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「まさか小怜に占いなんて特技があったなんて驚きだわ」
「まあ自分から言うことじゃないかなって」
仕事を終えて戻ってきた自室では緑汐からあれこれと質問攻めにされた。
女官たちに披露した占いは、かなり好評だった。娯楽の少ない後宮だから余計にだろう。このまま噂が上手い具合に広がってくれれば、どちらかの妃から声がかかる日も近いはずだ。
(できれば麗妃に先に見つけて欲しいんだけどな)
瑠妃に取り入って麗妃を守るというのも考えたが、その場合は別の意味で破滅しそうなのが怖い。
「今度は私も占ってよね」
「もちろんいいわよ。何か知りたいことでもあるの?」
「知りたいコトって言うか……ほら、もうすぐ秋の宴会でしょ?」
「ああ、そうだったわね」
秋の宴会は、寒い冬の前に後宮妃たちを集めて行われる後宮の一大行事だ。
(麗妃に会えるかもしれないチャンスなのよね)
前世の世界でならまだしも、この世界では身分差は絶対だ。下々から上の人間に声をかけるなど許されない。その日のために少しでも知名度を上げて、麗妃から何かアクションをとってくれるのが最適なのだが。
「宴会の日に付ける簪に迷ってるの。服はもう制服を着るからどうしようもないけれど、宴の日は少しくらい着飾っても咎められないし、とおもって」
先ほど占った女官たちに比べらればなんとかわいい相談だろうか。
そわそわと落ち着かない仕草から、その理由がなんとなく察せられてしまう。
「どなたか気になる殿方でもいるの?」
「き、気になるって言うか……ほら、宴会には莫将軍が参加されるそうだから、みすぼらしい格好はできないなぁって」
心臓が大きく跳ねる。
「あ!勘違いしないでね!目にとまりたいとかじゃないのよ? ただ憧れの方だから、少しはよく見られたいっていうか」
「ふふ。わかったわかった。あとで占ってあげるわ」
動揺を押し隠しながら、私は緑汐に相づちを返した。
(莫将軍ってあの莫駿仁のことよね。まさかこんなに早く顔を見る機会に恵まれるなんて……)
私が命を助けなければいけないもう一人の人物、莫駿仁。
皇帝の乳兄弟にして、数年のうちに非業の死を遂げる若き将軍。彼が死んだことにより、皇帝は決定的に心を病む。
華栖伝の中ではわずか数コマの回想シーンでのみ姿が描かれていただけなので、正直その顔立ちの記憶は曖昧だ。
「莫将軍ってどんな方なの? 私、詳しく知らなくて」
「ああ、そうよね。ええと、莫将軍は二十五歳の若さにしてこの国で一番の武人。武術だけではなく、学問にも秀でておいてで、幼い頃から神童として名を馳せていらっしゃったわ」
うっとりと語る緑汐の表情はアイドルに憧れる少女そのものだ。莫将軍はずいぶんと人気者らしい。
「それに……」
そこで声を一端区切った緑汐は、室内だというのに周囲を見回してから顔を近づけてきた。
「莫将軍はほんとうに凛々しく美しい御仁なのよ。後宮中の女官が憧れているの」
「へへぇ」
それは華栖伝では描かれていなかった新事実だ。故人なので当然と言えば当然なのだが。
「表で言ってはだめよ。この後宮は陛下のものだからね」
緑汐が声をひそめている理由はどうやらそこにあるらしい。そもそも後宮とは、皇帝というたった一人の男のために作られた女の園だ。そこで他の男が人気なんてことになれば確かに大問題。私はなるほど、と大人しく頷きかえす。
「莫家は華栖の成り立ちから皇族に仕える名門で、将軍の御尊父も高名な武人だったそうよ」
「だった、ってことは故人なの?」
「ええ。まだ先帝の次代に、戦で命を落されたそうよ。御母堂様は陛下の乳母。それもあって、お二人はずっと一緒に育っているから大変仲が良いの」
(なるほど。それだけ仲のいい将軍が自分のせいで死んだとなれば心を病んで当然か)
色々と納得している間も、緑汐の将軍語りは止まらない。
「陛下に子がいないからと未婚を貫いていらっしゃるの。だから、麗妃様か瑠妃様が懐妊した暁には、国中の女たちが莫将軍に釣書を送りつけるはずよ」
どこの世界でもモテる男は大変だと私はおもわず肩をすくめる。
将軍とはまだ関わる必要はない。だが、人となりを見ておくことで得られる情報もあるだろう。
(とにかく、目下の目標は秋の宴会で麗妃と接触すること。そして莫将軍の顔をしっかり覚えることね)




