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最終話

最終話は短いです。


ここまで読んでくれた方々、ありがとうございました。

 3日後の夜、俺は巧巳と居酒屋に来た。俺と彼がビールを口にし、ジョッキを置くと、彼の方から話しだした。

「姉ちゃんとは順調?」

「それが……別れた。いや、違うな。元の姉弟に戻ったって言うのが正しいか?」

「エッチまでしておいて、元に戻れるわけがねえだろ。それにしてもダメだったか……俺はどちらかといやあ、応援してたんだがな」

 元に戻れるわけがない――本当にそのとおりだ。お互いに好きな気持ちが生まれた時点で、戻れないんだと思う。でも俺はそれを選んだ。

「やっぱり、世捨て人にはなれなかったか?」

「いや、それが理由じゃないんだ。俺は公園でたくに相談した時は、少なくともそうなるつもりだったから」

「じゃあ……なんで?」

「姉貴孝行がしたいからだよ」

「……なんだそれは」

 俺は巧巳に話す。俺が元の姉弟に戻ろうと思った一番の理由は、姉に孝行をしたいからだ。それは一人の男としてではなく、姉の弟としてだ。

 俺には幼い頃から姉が家を出る時まで、彼女が当たり前のように傍にいて、俺のことを守ってくれた。そして、また家に帰ってきたたった数ヶ月で、彼女は俺に多大な影響を与えた。俺はそんな彼女に、一生をかけて孝行をしたいと思っている。

 俺が姉にする本当の意味での孝行は、姉と弟という距離でしか出来ないはずだ。だから、巧巳の言うように元どおりとはいかなくても、俺はそれでいいと思っている。

「そこまで考えてるなら、姉ちゃんは嬉しいと思うぞ」

「まあ、それは表向きなのかもしれない。自分でもどう言ったらいいのか……」

「なんだ?」

「俺、姉貴と会えなくなるのが嫌なんだと思う。もしこれ以上深入りした挙げ句に別れるってなって、もう一生会わないってなったら辛い。だったら姉弟としての方が、会うだけならどうにでもなるし」

「なるほど……嫌でも一生保証されてる弟を選んだわけか。圭はそれで本当にいいのか?」

 良いか悪いかなんて俺にも解らない。それでも俺がこうすると決めた限り、今さら後ろに引き返そうとは思わない。

「いいのいいの。なー……たく、誰か女の子紹介してくれよ」

「お前、真面目な話の後はいきなりそれかよ!」


 それからニヶ月後、盆休みということで、姉が実家に帰ってきた。

 23時、俺が自分の部屋のベッドで寝転がりながらテレビを観ていると、誰かが部屋の扉を叩く音が聞こえる。

「はい」

「あたしー」

「なんか用?」

 姉は返事をする代わりに部屋に入ってくる。

「わっ……入っていいって言ってないんだけど」

「別に見られて困ることはないでしょ? あたしは圭の裸も見たことがあるんだしぃ。ねえ、添い寝していい?」

 姉は俺との男女としての関係を解消したにもかかわらず、まだこの調子だ。意味が解らない。

「俺、こういうことはもうやめようって言ったよね?」

「元の弟に戻るとは聞いたけど、あたし、圭とああいう関係になる前から、こういうことしてたからなあ」

 姉の屁理屈に俺は呆れる。

「大丈夫だよ。性的なことはしないから」

 姉は男ならかなり胡散臭いことを言いながらベッドに上がり、横になって俺を見つめてくる。

「圭はあたしとエッチが出来なくなって残念……とか思ってる?」

「思ってねえよ……」

「あたし、今でも圭にエッチしようって言われたら、すぐにでも出来るんだけどな」

「しません」

 俺はこの調子だと、例えば俺が、姉ちゃん孝行のリクエストを彼女から聞いても、全て性的なお願いが返ってきそうでげんなりする。

「俺にばっかりそんなこと言ってないで、彼氏でも作りなよ」

「うーん……燃え尽き症候群って言うのかな。圭とあまりにも燃え上がりすぎて、最近は他の男の人を見ても全然そんな気になれないの。圭……この前の夜は凄かったね」

「やめろ」

 姉は相変わらずというか、接触が無理でも言葉のセクハラをしてくる。最悪俺はいいが、外でこんなことを言わないだろうかと心配だ。

「ん、もう……愛し合った仲なのに、冷たいなあ」

「愛し合った仲、だからこそだよ……元はと言えば、姉ちゃんが関係をやめようって言ったんだよ?」

「あたし、もしあの時圭が引っ張ってくれたら、駆け落ちも考えてたんだけどな」

 俺も一時はそう考えていた。今はそんな気はさらさらないが。

「俺、一生をかけて姉ちゃんにしてあげたいことがあるから、我慢してよ」

「え……! そうなの? 嬉しい。何なに?」

「秘密」

「えー……教えてくれないと、ここで一人エッチするよ?」

「やめろっ!」


 二ヶ月後、俺は最近付き合い始めた彼女と大学の校舎の前のベンチに座り、昼食を摂っていた。

「ねえ……圭ちゃんってお姉さんの話をよくしてくれるね」

「えっ、そんなこと……ある?」

「あるよ! 自覚ないんだあ……お姉さんの話ばかりされると私、妬いちゃうかも。まあ、妬いたところで意味のないことだって解るんだけどね」

 彼女は姉よりも可愛いし、俺にセクハラなんてしないし、酒を飲んで絡むこともないとても良い子だ。しかし俺はそんな彼女に、知らず知らずのうちに姉の話をしていたようだ。俺は彼女の言葉で自分が思っている以上に、自分の中にある姉の存在の大きさに気付かされる。

「そうだ! 今度、私を圭ちゃんのお姉さんに会わせてくれない? 私、お姉さんと話してみたい。仲良くなれるかなあ」

「やめといた方がいいと思うけど……」

「なんで? 圭ちゃんが好きなお姉さんだったら、私もきっと、お姉さんとは仲良くなれると思うけどなあ……ダメ?」

 姉と彼女は水と油のようなものだ。上手く混ざり合うわけがない。勿論、油が姉だ。姉に彼女を会わせるなんて、何をされるか解らなくてゾッとする。普通ではあるはずのない修羅場が待っている可能性も、少なからずはあるからだ。もしそうなった場合、俺はどちらを選ぶだろう。まあ、そんなことを考えても意味はないが。俺が姉を選ぶことは未来永劫有り得ない。

 でも俺はこの先ずっと、俺の中の姉への思いは、いつまでも変わることはないだろう。俺が誰よりも愛しているのは姉――あすちゃんだから。


――Fin.

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