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23と22の順番が入れ替わっていたので修正しました
「えぇぇ……」
関わりたくないと言いたくなったが、これだけ必死な緑汐を振り切れるほど私も人でなしではない。
渋々椅子に座り直した私をじっと見つめてくる清月は、女官というよりもどこか凛々しい雰囲気があり、気品に満ちている。
じっとこちらを見つめてくる瞳は、名前の通り月のように透き通っており、落ち着かない気分だ。
「改めまして、私は清月。今は瑠妃様の下で女官をしております」
「はぁ……」
「緑汐からあなたの占いについて話を聞きまして、どうしてもお力を借りたいのです」
「お力って……私はただの占い師ですよ?」
「そういう物にすらすがりたい状況だとご理解ください」
関わりたくないと本能が告げていた。なんだかとても面倒な話を持ち込まれた気がする。
「いや、流石に瑠妃様の女官相手に私が仕事をするわけには……」
やはり断ろう。そう思って腰を浮かせかけたとき、背後でガサリと物音がした。
誰かが戻ってきたのかと振り返ってみれば、そこに立っていたのは今一番ここにいて欲しくない人物で。
「ほう。なかなかに面白い光景だな」
「……駿仁様」
腰に手をあて、片眉を上げる駿仁の笑みに、私は頭痛の種が増えたと頭を抱えたくなった。
「どうしてきたんですか」
「お前が中々戻ってこないからだ」
ずかずかと近づいている駿仁に胡乱な視線を向けていると、清月は椅子立ち上がり流れるように頭を下げた。
「莫将軍にご挨拶します。沈家の娘、清月と申します」
「瑠妃に仕えてる女官であろう。どうしてお前がここにいる」
「どうしてもこの小怜殿の占いにすがりたいことがあるのです。これは私の勝手な一存。瑠妃様は存じ上げないことです。どうかお目こぼしをいただけないでしょうか」
痛々しいほどに腰を折る清月を見つめ、駿仁は深く溜息をつく。
「……よい、顔を上げよ。今の俺は仕事中では無く休憩中だ。咎める気は無い」
「では……」
「ただし、その話を俺にも聞かせてもらおう」
そういうと何故か駿仁はどかりと私の横に腰を下ろした。
腕を組んで、ココが自分の居場所だとばかりに主張してくる姿はなんだか腹立たしい。
「ちょっと、駿仁様」
睨み付けても駿仁は表情すら変えない。緑汐と清月の方がかなり青い顔をしているくらいだ。
「……わかりました」
「うそぉ」
覚悟を決めたらしい清月の声に、私の方が情けない声を上げることになった。
「だ、そうだ。俺のことは気にせず続けてくれ」
気にするわ。
思い切り突っ込みたいのをこらえながら、私は仕方なく清月に向かって姿勢を正す。
「それで、清月様は何を占いたいのですが」
「清月でいいわ。実は、子どもの名前を占って欲しいの」
「子ども?」
「ええ。瑠妃様の姪御が身籠もったらしく、瑠妃様に是非名前を付けて欲しいと頼んできたの。その名前を貴方に決めて欲しいのよ」
「名前って……」
名付けはその子どもの人生を決める大切なものだ。私の祖国では幼名を十七歳で改めるのが通例だが、華栖国では改名しないままのこともあるときく。一生使い続ける名前を、何の縁も亡い私がつけて言いわけがない。
「いや、そういうのはちょっと。私の占いは、あくまでも相性占いとか失せ物探しとかなので。運勢から名前を考えるなどは、範疇外です」
本物ならまだしも、私には占い師としての才能はない。名付けなどもってのほかだ。
(そりゃあ前世でも会社名を決めてほしいとかあったけど、それはその人が好きそうな単語を組みあせて作ったりとかしてただけだし)
名前も顔も知らない人の子に付ける名前を占うなんて、無理に決まっている。
「わかってるわ。でも、あえて私は貴方に頼みたいのよ」
「ええぇ」
いったいどういうことかと顔をしかめれば、今度は緑汐が私にずいっと顔を近づけてきた。
「この話には続きがあるの」
「は? 緑汐?」
「実は、瑠妃の姪が嫁いだ家というのが、麗妃様の親類らしくて」
「は?」
そんな奇妙な縁があるのか。普通、妃の実家同士と言えば、お互い牽制し合うような関係性が基本だ。姻族になるなどありえない。
「本当に遠い親戚なの。麗妃さまも連絡をいただくまで、そんな家とつながりがあるなんて知らなかったくらいなの」
この世界でも、有名になると親戚が増えるという流れは一緒らしい。
「その家の奥様……瑠妃の姪にとっては義母にあたる方が、縁を辿って麗妃様に名付けをして欲しいと手紙をくれて……」
どうやら、嫁と義母。お互いに相談せぬまま、お互いの親戚筋で最も位が高い存在に名付けを依頼してしまったのだという。
「そんなことある?」
「それがあるから困ってるのよ」
どうして緑汐と清月かそのことを知ったかと言えば、名付けにまつわる資料を皇城の書庫に探しに行ったときに鉢合わせたのだとか。
使える妃はちがえど、同期という気安さから仕事内容について愚痴ったところ、どうにもお互いの状況がかみ合う、というところで事態を把握したのだという。
子どもが無事に産まれるまでまだ日がある。きっとそれぞれ、名前が届くまでは黙っているつもりなのだろう。だが無事に産まれ、さて名付けを、となったところで瑠妃と麗妃がそれぞれ候補を出していたらどうなるか。考えるだけで胃が引きちぎれそうだ。
(どちらの妃にも子どもがおらず、今後の力関係は不透明。麗妃様はともかく、瑠妃様は自分が付けた名前が選ばれなければ絶対に機嫌を損ねる)
「どうすればいいか占って欲しいの」
「お願い。このままでは全員が不幸になるわ。」
「まって、あまりにも荷が重い」
本音がするりと口から出てしまう。実際、あまりにも話が大きすぎる。手に余るどころの話ではない。
助けて欲しいと駿仁へ視線を向ければ、事態の深刻さを分っているのかいないのか、駿仁が目を輝かせて私を見ている。
(こいつ)
睨み付けてやるが、いっさい堪える気配はない。
「小怜~~!」
懇願する緑汐の声と、じっと見つめてくる清月の視線に私はがっくりと肩を落したのだった。




