いのだ。』


 んと、人族は見た目ってのはどういう事だ?



『姿格好が人族であっても獣人の血を引く者もいるし、逆に姿格好が魔族であっても魔の血が薄い場合もある。』



 なんかややこしいな。



『そうなのだ。それこそが先の戦の引き金ともなったと言っても過言ではない。』



 てーことは?もしかして、見た目の違いから差別なんかが生まれてその不満みたいのが戦争を引き起こしたってことなのか?



『そう…だな。端的に言えばその通りだ。まったくもって下らない理由だ、見た目や個々の持つ力、人が血を流す理由なんていつの時代も下らないものだ。そんな下らない理由で戦争は直ぐに起きるし人は死ぬ』


 哀しそうな顔で話を続けるルビィ。



 なんか、変な事聞いて悪かったな…

 思い出したくないこともあるよな…



『ユウが気に病むことではない。これはこの世界の生きる者すべてに与えられた課題なのだからな。』



 なんかあれだな…国が違えば考えや文化が違うみたいな感じか…。でも結局は同じ国で仲良くやってるんだろ?



『そうだな、その前に説明をさせてくれ。

 先程私が言った人種なのたが、この世界の大半が亜人種に分けられるんだ。勿論私も亜人だし、そこのネオンも亜人種扱いだ。』




 ん?ちょっと待てよ、ルビィはともかくネオンは魔族の王の娘なんだろ?って事は魔人種じゃないのか?



『魔人種というのはあくまでも大別する呼び名だ。ネオンは亜人種の魔族というのが正しいな。魔王は魔人種だが、ネオンは亜人種だ。』



 種族分布と族分けが違うってことか?人在らざる見た目でも族分けには該当…って、相当ややこしいな。なんでそんなことになってるんだ?



『聖人と純血種…。』



 ルビィの表情が重苦しいものに変わる。



 さっきも言われたけど、その?聖人?純血種?ってなんだそりゃ?



『この世界の(ことわり)みたいなものだ。』



 そう言ったルビィを見つめる少女ネオン

 先程から一言も喋らず、俺とルビィを見ている。



『神は生物を創った。

 知能の無い生物は繁栄と絶滅を繰り返す。

 神は「全てを率いる存在達」を創った。

「全てを率いる存在達」は世界の生物の統治を行った。

 絶滅を防ぎ繁栄を促した。

 そして「全てを率いる存在達」は様々な生物に自分の代わりとしての種族を創った。

 竜を率いる存在。

 獣を率いる存在。

 魔を率いる存在。

 長寿を率いる存在。

 命を率いる存在。

 木々を率いる存在。

 海を率いる存在。

 空を率いる存在。

 様々な生物の頂点に立つ「率いる存在」は己の種族を繁栄させ、各々の国を創って様々な発展を遂げた。

「全てを率いる存在達」は人という種族を繁栄させた。

 そして「全てを率いる存在達」の知能と「種族を率いる存在」の身体は一つの世界で共存していく。

 そこから生まれたのが竜人や、獣人、魔人と呼ばれる純血種だ。』




 なるほど。

 神話というか、歴史の始まりには神がいるんだな。

 んで、今話した種族の大元となるのが純血種ってことか?




『本当に理解するのが早いな。そうだ、種が固定された後にそれぞれが繁栄していく世界。意志を受け継ぐ者や、そうでない者。多種と交わる者や、そうじゃない者。そうして世界は歴史を刻み続けた。そして純血種と呼ばれる者達は己の国の象徴として未だに歴史を見守っているのだ。』




 んと、結局は祖に当たる種が違う種と交わって出来たのが亜人ってことか?

 それで多種と交わらずにいたのが純血種ってこと?

 なんか難しいがこんな感じか?




『あぁ…純血種の特性を引き継ぐ種は純血種、そうでない者は亜人種と呼ばれていった。ただひとつ。「全てを率いる存在」は聖人と呼ばれる。この聖人は今も昔も変わらず絶対的権力を持ち世界の中枢を手中に収め続けていると言われているがな。』




 ふーん。まぁ大体は分かったような気がするよ。

 でも10年前の世界大戦ってさ、その聖人様や純血種が一言なんか言えば片付けれた問題じゃないのか?



『大戦の話は長くなるからな。そのうち話す。…そうだな、大戦と呼ばれたあの闘いも私達亜人同士のいざこざだ。

 上位種からしてみれば私達の下らない小さな争いを観戦するようなものだったのかもな、最初の頃は放置されていたよ。

 まぁ、そんないざこざも、規模が拡がれば上位種の連中も黙ってはいなかった』


 最初は我関せずってか?世界の中枢を握ってるんなら真っ先に止めるべきだろ?んでようやく事の大きさに気づいて戦争を止めたって訳か?



『なかなか手厳しい意見だな…確かにその通りだ、上位種が国を上げて大戦を防止していればあそこまで被害は出なかったな。結局は魔大陸とここ東聖大陸の半分を異種共存地帯として、なんとか纏まった訳だが…戦争の火種は未だに燻っている。』


 差別や偏見で、いざこざ起きるんだから、それを無くそうって考えは嫌いじゃないな。落としどころとしては、良いんじゃないか?まぁ、お上の考えてることは、よく分かんねえけどな。

 んで?ルビィは攻めてきた奴らをなぎ倒してたら英雄になっちゃった?って感じか?


『まぁ、言い方はアレだが、間違いではないな。北のシグマ国や中央大陸のトーラス国の侵略行為には相当数の亜人達が命を落としたからな…。それを守り抜いた結果、私達三榮傑は良い意味でも、悪い意味でも有名になってな、今ではここイグザ連合国で恐怖の勇者扱いと言うわけだ。』



 なるほどねぇ、大元の悪い奴さえ倒せば平和になる様な世界じゃないって事は良く分かったよ。

 ん?でも、じゃあなんでネオンは保護されてるんだ?

 ここは共存地帯なんだろ?



『私がネオンを保護してる理由か…。』


 ルビィがネオンの方に顔を向け頷く。

 それを見たネオンは目を閉じ微笑みを浮かべゆっくりと頷く、アイコンタクトで通じるものがあるのだろう。



『ネオンは魔王と私の約束。そして再び世界大戦が起きないように保護している。』



 再び世界大戦が起こらない様にネオンを保護している、勇者の一人ルビィがそう口を開く。



 世界大戦て、終わったんだろ?

 そんな直ぐに起こるってのか?




『世界は10年前に領地共存地帯を設け、多種族を差別するような事が無い国作りを掲げたイグザを筆頭に連合国誕生として終止符を打った。

 だが3年前…平和な世人を混乱に落とす、そんな事件が起きた。』



 真剣な面持ちでルビィは話を続けた。



『北の国シグマで魔族の一人が聖人を殺害した罪で処刑されたのだ。』


 重い口をゆっくりと開く

 その表情はなんとも、やるせない気持ちに溢れているようだ。



『この件は東聖大陸中だけでは無く、中央や魔大陸の三大大陸全てに伝わった。それだけ深刻な事件なのだ。』



 聖人様を殺害って。

 俺の居たとこだと、将軍家を外人が殺害したようなものか?結構な国際問題だな。


『何度もな、何度も抗議したんだ!魔族側は冤罪を証明するために情報を集め、魔族代表として、王子が上位魔族を率いてネオシグマ帝国へと赴いた。だが!』


 ダンッ!

 とテーブルを叩きつけるルビィ、木の食器は一瞬宙に浮き、俺とネオンは突然の事に驚く。



『すまない、帝国へ赴いた王子一味が行方不明になったのだ、幾月もの間連絡が取れなかった。魔族達は捜索や情報収集に全力を注いだ、もちろんネオシグマ帝国からの吉報は無しだ、そんな不安定な状況の中、件の魔族が処刑された。』


 おいおい…それってもしかして…。



『確証なんて無いからな、魔族達もネオシグマを疑ってはいたが、何も出来なかった。冤罪の証明を待たず刑を執行するネオシグマ帝国にも怒り心頭に発するものがあったよ。

 そもそも聖人の存在自体、目にした者が居ないので尚更疑いは強かったが…』



 それが大戦の引き金になりそうって事なのか?



『いや…。この話しには続きがあってな、処刑が終わった数日後、処刑された者の遺体が魔大陸へ搬送された。しかし届けられた遺体は一つではなかったのだ』



 なっ!まさかとは思うが…




『王子が率いて連れて行った上位魔族も一緒だったのだ、全員では無いがな。そして未だに行方不明の王子達。』



 マジかよ!?



『魔族側はこの事により人族への宣戦を決めた、軍の編成や人族の戦力把握、様々な準備が早急に行われた。

 だがアイツは、魔王はそれでも大戦勃発だけは避けようと必死に動いた。怒り狂った魔族の民を言いくるめ、抑え、なんとか均衡を保っていた。』




 凄いな魔王…自身の家族が行方不明で、証拠は無いにせよ、引き金を引くには十分な状況なのに、それをせず国民を抑えるのが凄い。俺なら一緒に怒り狂って戦争開始だぞ。



『先の大戦を知ってる魔王からしてみれば無駄な血を流したくないのが本音だろうな。魔大陸には魔族以外の亜人達も住んでいる。それに攻める大陸はここ東聖大陸の北の国だ、共存地帯の魔大陸から種族差別肯定派のネオシグマ帝国に戦争なんて仕掛けてみろ、共存地帯のイグザ連合国も巻き込まれるのは目に見えてる。』



 んじゃぁまさかとは思うが、シグマ帝国が魔族に戦争を起こさせる為に、ってことなのか?


『ほぼ間違い無いな。共存地帯の代表とも言える魔大陸から、人族の国を攻めてみろ、人族は口を揃えて言うだろう、「他人種はやはり危険だ!」とな。

 魔族達に戦争を仕掛けてもらいたいネオシグマ、だが一向に仕掛けない魔族達。そんな均衡はいつまでも持たない何か切っ掛け一つで飽和状態だ。そんなこともあって、次に狙われるとしたら第2子女のネオンが有力、そう思ったアイツは私にネオンの護衛を任せた。』


 ネオンの方を向き優しく微笑むルビィ

 ネオンも応えるように笑顔で微笑む


『人族がネオンを人質に取ったと、魔王は魔大陸中に流布した。それによって、子女の身を案じた魔族側は簡単に戦争を起こさせない抑止力となる。

 人族は「魔族が完全に武装を解いたと判断すればネオンを解放する。その間ネオンは丁重に客人として預かる」という誓約書を魔族達に送った。

 勿論魔王と私達三榮傑の息の掛かった者に書かせたものたがな、効果は抜群だった。

 戦争を此方から仕掛けなければ、ネオシグマ帝国の策も無駄になろうと、魔王の考えた筋書き通りだ。

 ネオンを預かっているその間に、王子達の捜索を続け、上手くいけば停戦まで持ち込める。中央大陸にいる三榮傑の2人も色々やってくれてるしな。

 よって今現在ここでは多種多様な結界を貼り続けネオンを護っていると言うわけだ。』





 なんかスケールが大きすぎてなかなか頭に入ってこないんだが?とんでもない時に現れた俺って、怪しいことこの上ないな、さっきまで縛られてたのも納得するよ。

 ちなみにここは安全なのか?



『愚問だよ、ユウ。安心してくれ、ここイグザ連合国の果ては元々封印の地として棄てられていた地だ。

 最寄りの街からも最速馬車を使って20日は掛かる。歩いて来るには1年以上は下らないな。

 今まで密偵や間者が来たことも無い。支援物資を持った私の手の者が、たまにやって来るくらいだな。私とネオンが一緒に居るという情報は人族には知られていないのだ。』



 へぇー。

 でも勇者様が長いこと封印の地で過ごしてるなんて結構怪しいと思うけどな…




『そうでもないぞ?人族の王達は魔族側を監視するために戦力を様々な場所に配置してある。私はイグザ連合国を護りし剣士、イグザ連合国の最南端ここ封印の地は私の管轄みたいなものだからな。そして私は人嫌いで有名だしな。』



 あ、それなら大丈夫そうだな。

 なによりもルビィは大戦を終わらせた勇者様だ。

 コミュ障は意外だったがな、最強の護衛だな…




 ルビィと話しながらチラッとネオンを見る

 覗うように、こちらを見ている

 吸い込まれそうな赤と紺のオッドアイ。

 思わず目が合うが

 すぐに逸らされてしまう。



『ネオンと私は長いこと隠れるように生活している。

 私はともかく、子女であるネオンにこんな生活をさせるのは忍びないのだがな…』




 早く…



『うん?』




 早く…終わるといいな




『そうだな。魔王も他の2人も頑張ってくれている、この問題も早く終わるさ…私はそれまでここでネオンを護り続けるよ。』





 ……


 ……




 俺との会話を終え

 ネオンと思念通信しているルビィ


 さて、元の世界への手がかりを探す為に、まずは言語習得するとしますかな。

 いつまでもルビィに通信してもらうのも面倒だ。

 ネオンとも早く話したいしな…

 って…

 あれ?なんでネオンとルビィは思念通信してるんだ?

 俺に通じなくても普通に会話すれば良いのに。



「おーい、ルビィ!」


 コンコンと

 ベッドの枠を叩いてルビィを呼ぶ



 ……




 …




『どうした?』




 あ、いや大したことないんだが

 なんでネオンと普通に会話しないんだ?

 って…思ってな。



『そ……。そう、だったな。ネオンは喋れないんだ。』




 え!?






『結界との関係でな。言葉を発する事を禁止としている

 …結界には幾つもの誓約があってな、ユウにも守って欲しい事柄がある。と先ほども言ったが、ネオンが喋れないのは誓約の一部、そんな感じだ。まぁ深く追求しないでくれると助かるのだがな…』



 まぁいいよ、言いたくないとか言えない事を、強引に聞くほど野暮じゃねぇさ、それより悪かったなネオンと話してるのに、大事な話っぽかったから早く戻ってやれよ。



『ふふっ。優しいなユウは…』



 よせよ、んでもまぁ、お互いに分からない事や不便はあると思うけど、これから宜しくって事で…




 右手をルビィに差し出す



『あぁ!宜しく頼む』


 力強く握手を交わす。

 お互いにまだまだ知らない事も多い、これから知って行けば良いさ、怪我が治りきるまで時間はたっぷりある。

 帰る手段を探すのは、それからでも遅くない。




 ネオンとも握手を交わす。

 笑顔で俺を迎えてくれる、さっきルビィに俺のことでも聞いたのかな?警戒はされてないみたいだ。


 喋れないからか、ネオンは表情を動かすのが非常に上手い、恥ずかしがりながらも笑顔で俺の手をしっかりと握る。




『さて、そろそろネオンとの会話に戻るとしよう…ユウが来てから通信が倍になってしまった、私もなかなか大変だぞ、ふふっ。』




 あぁ、悪かったな。

 早く言語を習得して普通に会話出来るよう頑張るさ。

 ところで、ネオンと何を真剣に話してたんだ?




『夕飯は焼きか煮込みかで口論になってな、私としては焼きが良いのだが、ネオンはいつも煮込みが良いとゴネるのだ。』




 結構どうでも良い会話だった。



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