07。クリームソーダとフルーツパフェ。
07。クリームソーダとフルーツパフェ。
机を挟んで向かい合うのは、
ネクタイとリボンの二人。
机にきらきらと緑の影が揺れる。
クリームソーダの泡がぱちぱち弾けた。
「部長、引退しないでください」
「あのね、引退はやめれないわけ。アンタ、そこ分かってんの?」
「わかりたくないです。物分かりがよくないのは、俺の長所っスから」
「はぁ? アンタばっかじゃないの」
「じゃ、バカな俺を哀れと思って、せめてあと5ヶ月はいてください」
「哀れとか別に思わないから。それに5ヶ月後とかすでに卒業だから」
崩れかけ、緑に沈みかけたアイスクリームを銀のスプーンが掬い上げていく。
メロンの炭酸水が泡とともに弾けて香る。
「じゃ、卒業までお願いします」
「あー。本当にめんどくさい」
「俺としては、けっこー本気なんですケド」
「……あたしとしては今、こんな話なんかしたくないよ。どんなに引き止められても、あたしは去っていくわけだし。最後ならこんなつまらないやり取りはイヤ」
「部長」
「だって、そうでしょ? あたしはもう部長じゃない。今はアンタが部長なんだから」
「え。もしかしてそれって部長じゃなくて、名前で呼べってことっスか!」
パフェ用のロングスプーンがクリームを突き抜け、コーンフレークを砕く。
グラスの上を飾っていたフルーツが、受け皿に落ちていく。
「……アンタねぇ」
「ていうか、部長ってなんか甘えるのとか下手っスよね。後輩にカッコつけたがるっていうか」
「はぁ? いきなり何言って」
「甘いもの大好きな甘党のくせに部活では、秘密にしてたりとか。本物のメロンよりメロンソーダとかメロン味のほうが好きなお子様味覚だとか」
「な、そういうアンタもスイーツ好きじゃないっ!」
指差されたフルーツパフェのグラス。
メロンだけがまだバランスを保っている。
そうしている間に、クリームソーダのアイスクリームは緑の波に沈んでいく。
「世間的にはスイーツ男子っスね」
「……アンタに任せられた、これからの部活が不安すぎるんだけど」
「不安なら、たまには部活に顔出して、新部長の俺の相談にものってくれますよね」
「……はじめっからこうするつもりだったんでしょ! こんっの確信犯!!」
「まったく、アタシになんの恨みあんのよ」
「……普通に最後とか言うからっスよ」
「ん? 今なんか言った?」
「いーえー何も。また相談会ついでに甘いもの食べにきましょうね、部長」
ドアベルが澄んだ音をたてた。
並んで出ていく同窓生を見送りながら、店長は一人微笑む。
「仲のよろしい同窓生様、またお越しください」