ここではないどこかへ
この物語は、出来るだけ一般の方にも読みやすい様に改稿してあります。
小説を読み慣れた方には少し物足りない表現が多いですが温かい目で見守って下さい。
夢…
真っ暗な空間
人の話す声が聞こえる
聞いたことあるような
懐かしいような
どこかモヤモヤした感じ
「明日もよろしくね!」
「皆で協力すれば…」
「ハッキリ言って気分悪いわ!」
「俺は…嫌いじゃないぜ」
「お前の!!お前のせいだ!!」
「ぶっちゃけいいよ」
「てめぇは凄ぇよ」
「好き…だよ」
……ユウ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ぶふぅぁっ!!!!」
開口一番変な言葉を発してしまった。
目を開けば、いつも通りの天井、壁、枕元には昨夜読みかけの漫画、8畳間の部屋の真ん中に陣取ってるコタツの上には、捨てていない吸い殻が溜まった灰皿、中身の入ってないビールの缶が横に倒れてる。
手元にあった目覚まし時計を確認する。
「ん……また、寝落ちか…」
1月13日深夜2時、どうやら昨夜酒を飲みながらコタツで漫画を読みつつ寝落ちしてしまったようだ。
今日は……仕事が無い…か。
「ふぅ…っしょっと、」
身体を起こしタバコを咥える。
火は付けることなく咥えるだけ。
寝起きの頭痛なのか酒の影響なのか頭がまだ少し痛い、、、歯で咥えプラプラとタバコを上下に揺らす。
ピンッ!
シュッ!
ボッ!
愛用のZippoライターに火を灯しタバコの先端に近づける、ジリジリと先端が燃えるのを見ながら咥えたタバコを一吸い。
「ふぅぅぅぅ……」
うめぇー。
喫煙者にはたまらない寝起きの一服。
未だにボーっとする頭にニコチンを流し込む、余計にボーっとするが2口、3口と吸ってる内に頭はすっかり覚醒していく。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
俺の名前は真上悠22歳
独り暮らし歴4年、8畳間のアパートでバイトしながら生活しているどこにでもいるフリーターだ。
俺は高校卒業後、いつかデカい男になる!って意気込みながら田舎を飛び出した。
けど何一つ満足に行かない現実に叩きのめされ、現在はコンビニや警備員、居酒屋等、様々なバイトを掛け持ちながら、この狭いアパートで生活している。
たまに実家に帰れば「早く就職しなさい!」の一点張りだ。
まぁそう思うものの、なかなか行動出来ずに結局ダラダラと成人して、そして同じような毎日の繰り返し。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「腹減ったな……」
そう呟きながら部屋の中をサッと見渡す、床には食べ終わったスナック菓子の袋、コタツの上には空になった弁当と空き缶、そして空のコンビニ袋、冷蔵庫の中はビールしか入ってないので見る必要すらない。
コタツの中で熱くなった自身の足を外に出すと、なんとも言えない心地良い気持ちになる。
寝起きのせいもあるのか、まだ少し頭がボーッとしているが、空腹のおかげもあって、あやふやな脳内が徐々に覚醒していく。
「買い出しでも行くか……」
と言ってもこんな深夜では近所のコンビニくらいしか空いてないのだが、それでも空腹には耐えきれない、耐えてこのまま朝まで寝ても結局食を求めて動かなければいけないのだから、どっちにしろ買い出しは必要不可欠だ。
重い身体を起こし、昨夜脱ぎ捨てたGパンを履きTシャツの上にはパーカー、更にその上にフード付きのアウタージャケットを羽織り、出先にはいつも使っているショルダーバッグにタバコとライター、財布、諸々を詰めて外に出る。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「しばれるなぁ…」
つい方言が出てしまう。
今は1月、吐く息も白く、水たまりも凍る深夜2時。
俺が今住んでるところは雪は積もっていないが、寒いものは寒い。
俺のバイト先でもあるコンビニまでは徒歩10分くらい、暖まってた身体が冷えるには充分な距離だ。
「うぅぅ、さぶぅ」
深夜に人が少ないのを良いことに独り言を言いながら白い息を吐漏らしつつ、アパートの敷地内を歩く。
ジャリジャリと小石か氷か分からないが足音がよく響く。
さっき起きる前までの夢…あの感覚。
懐かしいような、当たり前のような、なんだったんだろ?
なにかが引っかかる様なモヤモヤした感じのままアパートの敷地内を出て、直ぐ近くのゴミ捨て場を通り過ぎ…
……
ん?なんだ?
ふとゴミ捨て場に目をやる。
特にこれという訳では無いのだが…気のせいかソコだけボンヤリと、フワッと、言い表せないような感じだ…色が違って見える不思議な感じ。
「なんだ?これ?」
普段なら気にせず素通りするであろうゴミ捨て場…
明らかに違和感みたいなのがある。
どこがいつもと違うのか理解できないが、でも確かにいつもと違う。
その場に足を止めてジーっと見つめるも変化はない。
いつまでも気にしていても仕方ないか、さっさと買い物を終わらせて帰ろう。
首を傾げながら、そんな違和感も軽く考え目的地のコンビニへと足を運ぶ。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「っしゃいせー……ってかオツっすー」
コンビニの自動ドアが開いた瞬間に後輩からのやる気無い接客サービスをいただく。
「うぃーっす、暇そうだな。ロス弁貰いにきたぜー」
先輩風を吹かせながら店内に入るなり雑誌コーナーを物色、すぐさま暇していた後輩が近くに寄ってくる。
「ユウさん、聞いて下さいよーマジヤバイっすよー」
「ん?なんかあったの?」
へらへらと笑いながら、茶髪ピアスの開けた制服が、だらしない後輩は基本的に何でもかんでもヤバイを連呼する、通じることもあるが、こっちが考えなければ会話が成立しないことの方が多い。
いつもの事だから大分慣れてきたけど、話す内容は基本的に然程深刻なものではない。
コイツいっつもヤバイしか言わないんだよな…
「さっきー外人?みたいな-?コスプレ女がきてー、格好とかマジヤバくてー、超カラコンでー、会話とか何言ってるか分かんないしー、しかも何も買わずに帰ったとかヤバくないっすかぁー?」
「なんか色々怖いな。」
「っしょー!??マジヤバくてオレ怖かったっすよー」
もう、なんだ?なに言ってんだ?
俺が適当に流したのに何でヤバイを上乗せしてくるんだよ、普段他人との会話成立してるのか?
でもその女?少し興味あるな、、、
「外人?どんなん?」
「えっとー、肌白くてー鼻高くてー、けどー、なんつーかー格好とか良く在るロープレゲームっぽい感じでー、あとー、、」
「何か言ってたって…?」
続きがありそうだが、なんだか中身のない感じなので会話を切って返答してみることにする。
「そっ、そうそう!なんかー…店内に入ってきて、客とか俺とかずっと見ててー暫くしたら話し掛けられたんスけどー、ほら!俺とか英語分かんないじゃないですかー、真顔で異文化交流とかオレ超テンパイ!」
後輩と外人さんが会話していたのを想像しただけで恐ろしい。てか俺も英語すら話せないしな、今後職場に来たら嫌だな、対応出来る自信がない。
来るにしても俺の居ない時間に来てくれ。
「まぁ、色々あったみたいだな、お疲れ。
適当にロス弁1個くれ、後タバコ。」
「っすぅー!了解っすー!タバコってセッターっすよねー?カートンいっちゃいます?カートン!袋とライターどっちします?」
「ライターこの鞄に三つくらい入ってるからな…ゴミ袋頂戴。」
「ぃっすぅー!かしこまりぃー!」
なんで深夜にこんなテンション高いんだよ。
元気だな、ちょっとオラに分けてくれ。
ゴミ袋で良いから、と合図しながら大きめのペットボトルのお茶、あと一応非常食に袋麺と缶詰を数個買う。
あ、そうそうコレも一応買っておくか…
部屋のストック用のメモ帳とボールペンも一緒に買う。
「あっざーす!ユウさんマジVIP買いっすねー!ヤバイっすねー」
「はいはい、ヤバイヤバイ、俺やばーい。後ホットコーヒー、Rで。」
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
ズズッ。フー。
買い物を終わらせ家路を歩く。
歩きながらホットコーヒーを啜る。
歩きながらだと、なかなか上手く飲めないので、立ち止まっては一口、立ち止まっては一口を繰り返しながら歩く。
手持ちの買い物袋を、ヒョイと持ち上げ、コンビニで大量買いしてしまった事を少し後悔。
あ!
アイツ!ロス弁忘れてるじゃねぇか!
戻るのも面倒だな…帰ってラーメンにするか。
まったく、深夜にあんなテンションで接客されたら客も減るんじゃないか?
まぁ普通の客にはあそこまでの勢いでいかないか…
しかし外人コスプレ女とか怖いな、会話が成立しないのがキツい、頼むから俺のシフトと被らない事を祈るぜ!
「ん?」
いつもの帰り道、いつもの風景、だけど…帰り道のゴミ捨て場がやはり変な感じだ、モヤモヤとボヤッとフワッと、言い表せないような感じがまだ続いている。
やっぱり変だよなぁ…。
近づいてよく見てたみたが、何も変なところは見つからない、むしろ気のせいかと思うくらいに先程までの違和感が消えていた。
仕方なしに部屋に帰ろうとするが、どうしても気になって後ろを振り返りゴミ捨て場を見る。
やはりボヤッと、フワッと、言い表せないような違和感がそこにはある。
「なんだよ…変な会話聞いて俺までどうにかなったってのか?」
もう一度近くまで行く。
道を挟んで歩道の端に腰を下ろしてその場を凝視する。
違和感…
確かに何かがおかしい感じがする…
……
どれくらい眺めてただろうか…
5分、10分、いやもっとか?
足先は冷えきってるし身体は体温が下がり自己防衛のために震えてきている。
何故気になるのか?ここまで凝視する必要があるのか?
分からない。
そんな俺の目の前を深夜だというのに人が通り過ぎる。
何も気にせず通り過ぎる。
「他の人には気にならない………のか?」
意味の無い確信を口にする。
だから何かが変わるわけでもない、違和感は消えないし、俺のモヤモヤも晴れない。
何人もの人がゴミ捨て場と俺の間を通過する、自然にいつも歩いている道を歩くように。
……
帰ろう…かな
そう思った時。
誰か向こうから歩いてきた。
おそらく酔っているんだろう、足どりが覚束ない感じでフラフラ歩いている。
背丈からして女の様子だが、格好が妙だ。
普段目にするような一般的な服装なのだが、季節感が全く無い、というかおかしい。
まず目に付いたのは、太腿からスニーカーまで素肌丸出しの白いショートパンツ。
見るからに夏物であろうインナーに、ボロボロのパーカーを羽織ってフラフラ歩いている。
なんだありゃ?真冬にあんな格好して、どっか温かいところで酒飲んでタクシー拾っての流れか?にしても季節感無さすぎだろ。
そんな事を頭に浮かべながらも、ずっと見てるのも変だし俺はゴミ捨て場に再び目をやる。
ふぅ、まったくなにしてるんだ俺は…
いい加減寒いし、帰ろ。
そんな自己嫌悪に浸りながら、腰を下ろして何度目か分からない決意。
腰を上げようと…その時
「ああ、疲れたぁ…。さてと、早く帰って…って?」
そう言いながら俺をチラッと見る
ん?今こっち見たのか?
一瞬俺の方を見た女は、少し首を傾げながら、真っ直ぐゴミ捨て場へと向かう。
「あれ?なにこれ?っ…えっ?ちょっ、ちょっと待って?」
女の方は素に戻ってる?そんなに飲んでなかったのか?
いや、そんなことはどうでも良い、問題はゴミ捨て場に向かって何を言ってるんだ?
やっぱり酔っぱらいか?
「これは!あり得ない、あり得る訳がない、でも、だとしたら何故こんな事に…そもそも私が……」
女の表情がわかりやすいくらいにイラついてる。
ゴミを幾つも横にどけながら、何かを探しているようにも見える。
端から見たらホームレスかなにかだぞ。
変な事に巻き込まれる前にコタツに入ろう。
明日また気になったら見てみるのもいいかもな。
なんて考えながらその場に立ち上がろうと足に力を込めた瞬間
ドサッ!!
渇いた音と共に目の前にゴミが飛んできた。
俺自身何が起こったのか理解するまで間を要したが、眼前に映るそれは……
ショートパンツの横から見える
赤いパンツ
ではなくて、
自身の頭の上までスラッと伸びた右足。左手は腰の下辺りで軽く握られ、その姿は美しくもあり豪快でもあり、だが完全に誰もが分かるその立ち振る舞いはゴミを見事に蹴り上げ飛ばした女の姿だった。
「ごめん、ちょっと動かないで!」
そう吐き捨てるパンツ女。
恐るべし、口よりも先に手が出るとは…
いや、手じゃなく足だが…
じゃなくて、動かないで!?って俺?
「ねえ。」
「?」
「ユ……じゃなくて!そこの……えっと……そう!キミ。」
「え?俺?」
パンツ女が辺りを見回し、俺の方を向いて話しかけてきた、黒く艶やかな長いロングヘアーを、鬱陶しそうに掻き上げ、分かれた前髪の隙間から覗かせる眼は、少しつり上がった大きな瞳、一般的な美人の部類に入ると思われる整った顔立ち。
そんな女の顔は初対面に向けるそれではなく、なんというか敵意のような…。
そんな視線に少しだけ退き気味の俺。
「他に誰がいるのよ。キミ、こんなところで何してくれてるの?あと、絶対に動かないで!」
ややっ?何だ?高圧的だなこのパンツ女。
何してくれてるもなにもオマエが何してるんだよ。
てか自身が散らかしたゴミはスルーですか?
「あ、いや買い物帰りですけど…」
高圧的な態度相手に下から返答してしまった。
ヘタレだなー俺。
でもこのパンツ女どう考えても危険だし、眼力あるし。
「頭悪いのかしら?キミは、えっと…亜人種よね?なんでこの……じゃない!えっと…どうやって使ったかってきいてるの。」
「はぁ?」
「頭悪いのかしら?」って言ってきたよこのパンツ女。
思わず素で反応しちゃったわ。
てかなんだ?亜人?こっち?ってどっち?
買い物帰りにゴミ捨て場の違和感がー…
とか言えば良かったのか?
そもそも話が通じてないと思ってるのはこっちも同じだぞ!
「…はぁ……質問を変えるわ、コレ使って来たのはキミなの?そうじゃないなら誰が使って来たのか教えて欲しいんだけど?」
溜息混じりに、そう言いながらゴミ捨て場を指さすパンツ女。
正直何言ってるのかサッパリわからん。
ゴミ捨て場の違和感のことか?使う使わない以前になんだ?って感じなんだがな。
さて、どうしたもんか、何も言わないと余計面倒くさい事になりそうだし、正直に感じた事でも言うか。
「なんというか言葉で表すのが難しいけど、そこのモヤモヤが気になって、てか近所なんで、いつも通るんですよ、だから今夜は変な違和感があったっていうか、そんな感じで見てただけなので、使うとか使わないとか意味が分からないです。そもそも…なんなんですか?それ」
俺をジッと見つめ、何か思ったのかパンツ女は警戒を解いた様な顔で俺を見た。
「ふーん…その様子だと本当にキミが使ってきたんじゃないみたいね…そうよね……そっか……。まぁ…状況からしてみて、そんな気はしてたけど…。ちなみにコレはゲートと呼ばれるモノよ!」
「げーと??」
少し口角をあげ腕を組みながら俺にそう言った。
物凄い自慢気な態度、俗に言う ドヤ! だ。
「キミ…には、まだゲートが見えているのよね?その時点で私はキミを見逃すことは出来ないの…。
そして、コレを使ったのがキミじゃないとすると……やっぱり、さっきのアイツが……考えられるのは…いや……でも…確かに変よね。そうよあり得ないわ…今さらゲートが…」
「?」
何か独り言をブツブツ言ったり、頭を振ったり、忙しいパンツ女。
とりあえず、動くな!言われて黙って話を聞いてる俺をどうにかしてくれ。いくら服着てても、こんなに寒くては凍死するぞ!てかこの女は寒くないのか?
「あのーもう大丈夫ですかね。早く帰って寝かせてもらいたいんですけど、てかこのままじゃ凍死しちゃいますって!」
「ゲートがこんなところに…誰かが■■を■■■たとしか…」
「あのー…」
「ん?あぁごめんなさい、大丈夫よ死にはしないわ。」
「いや、死ぬって!そもそもなんでそんな格好で平気なんですか!?」
何が「大丈夫よ」だ、無責任過ぎるぞ!どう考えても死ぬって何分ここにいて冷え込んでると思ってんだ。
「ねぇ」
「はい?」
「この辺りで怪しい人見かけなかった?」
( オ マ エ ダ ヨ !)
指さしてストレートに言ってやりたいわ!
『道端でゴミをぶん投げた後、ゴミ捨て場を指さして「ゲートよ!(ドヤ!」とか言ってる赤いパンツを履いた女なら見ましたおっおっ。』
なーんて言おうものなら、俺が道端に転がるゴミ男Bに早変わり。間違いない。
そもそもここら辺は治安が良いから物騒な話なんて、そうそう聞かないんだよな、だから怪しい人なんて出てきたらそれこそ分かる、職場でもそんな情報なんて……
ふと、さっきの会話を思い出す。
後輩が話してた女も怪しい?よな?
どうせ何も情報ないんだ、一応教えておくかな。
「あのー。」
「何?」
「直接見たわけじゃないんですけど、この先のコンビニで怪しいっていうか、珍しい人が来たらしいですよ?」
少し不機嫌そうに俺の話を聞く。
「詳しく教えてもらえるかしら?」
「えっと、確か、コスプレ女が意味の分からないことを言ってたとか何とか…」
「コスプレ?コスプレって、まさか……!どんな!どんな格好だったの!」
後輩が話していたのを口にすると、驚くような食い付きだな、なんかあったのか?と言ってもヤツの話の大半が「ヤバイ」だったので詳しくも何も分からないんだよな、もう直接聞いてきてもらおう、そうしよう。
「俺が見たわけじゃないので…てかすぐそこのコンビニに茶髪の店員いるんで、俺の名前出してくれれば話聞かせてくれると思いますよ?」
「そうなの?そうね!行ってみるわ!」
「いや、ちょっと!」
すぐさま走り出しそうなパンツ女を呼び止める。
険しい顔でこちらを振り返るパンツ女
あ…顔が怖い、これ怒ってる感じか?
「なに?急いでるんたけど!」
「いや、俺はもう帰っていいですか?後、この散らかしたゴミどうするんです?」
「あー!んもうっ!」
頭をガシガシと掻きながら、苛立ちの声をあげるパンツ女。
「すぐ話聞いて戻ってくるから!お願い!その場で待ってて!ちゃんと後で説明するから!」
「えっ!?俺このままですか?」
「そのままよ!分かった?」
そう言い放つと真っ直ぐコンビニへ走りだす…が、何か思い出したかのように此方を振り返り
「あっ!そうか…!えっと…そういえば、キミの名前聞いても良いかしら?」
「あぁ。俺はユウ、真上悠。そこのコンビニで働いてます。なので知り合いってことにして話すれば色々と聞けるんで。」
「あ…ありがとう。私はマナよ……海原麻那、それと…さっきは色々ごめんなさい。私も色々あって気が立ってるの。でも後で何とかするから、絶対に動いちゃ駄目よ?」
渋々了解の意味で右手のひらを翳す。
「じゃぁ少し待っててよね。」
と駆けだして行ってしまった。
……
とりあえず道路の真ん中に置き去りにされたゴミを片付けなきゃだな、確実に車に轢かれる流れだ。
よいしょっと。
とりあえず轢かれないように元のゴミ捨て場に戻す。
しかし、先程マナが散らかしたゴミがそこらに散乱している。
ふーっ、一応こっちも片付けておくか、放っておいたら明日の朝にはカラスやネコがパーティーしてそうだ。
…なんでこんな訳の分からない事に巻き込まれたんだろ
……
コンビニの方を見てもマナが未だ戻ってくる気配が無い。
ふぅっ
と空を見上げて溜め息をひとつ。
そして視線はまたゴミ捨て場に…
『ーーーーーさい』
????
ふとどこからか声が聞こえたような気がした。
辺りを見渡すが人の気配は無い。
『ーー逃げなさい』
「誰だっ!」
立ち上がり辺りを見渡すが、やはり誰もいない。
「なんだよ…なんなんだよ。」
急に恐怖感が背中を伝う
真冬の深夜、唯でさえ寒いのにさらに身体が硬直するような嫌な感覚。
『早くっ!逃げなさい!』
「だっ…」
はっきりと聞こえたその声。
それに対して「誰だ!」と口を開いたその瞬間…
俺の身体は見えないなにかに引っ張られるように傾く。
気付くと目の前には地面があった。
「ん!なっ!?」
身体が動かない、突然目の前に硬いジャリジャリとした感触のアスファルト。
体重全てを押し付けられるような感覚に、手足を使い身体を起こそうとするが、どうにもこうにも力が入らない、視線の先には道伝いに立ち並ぶ住宅、その先には職場でもあるコンビニ、いつもの景色が90°曲がって見えている。
「なんっだよ!これ?動け…ないっ!」
手足に力を込めても思うように動かない、それどころか込めた力が何処かに霧散していくような…。
視線を上に、ゴミ捨て場の方に向ける。
え!?
なんだ!?
目に映るゴミ捨て場は明らかに先程見ていた光景とは違う違和感、それはもう違和感なんてものではない、歪んでいる、景色が、物体が、音や空気さえも歪んで見えるようだ。
なんだよ、なんなんだよ!
現状を理解出来ない、突然自由を奪われた身体、目の前の非現実的現象。
そんな理解できない状況の俺に近づく一つの影…
そして…その影は俺を見て口を開いた。
「おやおやおやー?こんなところに■■■■がいるとはねぇ…」
視界の外から酷く陽気な声が聞こえる、声からして男だろうか。頭に刺さるような高くもなく低くもない。
それでいてはっきりと意思を伝えるような声、俺の本能が告げるこの声の主は危険だと。
機嫌が良さそうにも聞こえるがこの俺の状況を見て、聴きとれない言葉や意味の分からない事を言う男だ、危険過ぎる。
今はとにかくこの状況をなんとか打開しなくてはならないと思い、大声を出して近所の人を呼び出す。
「だっ…かっ、たっけ」
だが、抜けていく不思議な力によって、うまく言葉を発する事すらも出来ない、どんどん自身が弱っていくのが分かる。
クッソ!意識はしっかりあるのに身体がいうことをきいてくれない、誰か近くにいないのか!
そんな、しどろもどろな俺を見ているんであろう男が再び口を開いた。
「んんんんー???どうしたのですかぁ??
ゲートを使ぃ何をする気だったかは分かりませんけどぉ…
いやはや!動けないのですかぁ?…これは愉快!
もしやっ!?ゲートの力を使いこなせないのですかぁ??おかしな事もあるものです。でもまぁ、干渉してしまった以上はこのまま抵抗しないで頂きたいのですがぁ……といっても動ける状態ではないみたいですねぇ」
嬉しそうに俺を見ながら語りかける男、その喋っている意味すら考えられない。どんどんと身体の力、思考能力がどこかに引っ張られるように消えていく。
「声も出ないぃ?身体も動かせないぃ?でもぉ?一応念のためにぃ…少し行動を制限させてもらいますよぉ?っと」
まるで道端の石を蹴るように俺の右足を蹴り上げる男、そんな何でもない蹴りが右足に到達した瞬間…
パキリと音を立てて足が折れた。
「ッグ!アァァッ!!!」
痛っってぇぇぇぇっっ!!
足?足が!?
なんなんだ!ほんとに!
痛い痛い!
折られた?
何故いきなり!?
痛い痛い痛い!
蹴られた箇所に突き刺さる痛み。
一気に足先から頭の先まで体温が上がり、その直後に頭の先から一気に血の気が引くような感覚。
吹き出す汗、荒くなる呼吸、意図せず流れる涙、食いしばる歯からギリギリと音が聞こえる。
痛みを堪えながら握る拳、手に掻いた汗が握られた指との摩擦によってギュッと音を立てる。
「さぁてと、当初の目的とは違いましたぁ。が!想像以上の収穫です…!では貴男には聞きたいことがありますのでぇ、後でゆぅーっくりお話しさせて頂きましょう」
目的?収穫?痛みで頭がうまく回らない
いやそれよりも身体の自由が完全にきかなくなってきた、足からは止まらない鈍痛…意識が飛びそうな痛み、恐怖にも似たような怒り、そんな感情とは裏腹に瞼がだんだんと重くなってくる、このまま目を閉じてしまった後の事が恐ろしくて仕方ない。
くそっ!なんだってこんなことっ!
混乱にも似た意識の中、男が誰かと話している。
誰…だ?
よく聞こえ…ない。
「貴様!いつからーーー!」
「ーーーよ!ーーー!」
「ーーーないですよ?ーーー!」
「くっーー。」
なんだ?
誰かが何か言ってる
よく聞こえない
視界が狭まる
瞼が重い
「これならーーー!」
「ーーーーーね。ーー!!!!」
よく聞き取れない
もう限界だ。
痛みと恐怖の中瞼が落ちる
全てが暗闇に閉ざされる寸前
手が…
そう誰かの手が俺の頬に触れた気がした
そこで俺の瞼と意識は完全に落ちた。
やっと書き溜めた物が形になったので投稿します。
不定期更新ですが、出来るだけテンポ良く行きたいと思いますので宜しくお願いします。