05。ショートケーキとミルフィーユ。
05。ショートケーキとミルフィーユ。
机を挟んで向かい合うのは、
セーラー服とブレザー姿の二人。
微かなバニラエッセンスの香り。
上品な苺の赤と、純真なクリームの白。
「やっぱりこれじゃなくちゃねー」
「本当にショートケーキ好きね」
「だってケーキの本質はこれだよー」
「本質ねぇ」
「苺に生クリーム。まさに正統派だもん」
「そう。で、本件はなあに? ショートケーキに免じていま言えば許してあげる」
フォークで切り取られた断面が、だんだんと傾いでいく。ショートケーキの上から苺が転がり落ちる。
「あれー? ばれてた?」
「ケーキを食べに行こうってあんたが言うときには裏があんのよ」
「だって、甘いものを前にしたら怒る気うせるかなーと思って」
「お見通しよ、それぐらい」
「んー。さすが我が親友だね。見事見事」
「何年親友やってると思ってんのよ」
躊躇いなくミルフィーユを横倒しにする。
さくりと音をたてるパイ生地。上にかけられた粉砂糖が少し散る。
「実はわたし、告って付き合って振られて泣いてみたいな感じなことをしましてー」
「そんなの初耳よ」
「うん。親友に言わずにいてごめーん」
「このミルフィーユ、あんたの奢りね」
「うーん。やっぱケーキによる甘さは偉大」
「てゆうか、なんで泣く前に私に相談とかしないわけ?」
「少しは迷惑かけるのやめて、親友離れしようかなーて考えて」
「で、結論は?」
「懲りましたー。私には親友様が必要です」
正統派で純白なショートケーキは傾いて、豪奢で高貴なミルフィーユは横倒し。
でも、見た目が崩れても香りは甘いまま。
「ねぇ、知ってる? ミルフィーユって先に横倒しにしたほうが綺麗に食べやすいの」
「なんの例えかなー。したたかな親友様?」
「それが私の長所だから。あんたの長所は飾り気のない真っさらなとこよ」
「ありがとー。やっぱ親友は必要不可欠、偉大すぎー。もう絶対、浮気しません!」
「もうわたし、親友だけいればいいやー」
「私はいつかあんたとダブルデートしたい」
「やっぱ訂正。四人でケーキ食べれるような人、一緒に見つけよー」
ドアベルが澄んだ音をたてた。
並んで出ていく少女を見送りながら、店長は一人微笑む。
「絆あるご親友様、またお越しください」