01。珈琲と紅茶。
賑やかさから少し離れた路地裏。
そこにその店はある。
キャラメル色の外装に、白い屋根。
こじんまりとした店内には四組の机。
窓枠には曖昧な微笑を浮かべた白磁人形が腰掛けていて、その隣でアンティーク調のオルゴールが回り続けている。
『洋食屋 コッペリア』
今日も、澄んだドアベルが来客を告げる。
机を挟んで向かい合うのは、スーツ姿と学生服の二人。
机の上でふわりと湯気が揺れた。
珈琲の香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。
「都会の社会人になった、って言ってもあんま変わんないもんだね」
「すぐ変わったら可笑しいだろ。お前こそ高校生には見えないぞ、その身長」
「そういう兄貴も身長低いくせに」
「生意気言うようにもなったなぁ。昔は俺の真似ばっかして可愛かったのに」
「はぁ?」
「俺のおもちゃをやたら欲しがったりとか、俺の後ろをちまちまついて来たりさ」
「何歳の頃の話しだよ、それ」
「これだって、そうだろ」
持ち上げられたカップの中で、珈琲が波打つ。
ミルクも砂糖も入っていないそれは、どこまでも漆黒に似ている。
「俺が背伸びして飲むのを、真似して飲んで苦い苦いって半泣きしてたよな。そのくせ懲りずに何度も真似するし」
「……そんなことよく覚えてんね」
「で、俺がその後にしょうがなく砂糖とミルクたっぷりの紅茶入れてやると超喜ぶ」
「それ、むしろ逆だから。兄貴がその紅茶を入れてくれるから、苦い珈琲を毎回懲りずに飲んでたわけ」
もう一方のカップには、琥珀色の紅茶がなみなみと入れられている。
それにミルクを垂らし、その次に角砂糖を落とす。
「へぇ。子供なりにずる賢かったわけだ」
「気づかなかった兄貴は鈍かったわけだ」
「俺も若かったってことだな」
「うわ、まだ二十代のくせに」
「で、今はもうブラック飲めんの?」
押し寄られた半分に減った珈琲のカップ。
机に並ぶ紅茶と珈琲。
ふっと緩んだ空気に、甘い香りが混じる。
「飲めなくていいよ。もう兄貴を目指すのはやめたから」
「賢明だな。で、これからの方針は?」
「これからは、紅茶の似合う可愛らしい女子高生を目指す」
「ぜひそうしてくれ。もともと勇ましい妹より、可愛らしい妹が欲しかったんだ」
「また家、帰ってきなよ」
「そしたら、また紅茶入れてやるよ」
「うん。楽しみにしとく」
ドアベルが澄んだ音をたてた。
並んで出ていく兄妹を見送りながら、店長は一人微笑む。
「睦まじいご兄妹様、またお越しください」
【コンセプト】
始まりと終わり定型文。
会話文メイン。描写は少量。
場には、客二人と店長一人。
注文は二品。多少は描写すること。
ちょっとほんわか。を目指してみる。
「あき」と二人企画。