09。お子様ランチとハヤシライス。
09。お子様ランチとハヤシライス。
机を挟んで向かい合うのは、
パーカーとワンピースの二人。
プラスチックの可愛らしいプレート。
プリン型のチキンライスには、日の丸の旗が刺さっている。
「ねぇ、パパ」
「ん、どうした?」
「パパとママはどうしてけっこんしたの?」
「……えーと、いきなりどうしたのかな?」
「ママはびじんだから、パパがいっしょーけんめー、たのんだんでしょ?」
「違うよ!」
「ちがうの?」
スパゲティーにハンバーグ。カラフルでどこか玩具じみた料理にフォークが入れられていく。
「実はママの方から好きだって言ったんだ」
「パパ、まけたの?」
「……先に言った方が勝ちになるわけじゃないんだよ? 確かに後に言うのはちょっと格好悪いけど」
「ママはパパに、なんてゆったの?」
「君の料理が好きって言われたよ。一生、君の料理が食べたいってね」
「ママはパパのおりょーりがすきなの?」
「……我が娘ながら、手厳しいなぁ。ねぇ、ママをどう思う?」
どことなくトマトが香るハヤシライス。じっくりと炒められた玉葱が飴色で甘い。
「ママ、かっこいいっ!」
「うん。仕事をしてるママはとびっきり素敵だ。でも、ママは料理ができないだろ?」
「まっくろー」
「そう。で、パパは料理はできるけど、仕事は得意じゃない」
「パパはせんぎょーしゅふ!」
「うん。だから、パパとママはお互いに一緒にいたいと思ったんだ」
「すきだからじゃなくて?」
「もちろん好きだよ。それで、認め合ってるんだ。だから結婚したの」
「わたしもパパママすきー」
プラスチックのスプーンとフォークが、かちゃかちゃと音をたてる。銀のスプーンは器用にハヤシライスを掬う。
「パパも好きだよ」
「はやくママにあいたい」
「大丈夫。明日の夜には帰ってくるから」
「そしたら、ママにもすきってゆーの」
「ママ、照れちゃうだろうなー」
「ぎゅーってしてくれるといいな」
「ママが帰ってきたら、何作ってあげようかなぁ」
「おこさまらんちがいい!」
「あぁ、いいね。いつも気を張ってるママを一日だけお子様にしてあげよう」
「うん!」
ドアベルが澄んだ音をたてた。
並んで出ていく親子を見送りながら、店長は一人微笑む。
「優しい親子様、またお越しください」