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漫画原作(未作画)

海底機動 マクリール

作者: 阿僧祇

■主要登場人物

メル: 20過ぎ、女性

 カイバラ=メル。二級潜水作業免許を持つ、マクリール試作機のパイロット。日本人

 とアフリカ人のハーフで、足が長くスタイルはかなりいい。もちろん色黒。


キース: 20代半ば、男性

 キース=クラインベルク。技術者。マクリールの開発技師。ドイツ系でがっちりした

 体型だが、理知的な空気も漂わせる。


アーウィ: 20前後、女性

 ツウ=ウィ。海中基地の要員でメルの友達。中国系で小柄。


ボック: 50前後、男性

 ボック=イワノビッチ。通信士。ロシア系で体格が大きい。


サィード: 30代後半、男性

 サィード=マハーナコーン。機械技師。インドネシア系で、痩せていて長身。


ユージ: 20前後、男性

 メルの昔のBF。日本人の学生。


職員:

 海上基地の職員。


上司:

 メルたちの上司。出演は声だけの予定ですが、演出によってはモニターに姿が写る

 などしても可です。



■登場メカ

マクリール:

 ボートロイド(深海作業ロボット)で、主役メカ。人が乗って操る。詳細なデザイン

 は一任します。リアリティ追求でもイメージ優先でも、丸くてもスマートでも、

 絵師さんの演出意図しだい。


潜水艇:

 100m程度未満の浅い海中で使う連絡船。


海底油田:

 海上に櫓が組まれ、パイプラインを使い、岩盤と海水の圧力(数百気圧)による自噴で

 石油を汲み上げている。海底部は3000m程度の深海底にあり、光はまったく届かない。

 キモなので、リアルっぽく描写していただけることを希望します。


海中基地:

 50~100m程度の浅海中にある油田監視所。釣り下げ型の潜水基地。要員は10人前後で、

 ボートロイドや潜水艇を格納する。デザインは一任します。


海上基地:

 IMEめが「甲斐譲吉」って変換しやがった。_| ̄|○

 ……海中基地を釣り下げるための浮上ベース。

 海底油田の櫓みたいな形をイメージしてます。



 ○浅海

 魚の群れが泳ぐ。

 そこへ、上から近づく黒い影……

 群れが飛び散る中を、マクリールが両腕を広げて泳ぐように、下へ下へと潜っていく。

 背中から通信用のケーブルを引っ張っている。(海中に電波は届かないから)


 ○コクピット

  レーダーや計器に囲まれた、狭く暗い操縦席。

メル「まもなく深度1200m。計器はほぼクリア。ただ、気温が予想より低め、酸素の

 消費も推算以上。Over!」(伏線)

  メル、ヘルメットを被って救命胴衣を着けた、アフリカ系ハーフ日本人の少女。

  (厳密でなくても、「黒人ぽい」特徴があればOKです)

通信「Get。データを確認した。無理は禁物だ、今日はもう帰還せよ」

メル「Get! でも1500まで潜ってみます」

通信「Get。機体をチェックする必要がある。帰還しろ、メル」

  メル、ムッとして

メル「Get。その声はキースね? まだ行けるわよ、このアホ!」

通信「うるさい馬鹿メス! マクリールを壊すなと何度言わせるんだ!」(伏線)

通信「やめろ、お前ら。メル、帰還せよ。業務命令だ」

  メル、肩を竦めてから、モニターを覗き込むような仕種。


 ○海中

  マクリールが泳いでいく近くに、石油プラントのパイプラインが垂直に、下へ

  下へと伸びている。


 ○海中基地、格納庫

メル「ぷはっ!」

  ヘルメットを取って息をつくメル。

アーウィ「おかえり、メル。調子は?」

メル「まあまあかな……でも」

  びしょ濡れのマクリールを見上げて(外装が少し傷んでる…伏線)

メル「マクリールって居住性は最悪よ、アーウィ。息苦しいし、そのうえ寒くなった

 り暑くなったり」

 「気密性だってあやしいもんだわ」

  と、びしょ濡れのシャツを示す。

キース「イイカゲンなこというな、それはムレてかいた汗だ」

メル(気がついて)「キース」

キース「第二次大戦の伏龍(Fukuryu)じゃないんだぞ? 深度1000で気密性がヤバ

 かったら、水圧でペシャンコだろうが」

  メル、アカンベして

メル「うるさい! 開発者なら、もっと乗り心地いい試作品を作りなさいよ!」

キース「マクリールは現時点で最高のボートロイドだ。使いこなせないのはパイロット

 が悪いんだよ、黒ンぼ」

メル「何ィ? この人種差別の白ブタ、やる気?」

キース「ほら、そうやってすぐ感情的になる。俺は事実を言っただけだ」

アーウィ「やめなよ、キース。メルも、疲れてるんでしょ?」


 ○海中基地、船室

  ドアの前に「Lady's」と書かれた札の掛った、狭い船室。

  女の二人部屋で衣服が脱ぎ散らかされお菓子の空き箱がとび散ってる中(伏線)、

  簡易寝台の下の段で横になり、ゲーム機をいじってる、Tシャツ姿のメル。

モノローグ「地上における化石燃料の採掘は限界を迎え……今の時代、油田やガス田

 の多くは深海にある」「その保守・警備を行うために開発されてるのがボートロイ

 ド。私、カイバラ=メルはその新型試作機のパイロットってわけ」

メル「あーっ、また死んだ!」

  ちゅどーん、と音。

メル「やめやめ。 今日は、もう寝よっ!」

  枕に顔を押し付ける。

メル「…………。」

  ふと、悲しそうな目。

メル「違う! 考え事じゃなくて、寝るのっ、寝るのっ!!」


 ○都内某駅(回想)

メル「ユージ!」

  喜んで大きく手を振っている。

  ユージ、力なく?小さく手を振り返す。


 ○都内某所(大きな公園など?、回想)

  メルとユージがデート中。

メル「四ヶ月も会えなかったんだもんね。今日はいっぱい遊ぼうよ!」

ユージ「ああ、そうだな……」(心ここにあらず)


 ○都内某所、夕方(観覧車など? 回想)

メル「え!?」

ユージ「だから、終わりにしよう」「こんな何ヶ月も会えない恋愛、もう……」

メル「私は耐えてるよ!? 来週には二級潜水作業免許だって……!!」

ユージ「そうしたらメルは、ずっと海の中だろ?」


 ○都内某駅(回想)

ユージ「さよなら。海で幸せにな」

メル(涙)「ユージ!! 行かないで、ユージ!」

  ユージが知らない女と一緒に去っていくイメージ。

メル(号泣)「ユージぃ!!」

  (回想終了)


 ○海中基地、船室

  暗い簡易寝台で目を覚ます。メル。涙が出ている。

  両手で目を覆って、

メル「………」


 ○海中基地、食堂

メル「おはようございます……」

  目が脹れている。

  そこは、8人席しかない狭い食堂。壁に自販機のようなものが並び、食べ物も

  飲み物もすべてセルフサービスになっている。

  トレーに載せた食事を食べているキース、ボック、アーウィなどがいる。

アーウィ「メル、よく眠れなかったの?」

メル「うん、ちょっと……」

キース「遅くまでゲームなんかやってるからだ。油田監視員としての自覚がないんだ

 よな」

メル「!」

キース「それとも……BFの写真でも見て一人で喜んでたか?」

  怒ってガタッ、と立ち上るメル。

メル「キース…いつも思ってるんだけど、私に言いたいことでもあるわけ?」

キース「Get。あるといえばある」

メル「文句があるならハッキリいいなさいよ! 男らしくない、ウジウジと!」

アーウィ「メル…!」

キース「言ってもいいが……仕事に支障を生じさせたくないからな」

メル「なんですって、出向社員のくせに!?」

キース「とりあえず、その感情的なとこと差別発言をなんとかしろ。話はそれからだ、

 黒ンぼ」

  キース、食べ終わって立ち上がり、トレーを洗浄機に。

キース「お先」

  メル、怒り心頭。

メル「あんの、白ブタぁ!」

  ガツガツと食事を口にほうり込む。

アーウィ「楽しく食べないと、胃に悪いよ、メル?」


 ○海中基地、掲示板

  クルーの予定表が書かれている。

  8:00-14:00

  ボック=イワノビッチ  :通信室

  ツゥ=ウィ       :倉庫チェック

  サィード=マハナコーン :データ再確認

  カイバラ=メル     :(非番)

  キース=クラインベルク :格納庫

  ・・・・。


 ○通信室

  ボックとサィードがモニターを見て作業中。サィードは紙コップを手にしている。

  メルが入って来る。

メル「閑だから、ちょっとお邪魔♪」

サィード「かまわないよ、ひと区切りついたところだ」

  メル、のぞき込んで、

メル「昨日のデータですか、サィードさん?」

サィード(紙コップのコーヒー?をすすりながら)「ああ」「見てみるか?」

  メル、キーを叩きながらモニターを確認。

メル「……やっぱり、発熱機構が沈下速度に追いついてませんね?」

サィード「沈下や浮上にはもっと時間をかけたほうがいい。潜水病になっちまうから」

メル「アハハッ、ボートロイドも潜水病になるんですか?」(笑汗)

サィード「……なるさ」

メル「血液もないのに?」

サィード「血液がなくとも、水圧の変化は外装や機器に負担をかけるだろ」

メル「…………」

サィード「君の健康にも影響あるし」

  ボック、自分のモニターを見ながら

ボック「メル、この基地で二級潜水作業免許を持ってるのは君だけなんだ」「君の体も

 もちろんだが、ボートロイドを壊さないでくれよ?」

メル「はい」(苦笑)

ボック(モニターを見たまま)「一級の所持者が来るまでは」

メル(心の声)「…え!」


 ○オペレーションルーム(回想)

  教官が数式や図形のたくさん書かれたホワイトボードを示しながら

教官「従来の深海潜水艇は、球に近い形にすることで水圧に対応していた」「だが……

 マクハリウム合金に適度な熱を通すことで、曲面でなくとも水圧と低温に同時に対応

 できるようになった」

  ノートパソコンを開いて真剣に聞いている生徒たちの中に、メルも。

教官「これを利用して試作中のボートロイドは、人間の手の動きをほぼ正確にトレース

 して、深海中での作業をできる」

メル(心の声)「ボートロイド……」

教官「実用化は来年の予定で、資格は二級免許から……君たちの中からも、ボートロイ

 ドの操縦士が出るかもしれないな」

メル「!」

  メル、希望に溢れた笑顔。

  (回想終了)


 ○食堂

  節電で薄暗い食堂。

  メル、浮かない顔でイスに座り、パックの果汁ドリンクをすすっている。

キース「暇そうだな、黒ンぼ」

メル「あ、うん……」

キース「?」

  キース、自販機を操作しつつも疑問顔。

キース「なんだ? もう突っかかってこないのか?」

メル「あのさ、キース。私って……もしかしてマクリールに嫌われてる?」

キース「?」「乱暴に扱われりゃ、機械だって嫌がるだろうさ」

  キース、自販機からホットドッグを取り出す

メル「そっか……」

キース「でも、この基地に免許持ちはお前しかいない」

メル「他の免許持ちが来たら、私はお払い箱かな?」

キース「……?」

  じーっ、とメルを見るキース。メルは落ち込んでる様子。

キース「あのな……お前の悪いとこは、そのすぐ感情に左右されるところだ」

  メル、驚いて見上げる。キースはホットドッグをぱくつきながら、

キース「深海で予想外のことが起きたとき、コクピットにはお前一人しかいない」

 「冷静な判断ができないと……還って来れないぞ?」

メル「……」

キース「陸上(オカ)にはカレシとかいるんじゃねえのか? 悲しませるんじゃねえ」

メル(少し青ざめて)「う、うん」

キース「さて…」

  キース、食べ終わった空箱をダストシュートにほうり込んで、立ち去りかける。

メル「え、もう休憩おしまい?」

キース「あっちこっち傷んでるからな、整備に手間がかるんだ、誰かさんのせいで」

 「お前も、暇ならトレーニングでもしてれば?」

メル「!」「言われなくたって!」


 ○海中基地、トレーニングルーム

  酸素メーター「最多-多-中-少-最少」の「少」になっている。

  そこは、運動室としては狭い空間。

  そこで、時計を前に置き四点倒立(手は握りこぶし)しているメル。目が血走り、

  汗をかいて、頬を膨らませ、腕はぶるぶると震え、かなり呼吸が荒い。(伏線)

メル(心の声)「27分……あと3分は……」

  窓の向こうの廊下を、資料のファイルを手に通りかかったアーウィ。メルに気づく。


 ○海中基地、シャワー室

  メルのシャワーシーン。(サービスカット(笑))


 ○海中基地、船室

  メル、簡易寝台に腰掛けて頭をタオルで乱暴に拭いている。

  上の段にアーウィ。二人とも、スナック菓子をつまんでる。

アーウィ「非番なのにおつかれ、メル。よく30分も逆立ちできるわね」

メル「まだまだ。45分オーバーの先輩もいたもん」

  メル、上の段を見て

メル「1日10秒ずつ増やしていけば、アーウィも無理なく到達できるよ?」

アーウィ「そのうちやりまス」(苦笑) 「そういえばキースもかなりの体力みたいね」

メル「あいつの話はやめて! せっかくの休息タイムに」

アーウィ「あらん、可哀相な人なのよ? 噂だと、親友を潜水事故で亡くしたんだって」

メル「え……そんな話、一度も」

アーウィ「まあ、自分からは話さないからねぇ……」

メル「さて」

  メル、立ち上る。

アーウィ「どこへ?」

メル「寝る前に、マクリールに会ってくるの♪」

  アーウィはメルを見送りながら微笑し

アーウィ「ホントに、好きなのねぇ」


 ○海中基地、格納庫

  薄暗い格納庫でマクリールを見上げているメル。足もとには工具がいくつか転がっ

  ている(さりげなく)。

モノローグ「マクリールが量産されれば、無人潜水艇ではできないような微妙な作業も、

 深海底でできるようになる……」

  メル、満足そうに見上げつつ、

モノローグ「油田開発が自然破壊に繋がることはわかってる……だけど、どうしても

 必要なことなら……破壊を最小限に抑えて開発する方法を確立するしかない」

 「それがボートロイドなんだから…」

  後ろから足音がして驚くメル。

  反射的に、物陰に隠れてしまう。

メル(心の声)「あ、なに隠れてんだろ、私?」

  格納庫にやってきたのはキース。照明器具を運んできた。

  パッ、と下からライトが点けられ、メルは目をつぶる。

キース「……お前は、もっと優れた機械なのに」

  キース、外装が開いている部分の機械の整備作業を始める。ボルトを調整したり

  していてメルには気づいていない。

キース「丁寧に使えば、深海作業のほとんどをやりとげられるのに……」「外装を

 こんなにへこませて……乱暴なんだよ、あいつは」

  メル、ムッとして見ている。

  ところが、キースは慈しむような穏やかな表情をし、ウェス(布)で丁寧に機械を

  拭いていた。

  メル、驚いて見ている。

メル(心の声)「好きなんだ……キースも」


  ……と、突然、ビーッ、ビーッ、と警告音。

放送「緊急事態! 緊急事態!」


 ○海中基地、通信室

  基地の全員(10人ほど)が集まってる。

サィード「石油が漏れている。パイプラインの基底部分だ」

キース「原因は?」

ボック「無人潜水艇が予想外の潮流にやられて、パイプの基部に衝突したらしい」

キース「ったく……事前調査のコストをケチるから」

アーウィ「でもバルブは閉めたんでしょ?」

ボック「それが……閉めても流出が止まらないんだと」

一同「!」

キース「パイプの根もとに亀裂ができたのか、あるいは岩盤じたいにひびが入ったか…

 …」

アーウィ「自噴式の油田よ? ほっといたら膨大な石油が海中に……」

モノローグ(一同)「死の海になる!?」

  ゾクッ。

ボック「A~Cの各基地から無人潜水艇が出たが……海底には潮流があるし、遠隔操作

 では限界があるんだそうだ」

メル「待ってよ。要するに、開いた穴に蓋をすればすむ話じゃないの?」

キース「300気圧の中に吹き出してる石油だぞ。どれだけの高圧かわかってるか?」

サィード「コンクリートを流し込んでも固まる前に吹き飛ばされてしまうし、特殊繊維

 で包む作業も遠隔操作では困難だ」

  ぴーっ、と呼び出し音。

一同「!」

通信「本社だ。D基地には新型の有人機があったな?」

ボック「試作品ですが……」

通信「そいつを出せ」

ボック「! 待ってください、まだ1800mまでしか潜ったことない機体ですよ? 第一、

 まだ試験中で納入だって済んでは……」

通信「緊急事態なんだ、手段を選んでる場合ではない!!」

ボック「無茶です、せめて、経験豊かな一級潜水作業士を派遣してもら……」

通信「言ったろう、手段を選んでる場合ではないんだ」

ボック「でも、危険すぎます」

通信「危険なことなど承知の上だ! やってみる前からできないなどという返事は

 ゆるさん!」「……技術的にはどうなんだ、出向技師君?」

キース「たしかに理論上では可能です。ですが……」

通信「可能ならやれ。業務命令だ、有人機を出して穴をふさげ。以上!」

キース「……!」

  プツッ。

  サィード、溜息。

サィード「会社はいつもこれだ。可否なんて検討もしないで命令する」

アーウィ「承知の上って……危険なのは現場だけで、会社のデスクにはなんの危険も

 無いのにね」

メル「でも……他に方法はないんですよね?」

一同「!」

メル「ほっとけばここも死の海になる……それなら私、行きます」


 ○海中基地、格納庫

  キースが溶接機などを使って忙しく作業中。ガンガン、バリバリバリと音が響く。

  アーウィやサィードも工具や資材を運んで手伝い中。(マクリールを強化してる)

メル「キース、何か手伝うことある?」

キース(作業しながら)「やかましい! 邪魔だ、黒ンぼ!」

メル(怒って)「なっ……手伝ってあげるって言ってるのに、何よそれ、この白ブタ!」

  キース、ドリルを手に振り向いて

キース「今のキサマの仕事は、出航まで1分でも多く眠っておくことだろ!?」

メル「眠……」

  必死に作業を続けるキースを、後ろから見ているメル。

キース「俺も一緒に海底に行くわけにはいかないんだ!」「睡眠不足で潜って、事故っ

 たら、無駄死にだぞ!?」

  メル、ふくれっつらになるが

メル「……Good night!!」

アーウィ(しかたないという顔で微笑で)「晩安(おやすみ)


 ○海中基地、船室

  簡易ベッドの下の段でぼーっとゲームしているメル。

モノローグ「そうか、これから十何時間もコクピットで一人になるんだ……居眠りも

 できないまま」

  ゲームを枕の横に置いて

メル「やめやめっ、寝なきゃ!」


 ○海中基地、格納庫

  コクピットに乗り込んでるメルを、みんなが取り囲んでいる。

アーウィ「これも……中で」

メル「ありがとう」

  アーウィから渡される、大量のスナック菓子の袋。(伏線)

キース「循環装置は約18時間まで増強した。酸素がある間に応急処置を終えて帰って

 こいよ」

メル「わかってるわよ、白ブタ」

キース「口の減らない黒ンぼめ。……これもやるから持ってけ」

メル「え……新発売のゲーム機?」

キース「上がり下がり中の暇つぶしだ。……熱中しすぎるなよ、酸素には限りがある

 んだから」

メル「うん。でもなんだか……棺桶に入るみたい、こういろいろ貰っちゃうと」

キース「脳タリン! マクリールはまだ俺の私物なんだ、勝手に棺桶にしたら、グーで

 ブチのめすぞ!」

メル「……その時は死んでるってば」

キース「そしたら、地獄まで追いかけてって殴ってやる」

メル「私が行くのは天国だから大丈夫っ! 勝手に地獄に行ってな!」

キース「なら…お前の死体に、口ではちょっと言えないようなイタズラをしてやる」

メル「うっ、…それは嫌かも……」(汗)

キース「嫌なら帰ってくればいい。マクリールを連れてな」

メル「……Get。」


 ○浅海中

  海中基地から、数本のケーブルを引っ張りつつ沈下を始めるマクリール。背中に

  照明器具と大量の特殊繊維を負っている。


 ○コクピット

  メル、もしゃもしゃとスナック菓子を食べながら計器を操作。

  モニターには海中の様子が暗く映っている。

メル(心の声)「沈降速度、秒速0.1m。安全だけど、100mに15分、3000mには7時間半

 か……」

  メル、ふと思い付き

メル(心の声)「泳いで潜っちゃえば数倍のスピードで……」

  メル、首をプルプルと振って

メル「万が一にもトラブッちゃだめだもんね、今度は」

  スナック菓子の空き袋をくしゃっと握り潰す。


 ○海中基地、通信室

サィード「交替しよう」

ボック「頼む。現在、深度1000、着底まであと5時間……今のところ異常なしだ」

  サィード、横を見るとキースがモニターを睨んでいる。

サィード「キース、あんたも少し休んできたらどうだ。昨日は徹夜だろ?」

キース「黒ンぼが一人でがんばってるのに、俺が寝てられるかよ」


 ○コクピット

メル「おお~、宝剣ゲット!」

  音楽が鳴り、メルは別のスナック菓子を口にしながら嬉々としてゲーム中。(笑)

  ふと、計器に目を。

メル「深度2300……」

  モニターは真っ暗。

メル(心の声)「もう光も届かないわね。ちょっと寒いな……」

  ピッ、ピッ。ピッ。

メル「!」

  カチャカチャ、とモニターを操作。

メル「ベース! ベース! over」

通信「…Get、サィードです、どうした? over」 

メル「Get。海水中に石油を感知。予想よりも早く広がってるみたい。over」

  メル、表情が真剣。

メル(心の声)「まずいんじゃない、これ?」


 ○深海中

  真っ暗な中を、マクリールがゆっくりと沈んでいく。


 ○コクピット

  メルの息が白い。

メル(心の声)「真っ暗な海の中に溶けていくみたい……」「そういえば、人間の体の

 70%は水分……溶けるんじゃなくて、還っていくのかなぁ……海水に」

メル「ん?」

  キーボードをカチャカチャカチャ……

メル「おかしい……酸素の消費が早いような?」


 ○海中基地、通信室

  キース、モニターの変化に気がついて

キース「……酸素が」

サィード「ん?」

キース(マイクに)「メル、どうした? 酸素が減りすぎてるぞ? それに、少し

 東に流されている。ゲームに熱中しすぎじゃないだろうな?」

通信「Get。ンなわけないでしょ。こっちも調べてる。原因はまだ不明。over」

キース「おい……」

モノローグ「低温下で体温を保つには、多量のカロリーと酸素が必要……筋肉の多い

 人間ほど。まさか……!!」


 ○コクピット

メル(心の声)「どうしよう…一気に潜っちゃうおうか?」「でも、もう2000を越えてる

 し……マクリールが壊れるかも」


 ○深海中

  真っ暗な中を、マクリールがゆっくりと沈んでいく。


 ○海中基地、通信室

キース「7時間18分……そろそろ着底か」

サィード「ああ」

通信「ライト点灯。……着けたのに、なんにも見えないわ」


 ○深海中

  真っ暗な中を、マクリールがゆっくりと泳いでいる。

通信「すごく寒いし、水圧も強い……ほとんど動けない」


 ○海中基地、通信室

サィード「300気圧……1平方センチあたり300kgの圧力だからな」

キース「パワー補助モードを最大にしてみろ、計算上は動けるはずだ」


 ○コクピット

メル「Get。なんとか泳げた。でも、思ったより不自由だわ」


 ○海中基地、通信室

キース「Get。計算が甘かったのか? それとも、荷物が多い所為か?」

通信「……着底。足が海底に着いた様子」


 ○深海底

  白と黒が入り交じり、マクリールの姿さえも霞んでいる。

メル「駄目だわ、マリンスノーと石油で視界はほとんどきかない」「潮流と水圧も

 強い。…そっちで誘導して」


 ○海中基地、通信室

サィード「Get。東北方向へ約450m進め。over」


 ○深海底

  マクリール、潮流に逆らって、ぎこちなく歩行する。その後ろに小さな気泡が。


 ○海中基地、通信室

  キースとサィード、瞬きもせずにモニターを見ている。

  そこへアーウィが入ってくる。

アーウィ「そろそろ着いた?」

サィード「ああ。メルは今、3000だ」

  キース、焦りの表情になつてくる。

キース「たった450m歩くのに何十分かかるんだ、いったい」

サィード「なにしろ、300気圧だし……」

  モニターに「酸素残 49.98%」の文字。


 ○深海底、事故現場

  真っ暗な中にかすかに、折れたパイプや櫓の一部が見えている。

  マクリール、潮流に逆らいながら現場を見回す。


 ○海中基地、通信室

通信「映像、見た?」

サィード「Get。ひどいな、どこから漏れてるのかさえよくわからない」


 ○コクピット

メル「カーボン繊維で包むにしても……この潮流じゃ、じきにめくれちゃう。かなり

 大きな重しが必要ね」


 ○海中基地、通信室

  ボックも来て、ほとんどのメンバーが集まっている。

ボック「Get。応急処置は無理そうか?」

通信「うん。海中基地まるごとくらいの重しがないと」

  ピーッ

ボック「本社から連絡だ、メル、すこし待っててくれ」「はい、D基地」

通信「有人機が海底に達したそうだな」

ボック「はい、ちょうど今、現場の調査を始めました」

通信「トロトロしてないで早く穴をふさげ。石油が周辺の海域に広がれば、補償だ

 なんだで金が掛る。お前らの給料ぐらいじゃ、1000人クビにしても足りないぞ」

サィード(独り言)「事故は俺たちの責任とでも言うのかよ」

通信「いいか、手段を選ばず、とにかく蓋をするんだ、わかったな!」

  プツッ。

ボック「手段を選ばず、か……言うだけならいくらでもできらあ!」

キース「!」

  キース、マイクを取って

キース「メル! さっき、重しがどうとか言ったな?」

通信「え? うん。海中基地くらいの重しがあれば……」

キース「水圧で潰れてもいけそうか?」

通信「え?」

キース「こっちでもシミュレーションしてみる。データが必要だ、現場周辺の情報を

 できるだけたくさん送ってくれ」

  一同、疑問顔。

アーウィ「キース?」

キース「手段を選ばずに、蓋をしてやろうじゃないか」

  モニターの隅に、「酸素残 46.61%」


 ○コクピット

  驚愕して

メル「本気なの、この白ブタ!!」


 ○海中基地、通信室

キース「ああ。脱出準備を進めてる。お前の私物も、アーウィがまとめてくれた」

 「その後で空気を抜き、爆雷を仕掛けて基地を沈める」


 ○コクピット

通信「計算では、約1時間で着底する。……ケーブルが切れるから誘導できないけれど、

 お前はいまから自力で浮上しろ」

メル「待って待って。海底には潮流があるんだよ?」

  メル、モニターを見ながら、

メル「基地が沈んでくる寸前まで、シートの固定具合を見てなきゃ」


 ○海中基地、通信室

キース「馬鹿メス! 酸素が危ないんだ、とり返しのつかないことになるぞ!?」


 ○コクピット

  メル、拗ねた顔で、

メル「基地まで沈めて失敗したら、それこそ取り返しつかないじゃん」


 ○海中基地、通信室

キース「感情的になるな」

通信「大丈夫、計算の上よ。マクリールだけはちゃんと浮かすから」「あ、死体に

 イタズラしちゃ、ダメだかんね?」

キース「……されたくなきゃ、生きて帰ってこい!」

通信「Get。Over……」

  モニターの隅に、「酸素残 44.26%」


 ○深海底、事故現場

  真っ暗な中、マクリールの背から、ケーブルが離れて潮流に流されていく。


 ○海中基地、格納庫

声「いそげ、自爆まであと5分!」

  全員、潜水艇に移乗する。


 ○浅海中

  海中基地から、潜水艇が離れていく。

  海中基地を釣り下げていたケーブルが外れ、基地からたくさんの気泡が。

  そして……数箇所で爆発。


 ○潜水艇の中

  不安そうな一同。

キース(心の声)「帰ってこい、黒ンぼ……」


 ○深海中

  ライトの光の中にも黒いものが漂う暗い海中に、マクリールが上を見上げている。

  (さらに外装がへこんでる)


 ○コクピット

  メル、寒さに震えながら、悲壮な表情でモニターを見ている。

  モニターの隅に、「酸素残 40.17%」

メル「! 来た!」


 ○深海中


  マクリールが浮上し、泳ぎ始める。


  その上からかぶさるように、水圧で潰れてひしゃげた海中基地が沈んでくる。

  (大コマ)


 ○海上基地、夜

  櫓のある、浮揚基地。

  波が高く風もあるが、みんな、外の柵につかまって夜の海を見詰めている。

  キース、辛そうな表情で時計を見る。


 ○深海中

  明るいほうへと浮上していくマクリール。

メル「海の神様……今まで祈ったことなかったけど……」


 ○コクピット

メル「……って、お前がそうだったね、マクリール」「マナナン=マクリール……

 ケルト神話の海の神様」

  メル、祈る。汗はかいているが爽やかな表情。

メル「みんな、無事に脱出できたかなぁ……」

  モニターをみつめ、

メル「急ぎすぎると、外装が壊れる」「中の人はともかく、外側だけはだけは無事に

 届けなきゃ……約束だもんね」

  モニターの隅に、「酸素残 23.45%」

  メル、悲しそうに笑って

メル「……中の人はともかく」


 ○海上基地、未明

職員「天気が荒れ始めています。室内に……」

キース「もう少し……もう少しだけ、ここにいさせてくれ」

職員「あなたがここにいても、ボートロイドが早く戻るわけじゃありませんよ?」


 ○コクピット

  息苦しそうなメル。汗もかいている。

メル(心の声)「暑……気温が上がってきた」「酸素を節約……しても、もう無駄かな」

  メル、横にあるゲーム機に気がつき、

メル(心の声)「キースの……」

  しばらく迷うが、目をつぶり、手を取る

  ちゃらららら~ん♪

  スイッチを入れ、スナック菓子を食べながら遊び始める。

メル(心の声)「……キース」

  その目には涙。

  モニターの隅に、「酸素残 13.28%」


 ○海上基地、早朝

  強い風の中、柵を掴んで、キースが海を睨み付けている。

キース(心の声)「メル……」

  キース、祈りだして目をつぶり

キース(心の声)「海の神様…っ!」


  と、そのとき。


  すさまじい波を蹴立てて、マクリールが浮上する。

  (大コマまたは見開き)



  (以下サイレント)


  大騒ぎになる海上基地。

  何隻ものボートが走り回る。

  その一隻に乗り込み、仰向けに浮いてるマクリールを指差して何か叫んでるキース。

  かけつけた者たちがコクピットを開けると、メルはゲーム機を大切そうに胸に抱き、

  汗だくで静かに眠っているかのような姿だった。

  キースが何かを大声で叫んでる。

  キース、周囲が止める手を振り払い、メルの頬を何度も平手打ち。

  そして、マウス・トゥ・マウス。(人工呼吸?キス? どちらとも取れるように)


  (サイレントシーン終了)


  ○病室

声「原因はわかった? 低温の」

声「まだ調査中だけど……高水圧下で発熱機構の働きが落ちることは確かめた」「あい

 つの実用化には、まだまだ改良が必要だ」

メル「そう……」

  メル、寝間着姿でベッドに。その横にキース。

キース「あれで応急処置はできたけれど……本格的な対策はまだこれからだしな」「と

 ころで、これからどうする?」

メル「仕事に戻るわ。潜水作業の他にできることもないし」

キース「いいけど……これからが大変だぞ?」「無理な命令を一度成功させると、会社っ

 てもんは、次から次へもっと無理な命令をしてくるから」

メル「うーん……それじゃ辞表出して、ライバル会社に行っちゃおうかな。あ、でも

 マクリールと別れるのは辛いかも……」

キース「なら、俺も一緒に行こう」

メル「え?」

キース「あの会社、未納入って理由で、運用費も修理費も出しやがらん」「お前の労災

 もけっこう値切られたんだろ? 基地の損害がどうのとかで」「だからいっそ、別の

 会社に納入しちまおうかと」

メル「じゃ、いっしょに転職しようか?」

キース「いいね♪」

  メル、ふと横を見て考えてから、

  向き直って。

メル「……あのさ、キース。私、あなたに言っとくことが」

キース「いや……それは俺から言わせてくれ」

  見詰め合う二人の間に静かな空気が流れ、次第にトクン、トクンという音が響い

  てくる。

  キースの手がメルのあごにかかり、しだいに、唇が近づき、触れる寸前。

  と、いきなり扉がバタン!

アーウィ「退院祝賀会の準備、できたって!」

  わたわたわた!

  二人、あわてて離れる。

アーウィ「どうしたの?」

キース「いや、なんでも」「起きられるか、メル?」

  キース、手を貸そうとする。メルは真っ赤になってアカンベ

メル「白ブタの手なんか借りなくても、起きられるわよ!」

キース「Get! 言ったな、黒ンぼ。お前なんか、海の泡になっちまえばよかった」

アーウィ「やれやれ……この二人は、いつまでも変わらないのね」


 ○海上

  上半身を波の上に出して浮いている、修理中のマクリール。


  ~ 終 ~

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[一言] 面白くも不思議なる話ぢゃな。 此は漫画の脚本かの?
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