08。ラザニアとドリア。
08。ラザニアとドリア。
机を挟んで向かい合うのは、
セーターとカーディガンの二人。
赤いソースの下からラザニアが顔を出している。たくさんあるパスタの一種、大きく四角い麺それがラザニア。
「ねぇ、そっち誰か気づいた?」
「全然」
「だよね。ボクのほうもおんなじ」
「なら終了?」
「うん。学校とりかえっこは終わり。次はどうしよっかな」
「塾とか」
「あ、塾いいね! 父さんも母さんも、双子だからって高校も塾も別に行かせなくてもいいのに」
「個性の区別?」
「正直、二人でいると個性が育たないでしょって言われてもよくわかんないよね」
「うん」
白い陶器の器。トマトソースの赤に、黄色いチーズが雪崩るようにとけている。
「ボクら似すぎている」
「うん」
「癖も、今は意識的に変えている口調だって性格だって似すぎている」
「うん」
「双子でも、言ってしまえば他人なのに」
「他人……」
「言葉のあやだよ。自分でない人って意味」
「僕は僕?」
「ボクはボクだよ」
白い陶器の器。ホワイトソースの白に、黄色いチーズが雪崩るようにとけていく。
「でも、可笑しいね。二人きりでいる時だけは、ボクはボクになれる気がするよ」
「僕も」
「だからキミと一緒に食事するの好きだ」
「うん」
「一緒にいるときは、同じものをキミが頼まないって見て安心できるから」
「僕はラザニア」
「ボクはドリア」
赤いソースと白いソース。
ソースに隠れたパスタとライス。
白い陶器に入っていても全然違う料理。
「違うね」
「うん。ボクらは違うんだ」
「誰かが」
「きっとわかってくれるよ。ボクらの違い」
「見つけようね」
「そして、いつかその人を見つけて三人で食事をしよう」
「約束」
「うん。きっとずっと約束しよう」
「それまでは」
「それまでは二人きりの食事を愛そう」
「二人きりじゃないと、二人して同じものを頼んでしまうのにね。二人の時は遠慮しなくても、違うものを頼めるのはどうしてかな」」
「不思議」
「双子の神秘なのかな?」
「なのかも」
ドアベルが澄んだ音をたてた。
並んで出ていく双子を見送りながら、店長は一人微笑む。
「親好な双子様、またお越しください」