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洋食屋 コッペリア。  作者: シュレディンガーの羊
本編
6/10

06。カレーとシチュー。

06。カレーとシチュー。



机を挟んで向かい合うのは、

牛革靴とハイヒールの二人。



机の上には湯気のたつカレーの皿。

スパイスの利いた匂いが、部屋を温かく感じさせる。


「あーあ」

「どうしたの?」

「せっかくの結婚記念日なのに」

「どうして? 料理、美味しくない?」

「ばかっ! すっごく美味しいわよっ!」

「だよね、僕もすごく美味しいと思う。ここで良かった。あ、でもじゃあ何が不満?」

「……ぽくないの」

「僕らしくないってこと?」

「違うわよ。ただ記念日っぽくないなって」

「記念日っぽくない、か」


器用に掬い上げられた一口大のジャガ芋。

カレーのライスはまだ崩されずに、半分近く白いままある。


「ここシチュー、美味しいから食べてもらいたかったんだ」

「確かにシチューは大好きよ。でも、なんか普通なの。記念日は特別がよかった」

「フランス料理とか?」

「そう。夜景見て、ワインで乾杯とか」

「それは、ドラマの中みたいで照れるね」

「恥ずかしくても、あなたとならいいなって思ったりしたの。一日ぐらいなら特別だって許されるよ。私たち夫婦だもの」


下ろしたスプーンが、微かに無機質な音をたてた。白いシチューに小さな波が生まれ、また消えていく。


「って、わがままよね。……ごめん」

「とうもろこし」

「え?」

「お酢とサーモン、牛肉、パプリカ、茄子、あと白身魚と葱とイクラ」

「それ、私の苦手なもの……?」

「そう。フランス料理は正直ちょっと厳しいし、お寿司もあんまり」

「な、食べようとすれば食べれるわよ!」

「でも、せっかくの記念日。でしょう? 好きなもの食べてほしいし。だけど、シチューしか好きなものがわからなくてさ」

「雰囲気よりも、そっちが大事なの?」

「だって、今日は結婚記念日だよ」


家庭的な料理の代表。

二つの料理は温かくて優しい味がする。


「普通で申し訳ないけど、ね」

「……なんか、少し特別な気がしてきた」

「それは良かった。良かったついでに、僕に一口シチューくれるかな」

「うん。私にもあなたのカレーライス、一口くれたらね」



「来年も絶対ここに来ようね」

「気に入ったの?」

「うん。シチューの味とあなたの愛が」

「それが伝わったなら、僕も満足だよ」



ドアベルが澄んだ音をたてた。

並んで出ていく夫婦を見送りながら、店長は一人微笑む。


「微笑ましい夫婦様、またお越しください」

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