04。ハンバーグとオムライス。
机を挟んで向かい合うのは、制服姿と練習着姿の二人。
デミグラスソースのどことなく甘い匂い。
拳ほどの大きさのハンバーグには、ほんの少しだけ野菜が添えられている。
「へぇ、レギュラーになれたんだ」
「なんとかだけどな。お前は?」
「僕もぎりぎりだけど、作品完成しそう」
「よかったな」
「そっちもね。今日はお祝いかな?」
「でも、結果出さなきゃ意味ないだろ」
「うわぁ、お祝いムードぶち壊しだよ」
「ま、俺はこれが食えりゃ幸せだから」
一口大に切り分けられたハンバーグ。
端に寄せられた人参のグラッセ。
「……好き嫌いはっきりしてるよね」
「いきなりなんだよ」
「小さい頃からあれは好き、これは嫌いってちゃんと言うんだもの」
「お前はあんま言わないよな」
「僕は世渡り上手だからね」
「八方美人の間違いだろうが」
「あ、幼なじみに向かってひどいなー」
「てか、そういうお前だって、普通に好き嫌いはあるわけだろ」
示されたのはオムライスの皿。
卵の黄色と、ミッスクベジタブルの三色に、デミグラスソースはよく栄える。
「グリンピース。嫌いなのによく食えるな」
「嫌いじゃなくて、苦手なだけだって」
「別に嫌いって悪いことじゃねぇだろ」
「僕はそう簡単に嫌いとか言いたくない」
「ふーん。グラッセいるか?」
「もらう。僕、好きだし」
「ほんと、好み合わないよな俺ら」
肉のほとんどないオムライス。
野菜のほとんどないハンバーグ。
共通点はひとつきり。
「でも、デミグラスソースは好きだよ」
「それには同意」
「なんだかんだ言って、取り合いにならないからいいんじゃない?」
「だな。グリンピース食ってやろうか?」
「……まじで?」
「次はちゃんと結果だしてから来るか」
「そしたら、今度はお祝いしようね」
「俺はデミグラスソースのハンバーグで」
「僕はデミグラスソースのオムライスで」
ドアベルが澄んだ音をたてた。
並んで出ていく少年を見送りながら、店長は一人微笑む。
「素敵な幼なじみ様、またお越しください」