第5話
俺が現実に引き戻されたのは、姉がキスをされていることに気付き、目を覚まして動いた時だ。俺は慌てて彼女から離れる。
「あっ、これは……その」
俺は混乱して、姉になんて言葉を返したらいいのか解らない。
「邪魔しちゃった、かな? あたし、目瞑るから続きをしたいならどうぞ」
姉は目を閉じた。俺は彼女にまた顔を近づけるが、構えられると逆に自分で抑えてしまう。俺はそこから離れようと思ったその時、彼女は急に目を開ける。彼女は俺の肩に両腕を掛け、引き寄せる。俺はまた彼女とキスをしてしまう。
「……あっ、何をするんだ」
俺と姉の唇が触れ合った瞬間、俺は彼女から離れた。
「えー……なんでやめるの。さっきしてたくせにー」
「それとこれとは違うんだ!」
俺は自分でも間抜けな言い訳をしたと思ったが、これ以上姉とキスをすると、自分を抑えきれなくなりそうだ。
「もう、おっきな声出さないでよ。辛いのに」
「……ごめん。そうそう、アイス買ってきたんだけど、食べる?」
「えっ? あたし要らないって言ったのに。やっぱり圭は優しいね。じゃあ、食べよっかな」
「解った。取ってくる」
俺はアイスクリームを取りにいき、また姉の部屋に戻ってきた。
「じゃあ、体起こして」
俺がそう言ったが、姉は体を横にしたまま、全く動こうとはしない。
「食べさせて」
「はあ? 何を子供みたいなこと言ってるんだよ。ベッドの上に座ることくらいは出来るだろ?」
「出来ない出来ない……食べさせて」
姉は体を捩り、まるで幼い子供のように駄々をこねる。俺は溜め息が出てしまう。仕方なく、俺は彼女にアイスクリームを食べさせることにする。
「はい、あーん」
「ん……わっ、これ美味しー。高いんじゃない?」
「そうでもないよ」
俺は一口分ずつをスプーンで掬い、姉の口に持っていくのを何度も続ける。小動物のように、小さな口を動かす仕草がいちいち可愛い。俺は彼女を抱き締めたくなる。
「……なんでそんなに険しい顔をしてるの?」
「えっ? そうかなあ」
俺は彼女の顔を見て、頬が緩まないように堪えていた。そのせいで不自然な表情になっていたようだ。
「まあいいや。アイス、もういいよ。残りは後で食べさせて」
「また俺が食べさせるのかよ……」
「だって、今日は圭、あたしに付きっきりで看病してくれるんでしょ?」
「するとは言ってないんだけどなあ」
俺は自分の夕食を済ませると、粥を持ってまた姉の部屋に来た。姉はベッドに横になったままだが、目は開いている。
「お粥持ってきた。食べれそう?」
「圭が食べさせてくれたら食べれそう」
姉の言葉は俺の予想どおりだった。俺はまたベッドの側にしゃがみ、スプーンで粥を掬い、息を吹き掛けてそれを冷ましながら、彼女の口に運ぶ。
「……うわっ、なんだか涙が出そう」
「え、なんで?」
「圭がこんなに優しくしてくれるなんて、あたし嬉しくて……」
姉はそう言うと、肩を震わせながらポロポロと涙を流しだす。俺は粥の入った器を一旦テーブルに置き、彼女の頭を撫でる。
「あたし、こんなに泣き虫じゃないんだけどね……ホントだよ? この一週間、圭に迷惑を掛けないようにって、我慢してあまり話さないようにしてみたけど、3日目くらいから寂しくて寂しくて……毎日泣きそうだった」
姉が俺との距離を取ったのは、俺に気を遣ってだということが解って、胸が痛くなる。
「それはただ寂しいだけで、俺に対する寂しさなの? バイト先の人とか、誰か他の人と一緒にいても紛れなかったの?」
「ダメだった……誰かと一緒に笑ってる時でも、圭と話がしたい、ぎゅってしてほしいとかいろいろ思っちゃって。あたし、やっぱりおかしいのかな……実の弟に対してこんな気持ちになるなんて、お姉ちゃん失格なのかな」
姉の気持ちが揺らいでいると、俺は感じる。俺はこの時、彼女の今の気持ちを全て知りたいと思いながらも、これ以上は聞きたくないとも思ってしまう。
「失格じゃないよ。姉ちゃんは俺にとって、たった一人しかいない自慢の姉ちゃんだから」
俺がそう言うと、姉は力を振り絞るようにして体を起こし、ベッドの上に座る。
「姉ちゃん……大丈夫なの?」
姉は急にパジャマの上を脱ぎ、さらにブラジャーも外しだす。俺は慌てて彼女に背を向ける。
「何やってるの!? あ、暑かった?」
「……圭、どうしようもなくなっちゃった、あたしを見て。もう圭に何されてもいいとさえ思ってるんだよ? それでもまだ、お姉ちゃん失格じゃないって言える?」
俺は自分の耳を疑う。
「あたし、愛してるとか愛してないとか、別にいいや。考えてもどうせ解んないし、苦しいだけだし。少なくとも今、あたしは圭とエッチがしたいと思ってるのは事実だから。体力的に今は出来ないからさ、おっぱい触って?」
姉はこの一週間、どれくらい俺のことを考えていたんだろう。考えすぎておかしくなってしまったのかもしれない。
「おっぱい……触るだけでいいの?」
俺はどうにか姉を静めたい。だが、セックスはしたくない。それなら胸を触るしかないのだろうか。俺は自分でも、今の自分が正常な考えをしていないことは解っている。
「触るだけじゃダメ。嫌々触るんじゃなくて、ホントに圭が触りたいと思うなら触って。そうじゃないならやめて、傷付くから」
俺はゆっくりと振り返ると、上半身裸の姉が目に入る。彼女の胸はとても綺麗だ。小さいながらも形が良く、乳首の色は薄い。
俺は姉に近づくと、布団を持ち、彼女を包むようにして肩に掛ける。俺はやはり、彼女の胸を触るなんてことは出来ない。
「……圭は優しいなあ。でもその優しさが今はとても辛い」
姉は俺に背を向け、パジャマを着ながら話を続ける。
「あたしたちは姉弟だから、普通の恋愛と違うのは痛いくらいに解るけど、優しくしてくれるのに一歩を踏み出してくれないのは、血が繋がっていてもいなくても同じように辛いんだよ」
パジャマを着て俺の方に体を向けた姉の目を、俺は見据える。
「圭があたしを受け入れられないなら、もうこれ以上あたしに優しくしないで。普通の弟に戻って。そうなったら、あたしは死ぬ程苦しくなるかもしれないけど、いつかはそれも忘れられると思うから」
姉は俺が今まで見たことがないような優しい顔をしている。俺は思わず彼女を抱き締めてしまう。
「だから……そういうことをされると、もっと圭のことが好きになっちゃう。愛しちゃうから……やめて」
「……俺は姉ちゃんのことが好きだ。正直、まだ自分の気持ちは解らないことだらけだけど、少なくとも姉ちゃんが悲しんだり苦しんだりする時は、俺が癒してあげるよ」
俺は姉にキスをする。10秒程すると、彼女は俺の胸に倒れ込んでくる。
「あ……体、大丈夫?」
「やっぱり、まだ体が重いや……でも心は凄く軽くなった。この続きはあたしの風邪が治ってからにしてくれる?」
俺は姉の背中を腕で支えながら、ゆっくりと彼女をベッドに横にして、また軽くキスをする。
「ヤン……チューされると、もっとってなっちゃう」
「ああ、ごめん。風邪が治ったら、いっぱいイチャイチャしようね」
「……恥ずかしい」
俺は姉の部屋から出て自分の部屋に入り、ベッドの上に寝転がる。とうとう俺は、彼女の気持ちを受け入れると決めてしまった。
次の日の朝、俺がリビングに向かうと、そこには姉がいる。
「おはよう。もう体調はいいの?」
「んー、まだ微熱はあるんだけど、体はだいぶ楽になったよ。バイト行かなきゃだしね」
俺は姉と一緒に朝食を摂った。その間、彼女はやたらと俺によく解らないアイコンタクトをしてきたが、近くに母がいるのにやめてほしかった。
バイトを終え、俺が家に着いたのは22時半だった。俺はどこかで、早く姉とイチャイチャしたいと思っていたのか、帰りは早足だった。
自分の部屋に鞄を置くと、俺は姉の部屋の前まで来て、扉を叩く。
「はーい」
「俺」
「あ、圭だー。入って入って」
扉越しに聞こえた姉の声は、妙にテンションが高く、俺はなんだか恥ずかしくなる。俺は扉を開け、部屋に入る。
姉はベッドの上で寝転がっていたが、急に立ち上がり、自分の鞄を漁りだす。
「圭、見て見てー!」
姉が取り出したのはコンドームだ。
「わっ……姉ちゃん、やる気満々だな」
「違うってー。お守りみたいなものだよ」
俺は姉の言葉に苦笑するしかなかった。しかし今、俺と彼女がそういう関係であると改めて考えてみると、不思議な気持ちになる。
「俺たちのルールを決めない?」
「ルール?」
俺がテーブルの前に座ると、姉は俺の横に座り、腕を絡めてくる。
俺は話し始める。俺は姉を『彼女』として受け入れてもいいとは思うが、やはり普通の交際とは違うため、それなりにルールを設けた方がいいとも思う。期限がどのくらいになるのかはまだ決めてはいないが、まずしばらくはセックスと舌での接触はしない。そして、俺は彼女の性器、胸、尻への接触はしない。彼女は俺の性器と尻への接触はしないということだ。
「……そう。圭はいろいろと考えてるんだねえ。あたしはいいけど、圭は大丈夫なの? 世の中のハタチの男なんて、性欲が有り余ってるものなんでしょ?」
「それはそうだけど……俺たちは普通とは違うから、考えすぎるくらいで丁度いいんだよ」
「そっかー。あたしはとりあえず、ぎゅーとチューが出来たらそれでいいかな」
俺は姉を抱き寄せてキスをする。
「ふー……あたし、幸せ」
「姉ちゃんは可愛いなあ」
俺がそう言うと、姉は何故か不満そうな顔になる。
「あのさ……二人でいる時くらいはその、姉ちゃんってやめない? 一気に現実に引き戻される感じが……」
「そう? 俺は逆に背徳的でいいと思うけど」
「圭……変たーい」
「俺の匂いを嗅ぎたがる姉ちゃんも、充分変態だと思う」
その後、お互いに二人きりの時の呼び方を決めた。俺は『圭ちゃん』、姉は『あすちゃん』ということになった。
それから二週間が経った。俺と姉はルールを守りながら、それを除けばまるで恋人同士のような日々を送っていた。
夜、俺がそろそろ寝ようとベッドに入ろうとしている時、部屋の扉を叩く音が聞こえる。
「はい」
「……あたし。入ってもいい?」
「どうぞ」
姉が部屋に入ってくる。
「どうしたの?」
「一緒に寝たいなって思って……ダメ?」
俺は万が一、親に見られたら不味いと思い、この関係になってからも、姉と一緒に寝ることはしなかった。
「うーん……俺もそうしたいのは山々だけど……」
俺はこの時、あることを思いつく。
「これでよし」
「何してるの?」
俺は目覚まし時計のアラームを設定した。
「これ2時にセットしたから、あすちゃんはこの時間になったら自分の部屋に戻ってね。それならいいよ」
「やった!」
姉は満面の笑みだ。
俺がベッドに潜り込むと、後から姉も布団に入ってきて、俺たちは見つめ合う。
「圭ちゃん……」
「何?」
「なんでもないー」
そう言いながら笑う姉を、俺は抱き寄せてキスをする。
「あ……はあ。体が蕩けそう」
俺と姉はそれから、一時間くらい抱き締め合ったりキスをした。
そうしていると、姉は急に俺に背を向ける。俺は後ろから彼女を抱き締めるが、彼女はそれから妙に静かになる。
「あすちゃん……?」
「ん……あっ」
俺は姉を抱き締めてはいるが、彼女をくすぐったりはしていない。しかし、彼女は何か苦しいような、艶っぽいような声を出していた。
「う……ふっ……ああ……」
俺はこの時気付いた。姉は俺に背を向けたまま、オナニーをしている。
「やっ……あ……は! ん」
俺はオナニーをしている姉を、どうしたらいいのかが解らない。
「……あすちゃん」
「な……に? はあ……うっ……」
「今、何してるの?」
「……何……って……あっ……そんなこと、言え……ん! ……ないよ」
俺は姉の喘ぎ声を聞いて、理性が崩壊しそうだ。
しばらくすると、姉の喘ぎ声がやんだ。彼女は俺の方に体を向ける。
「あすちゃん……今、一人でしてたんだよね?」
「や……言わないで、恥ずかしい。ごめんね。我慢出来なくなっちゃった……圭ちゃん、戸惑ったよね?」
「まあ……でもあすちゃん、凄いエロかったよ」
「ヤー、もう……」
俺は姉の頭を撫でる。
「ねえ……圭ちゃんって、あたしのことを想像しながら、一人でしたことある?」
俺は恥ずかしくて、少し間を置く。
「あるよ。あすちゃんとこういう関係になる前から……」
「そうなんだ! 圭ちゃんも前から、エッチな気分になってたんじゃない。へー、あんなに拒否してたのにね。ふふっ」
姉は悪戯っ子のような笑みを浮かべながらそう言うと、布団を捲ってベッドの上に座る。
「どうしたの?」
「あたし、もう部屋に戻るよ。時間も時間だし」
俺が時計を確認すると、もう1時半を過ぎていた。
「あ、もうこんな時間なんだ。じゃあ、また明日」
「うん……あたし、ルールを守りながら、どうやったら圭ちゃんを誘惑出来るか、いろいろと考えてみる!」
「え……? さっきも充分誘惑されたけどね」
「あはは。圭ちゃん、おやすみ……大好き」
「おやすみ。俺もあすちゃんが大好きだよ」
姉は俺に軽くキスをして部屋を出ていった。