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ここではないどこかへ  作者: ししまる
第一章 異世界 ~封印の地~
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2話 夜明け 目覚め 出会い

 

 暗い。


 真っ暗だ。


 いつか感じたような、そんな感覚。


 なにかを忘れてしまっている、だけど。


 なにを忘れているのか思い出せない。


 記憶を辿る、やはり思い出せない。


 いや違うな。

 思い出したくない。


 そうなのかもしれない。


 永遠と続いていく暗さ、でも不安はない。

 恐怖もない。


 ただ一つだけあるとするなら。

 言い表せないモヤモヤした感覚。







 ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 どこかボンヤリとした感覚が肉体持って動かそうとしている。

 徐々に身体と意識がシンクロしていき、頭の先から足の先まで、ゆっくりと伝達していく。


 起きる時間…か、瞼の向こう側が明るい、夜は明けたのか?


 ん?


 なんだ?これはベッドか?


 全身の感覚が戻ってきたのを確認し、恐る恐る目を開ける…







 見知らぬ天井、ここはどこだ?

 部屋なのか?いったい誰の?


 えっと…

 思い出せ…


 昨夜買い物帰りで、ゴミ捨て場の違和感。

 マナという女に絡まれ、急に力が抜けるような感覚。

 姿は見えなかったが謎の男から襲撃…。


 その後気づいたら大草原にぼっちで、ウサギ…。

 骨折…指先欠損……。



「痛ッ!」



 傷口を思い出し箇所を確認するように意識を向けると、痛みがやってくる。

 が、何か違和感が、腕を動かそうとすると、上手く動かない。両手首が締まる感覚。



「これって、縛られてるのか!?」



 傷だらけの両腕を布団から出し、眼前まで上げ確認する

 交差された手首のところを縄みたいなもので縛られている、腕の至るところに噛まれた跡や擦り傷、そして、食い千切られた指はガーゼの様な布が当ててあり血で赤く滲んでいる。


 誰かが治療してくれたってことか。

 でもなんで縛られているんだ?


 足の方へ意識をやる、右足は動かそうとするだけで鈍痛が走る、左足をモゾモゾと右足付近を確認すると、右足に添え木のようなもので治療されていることが分かる。


 不思議と骨折自体は治って無いのに足を固定されているだけで痛みは和らぐ。



「なんにせよ助かったってことか」



 ほぅっと一息。


 未だ縛られているので助かったとは一概に言えないか…それにしても人が近くにいるのか?


 今いる部屋からは人の気配を一切感じない。


 どこかへ出ているのだろうか?

 身体を起こしベッド際のテーブルに木の器で造られたコップの様な物がある、中には透明な液体。おそらく水であろう。


 何の警戒もせず一気に飲み干す、乾いた喉を伝い空腹の身体に染みわたる感覚。



 ぷふぁあ!生き返ったぁー。



 おかげで眠気も取れ頭がスッキリしてくる。




 ……




「£¢$£‰%¤€¢¥?」



 どぅえええッッ!?


 突如聞こえた理解不能な言葉の方へ目をやる、その声の主がそこにはいた。

 透き通るような声の主、思わず目が合った瞬間なんとも言えない感覚に落ちる。



 椅子から前かがみにこちらを覗くようにみる女性。

 陽の光を浴び輝く髪。

 薄いピンク混じりの金髪を頭頂部で一纏め、その美しい髪で顔の左側を隠しているが、顔の右側から見える瞳は作り物のような金色の瞳。

 どこか幼さも感じるイタズラな口元、俺の知ってる日本人のそれとは違う顔立ち。

 頬には大きな傷。

 座っていてもわかる大きな胸はグレーの衣服を今か今かと内側から押し出している。


(ゴクリ…)


 デカい。

 いやただ大きいだけじゃない!

 全然垂れてない、首筋下に見える谷間が…



「£$£¥¢€¤%¢€¤‰‰?」



 見入ってしまった俺に、目の前の女性から不可思議な言葉が投げかけられる。




「あ、あのー…」

「%££¢¢€¤$£」

「えっと…」




 まずい…

 聴き取れない、例え英語で話されても聴き取れないが。


 こういうよくある異世界転移の流れなら言葉通じるのが、当たり前じゃないのかよ!

 非現実的な世界なのに、妙なところが現実的だな。



 言葉の通じないであろう俺に、目の前の女性は困った顔をして、顎に指を当てて何かを考えているようだ。


 その可愛らしい仕草が、美しい見た目とのギャップとなり、俺の心臓をドキッとさせる。


 そんな事を考えていると、スッと立ち上がる女性、頭頂部で一纏めにされた髪の毛は肩の後ろへ流れ、はち切れそうな胸を支える程よく引き締まった腰と、その下に伸びる足が露わになる。

 その美脚は、まさに脚線美という言葉が似合う。


 スタイルいいなぁ…。後で振り返った時にでもお尻のチェックもしよう…えへへ


 そのまま俺が寝ているベッドへ近づいてくる、フワッと脳に刺さるような甘い匂いが女性の髪の毛から放たれる、目の前には重力無視に揺れる胸…



 ち、近い…



 暴力的な胸を凝視していると、その胸の横から細く引き締まった腕が動く。伸ばされた指先が俺の額に触れる。



 あ、少し温かい。


 ポゥッ


 と額に触れる指が光を放ち熱を帯びる。





『きこえるか?』



 えっ!?頭に声が!?

 目の前の、おっぱいお姉さんの声みたいだけど…。



『だっ!誰がおっぱいお姉さんだ!』



 うえぇ!!心読まれた!?



 チラッと目の前の女性を見ると頬を赤くして胸元を隠すように手で押さえてる。その仕草で形を変える胸…



 うぉっ!すっげぇおっぱい。

 そして顔を赤らめたお姉さんもいいなぁ…



『それ以上卑猥な目で私を見るのなら

 その目………潰すぞっ!』



 ひぃっ!ごめんなさい!

 ってあれ?

 会話が成立してるような??



『よく聞け!今私の術で直接お前の頭の中に意思を伝えている。逆にお前の頭の中で考えていることは全てでは無いが、ある程度聞こえる、嘘や隠し事は出来ないと思え!』



 お、おう。

 なんか凄い内容が頭に流れてきてるぞ?

 しかし今の流れからいって心読まれてるのは間違いないのか。



『お前の思った通りだ、理解が早くて助かる。』



 あぁ

 本当に通じてるみたいだ。

 非現実的な現象だが、異世界だしな、いちいち突っ込んでいられない。

 しかし頭の中を覗かれてるってのは気まずいな…迂闊に変な事考えたらバレるってことか?


 んじゃ、例えばこの目の前にあるおっぱいのを…





 ドスっ!



 少し魔が差した時、2本の指が目の中に突っ込まれた。


「ふんぎゃぁぁぁ!!!!」



 痛い痛い痛い痛いっ!!!

 マジか!本当に目潰ししてきやがった!!

 痛い痛い痛いっ!涙で前が見えない!視界ゼロ!!

 ぐおぉぉぉこれは痛い。



『安心しろ!失明まではいかない。お前のその汚らわしい視界を封じたたけだ。』



 失明まではって、充分痛いんですけど、あぁ…出血とかしてないよなー痛ててて。



『安心しろ、それくらいの力加減は出来ている。さて、話に戻ろう。先ほどから訳の分からない事を考えているようだが、それは後にでもゆっくり聞くとしよう。』


 頭に響く声色が真剣なものに変わる。




『まずひとつ、お前は何者でどうやってこの場所へ来た?』


 こっちが聞きたいよね。それ。

 なんて説明すれば良いんだろう?

 正直に「昨日、いや、一昨日か。家の近くのゴミ捨て場で気を失って、目覚めたらここにいました」って言っても信じてくれないんだろうしな。


 かと言って上手いこと誤魔化そうとしても、頭の中覗かれているなら、結局正直に言うしかないのか…?

 さて困ったぞ。




『…』



 何者だ?って言われてもな。俺はどこにでもいる典型的日本人の22歳(彼女募集中)で通じるのか?


 お姉さんが使ってる言葉や、見たこともない景色、あのウサギとか俺の知ってる世界じゃないから…。


 あぁ混乱してきたぞ、思いのほか自身の証明ってのは難しいな。さて…本当になんと言おうものか…。


 試行錯誤している俺に目の前の女性は口を開く。


『ふむ。なるほどな。確かに…にわかには信じられない。だがお前の頭の中では本当の事のようだな。』




 あれ?信じてくれた?



『全面的に信じた訳ではないがな。先ほども述べた通り、お前の思った事はある程度分かる。もちろん嘘や偽りも手に取るようにな。』



 マジかよ!

 チートっていうんだよ、それ!

 でも…そうか!俺が今頭の中で、嘘や誤魔化しを考えてすらいなかったから、それが俺の頭にある真実って解釈なんだな。凄い能力だな。これ。




『訳の分からない言語が出てくるな…今お前が思った通りだ。一応は信じてみることにするが、怪しい動きを見せた瞬時に、お前の頭と胴体は別だと思え』



 ふぉーい!

 なに物騒なこと言ってるんだ?

 この人おっかねぇ。

 えっと、とりあえず信じて?もらえたのかな?

 まだ怪しまれてるけど、こっちとしては質問される側じゃなくてする側なんだけどなぁ。




『ふむ。お前の質問は後ほど聞いてやる、ただし生きていればだがな…。さて、ふたつめだ。昨夜お前が使った炎の術について聞きたい。』



 サラッと殺人予告しないでくれますかね?

 ってなんだって?使った炎の術?なんだそれ?


『お前の持ち物は調べさせてもらったが、あの場に火を起こした様子も道具もない。ならば炎の術ということになるが、お前は炎の術を使えるのか?どこで覚えた?いや、何故炎の術を使える者があの場で瀕死だったのだ?』



 ちょっ!ちょっと待て、話が進み過ぎて追いつかないから。えっと、炎の術とか自信満々に言ってるけど、俺の持ち物調べたならZippoとかライターとかあったんじゃね?



『じっぽ?らいたぁ?』



 今、理由わけあって目が見えないけど、銀色の手に納まるくらい小さくて四角いヤツ、蓋付きのライターじゃ通じないか?えぇと火付け石?みたいなのだ、もし無かったら俺の持っていた鞄の中に、色の付いた親指より少し大きい形のモノがあるはずなんだが…。


『なに!…………コレが火付け石なのか!?』



 コレ言われても見えないから断言出来ないけど、近くにあるなら、ちょっと手に持たせてくれないか?



『…なに?』



 安心してくれ、何もしないよ。

 心読めるんだろ?ただ火を付ける、炎の術とかじゃ無いって証明させてもらうだけだからさ。




『命を落とすような真似はするなよ…』



 チャキッ

 音と共に首筋に冷たい鉄の感触。

 そして恐る恐る縛られたままの手に渡されるZippo



 うぉっ!びっくりした!

 ってかコレ首に刃物当たってるよな?マジかよ!?

 うまく着火してくれなきゃ首チョンパとかやめて欲しいんたが…まぁ、いいや、今から火を付けるけど、一応少しだけ離れてろよ、火傷したら大変だ。




 ピンっ!

 シュッ!

 ボッ!


 慣れた手つきで火を灯すと、額に触れている指と首に当てられ刃物が一瞬ビクッと反応する。



『ふぁっ!…これ!ホントに…。』



 なにその反応…可愛いんですけど。

 上手く着火いてくれて良かったわ-。

 もう消していいかな?目も見えてないから危ないし。



『可愛っ!お前はっ!私を馬鹿にしてるのかっ!』



 痛たたただだだだだ!

 なんか首痛い痛い!刃物食い込んでない?

 ちょっ!コレ首大丈夫?え?切られるの?



『はっ!?スマン!つい。』


 そう言うと首に当てられていた刃物の力が弱まる。



「つい。」じゃねぇよ!

 こちとら身動き取れないんだから、「つい」で首落とされるとか笑えないからな!マジで!扱いには気を付けてくれよ!



『くっ!かっ…勘違いするなよ!お前の命はまだ私の判断次第だということを忘れるな!』



 そんなテンプレート言われても逆に安心しちゃうつーの。

 えっとー、お姉さん…ってのも呼びにくいな。

 なぁ、名前を教えてくれないか?

 そして首の刃物をどけてくれないか?

 ついでに拘束を解いてくれないか?

 あと腹減ってるから何か食べられるものも…



『お前…随分余裕が出てきたようだな…。まぁ、聞きたい話はまだあるが…そうだな…私の名前か。

 ある意味確認出来る事もあるし、教えておこう。』



 首筋に当てられた刃物をそっと遠ざけ、布を俺の首に当てながら止血する。やっぱり切れてたのか。

 手首にヒンヤリとした感触を感じると、ブチッっと縄の切られる音。それと共に訪れる、両手首の開放感。




 おぉ!サンキュー、ちょっと楽になったよ。

 首、自分で押さえれるから大丈夫だ、手離していいぞ?



『はぁ…。何か調子が狂うが、まぁいい。よく聞け!

 我が名はルビィ・パンダイヤ!

 ここ東聖大陸イグザ連合国を守りし三榮傑の一人!水聖ルビィとは私のことだっ!』




 うん…。なんか分からないけど、宜しくどうぞ。

 俺はユウ。真上悠。よろしくな、ルビィ。





『あ、あぁよろしくユウ。って…あれ?私の名前は知っているよな?三榮傑だぞ?』




 いや…知らん。イグザってのも初耳だ。

 だから三榮傑も何も、俺は本当にこの世界サッパリだ。そんなキョトンとした感じで言われても、俺からして見れば、ルビィは普通の可愛いお姉さんにしか見えなかったぞ?




『…お前…本当に?違う世界から…?私を知らない…そ、そうか…私が普通の…ふっ。』



 ルビィは結構有名なのか?

 まぁ、それだけ可愛くて綺麗なら納得はするが、国を護るとか言ってたしな、もしかしたらかなりのお偉いさんなのかもな…


『ふっ…そう…か…。ふふふっ。あははは。ははは。』



 突然笑い出すルビィの声と頭の中の声がタブって聞こえる不思議な感覚だ。



 おい!急にどうした!?大丈夫か?

 俺なんか変なこといったか?




『あははは。はぁ…はぁ。すまない。初めての反応だったので思わず笑ってしまった。ふふふっ。そうか……私が普通か…そんな事を言ってもらえるなんて何年ぶりか…ふふふっ』



 あ、ルビィ?さん?

 大丈夫?

 そんなに面白い反応だったのかな?




『はぁぁぁ。あー、久しぶりに笑ったぞ。

 …ふう

 ではユウ、もう一つきかせてくれ!

 お前は「聖人」という言葉は知っているか?』



 成人?

 二十歳超えたら皆成人?の成人じゃないよな?


 性人?

 それなら少し思い当たるな。

 男は皆、性に興味がある。うん。

 いや女も一緒だな。

 ならば性に興味を持ったら性人。

 そうだ!さっきからおっぱいを気にしてしまうのは性人だからだ!


 ルビィ俺は性人だ!間違いないぞ!




 ガンッ!


 くげぇ!頭頂部が痛い!硬い物がっ!

 あ、痛たたた、グリグリしないで…



 まだ笑いの余韻を残しながら俺に質問するルビィ、素直に返したら何か鈍器な様な物で頭を殴られた。

 本人的には軽く小突いただけなんだろうが、この人案外馬鹿力だ。



『はぁ…。お前に質問している私がバカみたいだ…まぁいい。ユウよ、お前の危険性はある意味かなり上がったが、同時に私の警戒するような敵では無いことが分かった』



 なら味方に傷害おこすなよ!いってぇな。

 てか俺の危険性上がってんじゃねぇかよ。

 まったく。

 暴力的なのは乳だけにしろよ…攻撃力高すぎだからな!それ!



 チャキッ…

 刃物を構える音がする。


 突かれた目の痛みも大分薄れてきた、目を擦りながら瞼を開く。5分そこらの会話ぶりに視界がやけに明るく感じる。

 目の前には俺の額に指を付けながら、此方を眺めるルビィがいる。

 怒っているのか、恥ずかしいのか顔が赤い。

 陽の光が照らし出す目の前の女性に目を奪われる。

 綺麗な顔立ち、豊満な胸…

 もう片方の手で構えられた刃物、剣。中世ヨーロッパくらいのイメージしか出来ないが日本の刀とは違う剣。

 その剣先を俺に向けて構えている。


 それさえ無ければなぁ…。

 引いてくれよその物騒な物。



『ユウは女性の身体の特徴を悪戯にからかうな!私の中の正義は女の敵を簡単に切り落とす!覚悟しておけ!そして一つ勘違いを正そう!ユウは私の敵ではないが、味方でもない!わかったな!』




 了解しました。気を付けますよっと。

 さっきから首筋に当たってた刃物はソレだったのね…。

 さてと、聞きたい事は山ほどあるんだが、さっきも言ったが、幾つかお願いがあるんだ。

 まぁ取り急ぎお願いしたいのは腹ごしらえなんだがな…



『応えられる範囲のみなら答えてやろう。それとお願いというのはなんだ?あまりふざけたことを言うようなら…』



 …ストーーップ!!

 武器をチラつかせるなよ。

 お願いってのは、この世界の事とかルビィが使ってる言葉を教えてくれないか?



『なに?』



 さっきも言ったが俺はこの世界の人間じゃないと思うんだ。

 だから俺は元の世界に帰りたいんだよ。

 かと言って帰れる方法とか、思い当たる事が何も無い、情報不足ってやつなんだ。

 ルビィの反応を見るに俺がすんなり元の世界に帰れそうにないのは分かった。

 かといって諦める事は出来ない。



『元の世界…。か。』



 情報収集するにしてもさ、この世界どれだけの言語があるか分からないが、俺の言葉がルビィに通じてないところをみると、使われてないんだろ?



『何故そう言いきる?私が知らないだけかもしれんぞ?』



 えっと…さっきルビィは自分の事を知らない俺に凄く驚いていたよな?ということは、この世界の人間はルビィを知っていて当然な訳だ。

 言い換えるなら顔が広いってことだろ?

 そんなルビィが喋れるかは別にしても聞いたこともない言語なんてあるのかなー?って考えてみた。

 勿論ルビィも知らない聞いたこともない言語もあるかもだけど、可能性はかなり低いと俺は思うんだけど、どうだ?




『ふふふ。かなり穴がある推理だが、なかなか的を射ているな。ユウ、お前は賢いな。確かに私は5つの言語を喋れるし、習得していないだけで他の言語の知識はある。それ故にユウの話す言葉は私からすれば動物や魔物の鳴き声を聞き分けるくらい難しい。』



 ははは。誉めてもなにも出ないぞ?

 てか日本語は動物扱いなのか…てか魔物とか言った?


 まぁいいや、んで、どうだ?教えてくれるのか?



『あぁ構わない。しかし交換条件として、ユウの喋ってる言語や居た世界の事も私に教えてくれないか?』



 世界のことは良いけど、日本語もか?この世界じゃ意味ないんじゃないか?

 使うの俺だけだし。



『なに、ただの暇つぶしだ。追々話すが色々と事情があって暇なのだよ。無駄かもしれないが知識は良い物だ。それとユウが使った火付け石の使い方も教えて欲しい。』



 そんなので良いなら教えるよ…って言っても、簡単だぞ?すぐに使えるよ、ほらコレ持ってていいぞ?





『そんなに早く習得出来るのか?体内エナをゴッソリ抜かれるとかは無いのだろうな?』



 えな?

 よく分からないが、このライターを使うに必要なのは

 指先の力と慣れだけだ。さっき俺がやったみたいに、先端の石を回すだけだからさ、やってみろよ?



『こ、これを私が、いきなり使えるというのか!?』



 恐る恐るZippoを手に取るルビィ。

 緊張してるのか、指先が震えている、



 ピンっ!

 シュッ!

 ボッ!



『おおっ!出来た!私にも出来たぞ!』



 嬉しそうにしてら…

 初めて見る道具だ、感慨深いものがあるんだろうな。

 どうだ?ルビィ…簡単だろ?



『あ、あぁこれは凄いな。しかしどういう原理なのだ?下が蝋燭なのか?いや違うな、この燃えてる部分は一向に減る気配が無いのだが。』



 簡単に言うと燃えやすい油みたいなのが中に染み込ませてあるんだ、そこに火付け石の要領で引火する。染み込ませてある燃料…

 まぁ油が無くならない限り燃えているんだ。


 ってオイルの予備も鞄の中か?色々入ってたような気がするけど。


 そうだ!鞄!ウサギといざこざあって、放り投げちまったのか…

 鞄もそうだけど買い物袋も一緒に無くしたままだったんだ!

 はぁ…食料もあの中じゃねぇかよ。



『ふむ…まだまだ話したい事は山ほどあるが、先に食事を用意してやるか。』



 マジか!ホント助かるよ。

 正直ここまでなにも食わなかったのは生まれて初めてかもしれない。




『ふっ…大袈裟な。では私は軽く食べれるものを用意してくる。言っておくが、勝手な行動は…

 といっても、その足では部屋から出ることも出来ないか。』




 あぁ、調べたいことや聞きたい事はあるけど今は食事が一番だ。寝て待つだけで良いなら言うこと聞くよ。




『では少し待っていろ。そんなに時間は掛からない。

 ただ訳あって、簡素な物になるが文句は無いな?』




 その訳とやらも後でゆっくり聞かせて貰うよ。




 ふふっと微笑み、ルビィが立ち上がり額から指を離そうと…




 あ!ルビィ!

 ちょっと待ってくれ!




『なんだ?』




 いや、なんか混乱とか色んなことあって忘れてたけどさ、言わなきゃいけないことあってな。

 助けてくれてありがとう。手当ても感謝してる。



 俺の言葉に微笑みながら、ルビィはその場から離れ部屋の外へ出て行った。



 ………


 ……


 …



「異世界…。か。」



 まずは情報収集だ、帰るために出来ることを考えよう。

 原因は多分あのゴミ捨て場の違和感、ゲートと呼ばれてたモヤモヤの違和感…だな。


 もしかしたら他にも俺と同じように、この世界に来ている人がいるかもしれない、それも視野に入れて行動しなきゃだ。


 しっかし、漫画やアニメの世界なら、主人公補正みたいなので上手く立ち回れるはずなんだが、野生のウサギにいきなり殺されかけるなんて誰が想像出来るんだよ…。


 そもそも来る前から身体中の力持っていかれたり、骨折したりの満身創痍状態で異世界召喚とか、なんの罰ゲームだ…


 喰い千切れた左手中指を見ながら歯を食いしばる。



「甘くないな。現実は…」



 物音一つしない部屋の中で

 独り呟く。

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