再会
僕がこの学園に入ってから2週間たった。授業はマジックカードを使う単純なものだったが、まじめに受けた。昼食はリオやエイミーたちと中庭でよく食べる。放課後はアイリーン先輩に誘われてドリンクバーに行くことが多い。しかし、自分で誘おうとした時は、何故かアイリーン先輩は用事がいない。ドリンクバーに行かない時はだいたい寮の自室でゆっくりしている。そんな流れが定着しつつある。
「おはようございます。」
そして僕は教室でいつものようにあいさつする。
「おはよう!」
「おはよ~。」
それに対してリオやエイミーがあいさつを返し、僕は自分の席に座る。しばらくすると、いつもに通り空さんが現れて授業が始まる。
『今日はマジックカードの扱いにも慣れてきたようだから実戦をしてみようと思います。』
空さんはそう言う。クラスメイトには、このはじめてやることに期待する者もいるし、不安がる者もいる。僕はいつものようにただカードを扱うだけの授業がつまらなかったのでうれしい。
『今日は実際に魔物と戦ってもらいます。標的はスライムです。でも、安心してください、そこまで凶暴ではなく、ケガをする心配はほとんど無いです。』
魔物とは空気中の魔力が集まって出来たものであり、基本的に意思を持たない。自分の一定の範囲内に敵と見なせる物が入ってきたら攻撃するなど、一種のプログラムのような行動をするらしい。魔物を倒すと魔物が持っていた魔力が結晶化するらし。それは日常生活の色々な所に役立てられているとか。
「スライムと戦うんだってよ。」
「大丈夫かな。」
リオやエイミーはそんなことを言っている。ある程度なら魔法が使えるようになったし、空さんが心配ないっていってるから大丈夫だろう。
『まず、3人1組でグループを作って戦ってもらいます。スライムを5体倒してください。魔物は攻撃を受けて
形を維持できなくなると魔力結晶になります。これを5個回収してください。』
クラスメイトはグループを作る。他のクラスメイトたちは元から知り合いだった人も多いためか、『お前はどっちのグループでいく?』等といった会話が聞こえてくる。しかし、僕にはそんなものがいるはずもなく、初めから組む相手は決まっている。
「ハルト、エイミー、組もうぜ。」
そう、リオとエイミーの二人だ。僕はリオの言葉にうなずく。
『組めたようですね。最後にカードホルダーを渡します。この中には炎の魔法カードが9枚、帰還用カードが1枚、帰還場所指定用が1枚入っています。』
全員にそのカードホルダーが配れる。
『準備出来たようですね。それではついてきて下さい。』
空さんはそう言うと教室を出て、他の廊下の奥の方の『クエスト』と書いている部屋に入っていく。
そこには魔方陣が3つと、受付が3つある。
『準備出来てます?』
『はい、もちろん。』
空さんが受け付けで確認する。
『それでは、そこのグループここに立ってください。』
1グループが魔方陣に立つとすぐに魔方陣が光り、3人が消えた。
『次々きてくださいね。』
空さんがそう言うと次々になかに入っていくクラスメイト。そして最後に僕らの班でが魔方陣に入ると、急に景色が代わり僕達は森の中にいた。僕はあたりを見渡し、背後に学園があることに気付く。
(魔方陣で飛ぶ必要なかったんじゃ。)
「でこれからどうする?」
「スライムに探すために歩こうぜ。」
僕がそんな事を考えている間にエイミーとリオがそんな話を進めている。僕もリオの意見にうなずき、僕たちは森の中に進んでいった。森の中はとても明るく、足場も悪くなかったのでどんどん進んでいく事が出来た。しばらく歩くと、道によくわからない緑色のゼリー状の物体が落ちていた。
ぷるんっ、ぷるんっ
動いているし、きっとこれがスライムなんだろう。
「これがスライムですかね?」
そう言い終わる前にスライムが燃える。気付くと隣でエイミーが右手を前に出していた。エイミーが魔法を発動したらしい。
「ちがったかな?」
僕とリオはそれに対して首を横にふる。エイミーは思ったことをすぐに行動に移してしまうタイプらしい。そんな事を思っている僕を置いてエイミーはどんどん前へ歩いていく。僕は結晶を拾ってから彼女を追いかける。
「固まってうごいたほうがいいですよ。」
声をかけたがそれを無視してエイミーは僕とリオを置いて行ってしまう。
しばらく行くと僕達は川につきあたる。きれいな川だったから少しの間リオと共に眺める。
「ぎゃーーっ!」
急に向こうの方から悲鳴が聞こえてきた。僕達は急いで駆けつける。そこには4体のスライムに体当たりされ、地面でじたばたしているエイミーの姿があった。
「目ががぁ。」
彼女はそう言いながら、自分の目の周りをぬぐう。彼女の顔には緑色の液体がついていてそれを拭おうとしているが、とてもねばりけがありとれそうもない。
「ハルト、さっきの川にエイミーを連れていってくれ。」
リオはスライムを素手でエイミーから引き剥がし、僕に向かって叫ぶ。確かに水を使えばある程度とれるかもしれない。
「わかった。」
僕はそう返事し、彼女を抱えて川まで走る。そして、彼女をうつ伏せに寝かせ少し顔を洗ってやる。だが、途中で彼女が嫌がったので僕はそれを止める。そして自分で顔を洗い始める。きっともう大丈夫だろうと思い立ち上がった時に、僕は向こうに魔獣と戦ったあの夜にあった少女を見つける。
「───!!」
僕を見ると少女はその場から走り去り、それを僕はあわてて追いかける。
「ハルト、どこいくの?」
エイミーが僕に何を言っているようだが、気にせず追いかける。しばらく追いかけると少女が木に引っ掛かったらしくこけた。僕はすぐに少女に追い付く。彼女は気絶しているのかぐったるしている。少女を見て僕はどうしたものかと思う。その少女はあの夜と同じく服を来ていないのだ。僕はなにか服を着せないとと思いカードホルダーを見る。そこにワンピースを保存しているカードがあった。僕はカードを取り出して発動し、手の上にワンピースを取り出す。少女の裸が視界に入ってしまうのは服を着せるためだ仕方がない。僕はそう自分に言い聞かせ、かなり苦労しながら服を着させる。
服を着せたあと、適当な木の根の所で寝かせようとした時、少女が目を覚ました。
「?」
少女は自分の着ている服を摘まんで不思議そうな顔をしている。自分の身に付けている服に気をとられて僕には気づいてないようだ。
「君にあげますよ。」
僕がそう言うと一瞬ビクッっと反応する。だが、服を摘まんで首をかしげるだけで、逃げ出すような事はなかった。
もうそろそろ昼食の時間だろう。僕はお腹がすいたので、自分のカードホルダーからパンを取り出し食べる事にした。食べていると少女がそれをじっと見てくるのでとても食べづらい。僕はその少女にもパンを分ける事にする。僕はパンの今食べている方とは反対側をちぎって少女に渡す。それを少女は目一杯てを伸ばして受け取る。僕が、パンを再び食べ始めると、少女も同じように食べ始める。
「美味しいですか?」
僕はそう質問する。少女は答えてくれなかったが、それでもパンを全部食べてくれた。少なくとも不味くはなかったらしい。
昼食を終えた。これから何をしようかと考えると同時に今何をしているのかをふと思い出す。少女を追いかけるのに夢中で忘れていた。
「もう行かなければならないから、さようなら。」
僕は少女にそう声をかけて去る。二人共大丈夫だろうか?
───スライムとの遭遇地点にて───
「うおぉぉ!!」
俺は今はスライムと戦っている。俺はカードホルダーから炎のカードを取り出して発動し、その炎をスライムにぶつける。当たったスライムが蒸発する。すぐに次の魔法を発動し、発生した炎ををスライムにぶつける。その後、飛びかかって来たスライムを避け炎のカードを発動し、炎を手に乗せて直接スライムを叩く。
(とってもやわらかい...。)
次に飛んできたスライムを手で受け取めてそれを手でこねてみる。
(この感触は...。)
そして抱き締める。
(つ、冷たい。結構気持ちよくて癖になるかも...。)
コネコネ、もみもみ、にぎにぎ...。
「リオ、何してるの?」
後ろからエイミーに声をかけられる。つい夢中になって気付かなかった。
(.......。)
「ひゃぁぁ!?」
「きゃぁぁ!?」
ぶちゃ。
俺はワンテンポ遅れて悲鳴という形で反応する。それと同時に向こうの方ですごい音がする。思わずスライムを投げてしまったらしい。
「見た?」
そう質問すると彼女は首を横にふる。
(.......。)
「エイミーはもう大丈夫?」
俺は絶対見たなと思いながらもそう彼女に聞く。
「私は大丈夫だけど、ハルトがどっこかに行っちゃった。」
と彼女はそう言う。森の中だというのに本当にどこに行ったのだろうか。
「待つか。」
「うん。」
俺たちは地面に落ちている結晶を拾って、その場で彼をじっと待つ。その後、彼が帰ってきたのは20分ほど経った後だった。
「ハルト、どこに行ってたんだ?」
「ちょっと用事があったんですよ。」
彼が曖昧に答える。何か言いづらいことなのだろうか。まぁ気にしない事にする。
「そういえば、結晶4つあるからお前のと合わせて5個だ。もう、帰還しないか?」
「そうですね。」
「いいと思うよ。」
俺の提案に二人はそう答える。それを聞いて、俺はカードホルダーから帰還用のカードを取りだし、魔法を発動させる。
そして、周りの風景が教室に替わる。そして、二人も教室に戻る。
『はじめての実践お疲れ様。ここにスライムの結晶を置いて帰ってね。戻ってきた組から解散。』
前にある箱にそんな事が書かれている。俺はそれにスライムの結晶を入れ、今日の授業は終了となる。ハルトは疲れた様子で寮に帰っていく。エイミーはすでにここにはいない。俺はどうしようかなと思いながら教室を出る。何はともあれ初めての実戦は終わったのだった。