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テスト配信と準備

行動指針は決まったので、スキルのテストをすることにした。

本番は明日。しかしスキルの仕様を掴んでおかないと、命がいくつあっても足りない。だからこそ、リスクを減らした実験が必要だった。


スマホの配信アプリを立ち上げ、「非公開・テスト配信」を選択する。

視聴者はゼロでいい。まだ誰にも見られるわけにはいかない。名前は昔のハンドルネームのまま残っていた──今の俺を象徴するかのように。


「Revive、か」


マイクに向かって小さく呟き、カメラは顔と手元が映るように固定。画面の端に小さなウィンドウが表示された。


【視聴者数:0】

【コメント欄:──】


元々配信経験はゼロ、登録者もゼロだ。だが非公開で試すのには理由がある。


「まずは……自分がコメントした場合、発動するかどうか」


スマホ画面のチャット欄に指を滑らせ、【テスト:水】と入力。送信すると──


【視聴者数:1】

【コメント欄:Revive テスト:水】


視聴者数1はおそらく俺自身だ。非公開なのだから当然だろう。

「さて……【水】」


手をかざし、目の前に置いたコップへ意識を集中する。だが──何も起きない。


「……やっぱりか。自分のコメントは発動しない」


当然といえば当然かもしれない。だがこれでは予定が狂う。

もし自分のコメントで発動できるなら、非公開配信で誰にも気づかれずにスキルを回せた。

レベル上げも効率的にできて、【血の日曜日】すら食い止められるかと思ったのだが……。


「……となると、公開配信は必須か……いや、なんだこれ?」


設定画面に目を走らせると、「限定公開」の文字が目に入る。

説明を読む限り、フォローしているアカウントだけが視聴できる仕組みらしい。


「これ……使えるな」


会社のスマホがまだ手元にある。サブアカウントを作ってフォローさせれば──コメントを別端末から送れる。


即座に新しいアカウントを作成し、メイン配信アカウントをフォローした。

設定を【限定公開】に切り替え、サブアカで配信を開き、コメントを打ち込む。


ーーーーーーーーー

【視聴者数:2】

【コメント欄】 Revive:テスト:水

        test:水

ーーーーーーーーー


手をコップに向け、「水」と小さく呟く。

次の瞬間──掌から冷たい飛沫が勢いよく噴き出し、コップを満たした。


「……成功、だ!」

叫んだ声が部屋の壁に反響する。馬鹿みたいに笑ってしまう。

水一杯でこれほど興奮するなんて、俺は本当に底辺なんだろうな。

……いや、今は違う。ここから変わるんだ。

大した水量ではない。だが、これは間違いなく“当たり”だ。


魔法職なら攻撃魔法は使えるが、防御スキルは無い。

戦闘職なら近接攻撃は得意だが、魔法は使えない。

だが、この「言葉の力」はコメント次第でその垣根を飛び越えられる。


もし「身体強化」と書かれたら?

きっと身体能力を底上げできる。感覚でわかる。

つまり、コメント次第で俺は“最強の職業”に変わるのだ。


ただし問題もある。

スキル発動の瞬間、全身に倦怠感が走った。前の人生では一度も無かった感覚だ。


「……これは、MP消費の感覚だろう」


ステータス画面を確認すると、やはりMPが減っていた。

しかし同時に嬉しい誤算も見つける。


「他の二つ──金の力と人気の力は……パッシブスキルっぽいな」


だとすると、戦闘中に意識を割く必要がない。配信している限り自動で効果が発動するのだ。

これなら、ダンジョン配信中に余計な気を取られることもない。


投げ銭機能は一定の登録者が付くまで開放されない。だから【金の力】はまだ使えないが、今の俺には十分だ。


「テストはこれで十分かな。次は明日のダンジョン出現に備えるか」


服装は軽装でいいはず。東京に現れる最初のゲートはF級なのは知ってる。

周りにバレないよう顔を隠す何かさえあれば問題ない。問題は武器だ。


「この時代じゃダンジョン産の装備も銃もない……持ち込めるのはせいぜい刃物くらいか」


俺は机の上にコップを見つめながら、小さく笑った。


「……スキルをうまく使えれば問題ないか」




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