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洋食屋 コッペリア。  作者: シュレディンガーの羊
本編
7/10

07。クリームソーダとフルーツパフェ。

07。クリームソーダとフルーツパフェ。



机を挟んで向かい合うのは、

ネクタイとリボンの二人。



机にきらきらと緑の影が揺れる。

クリームソーダの泡がぱちぱち弾けた。


「部長、引退しないでください」

「あのね、引退はやめれないわけ。アンタ、そこ分かってんの?」

「わかりたくないです。物分かりがよくないのは、俺の長所っスから」

「はぁ? アンタばっかじゃないの」

「じゃ、バカな俺を哀れと思って、せめてあと5ヶ月はいてください」

「哀れとか別に思わないから。それに5ヶ月後とかすでに卒業だから」


崩れかけ、緑に沈みかけたアイスクリームを銀のスプーンが掬い上げていく。

メロンの炭酸水が泡とともに弾けて香る。


「じゃ、卒業までお願いします」

「あー。本当にめんどくさい」

「俺としては、けっこー本気なんですケド」

「……あたしとしては今、こんな話なんかしたくないよ。どんなに引き止められても、あたしは去っていくわけだし。最後ならこんなつまらないやり取りはイヤ」

「部長」

「だって、そうでしょ? あたしはもう部長じゃない。今はアンタが部長なんだから」

「え。もしかしてそれって部長じゃなくて、名前で呼べってことっスか!」


パフェ用のロングスプーンがクリームを突き抜け、コーンフレークを砕く。

グラスの上を飾っていたフルーツが、受け皿に落ちていく。


「……アンタねぇ」

「ていうか、部長ってなんか甘えるのとか下手っスよね。後輩にカッコつけたがるっていうか」

「はぁ? いきなり何言って」

「甘いもの大好きな甘党のくせに部活では、秘密にしてたりとか。本物のメロンよりメロンソーダとかメロン味のほうが好きなお子様味覚だとか」

「な、そういうアンタもスイーツ好きじゃないっ!」


指差されたフルーツパフェのグラス。

メロンだけがまだバランスを保っている。

そうしている間に、クリームソーダのアイスクリームは緑の波に沈んでいく。


「世間的にはスイーツ男子っスね」

「……アンタに任せられた、これからの部活が不安すぎるんだけど」

「不安なら、たまには部活に顔出して、新部長の俺の相談にものってくれますよね」

「……はじめっからこうするつもりだったんでしょ! こんっの確信犯!!」



「まったく、アタシになんの恨みあんのよ」

「……普通に最後とか言うからっスよ」

「ん? 今なんか言った?」

「いーえー何も。また相談会ついでに甘いもの食べにきましょうね、部長」



ドアベルが澄んだ音をたてた。

並んで出ていく同窓生を見送りながら、店長は一人微笑む。


「仲のよろしい同窓生様、またお越しください」


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