救済と永遠3
俺の発言に英明さんは真剣な様子で考えこみ、真白さんは狼狽える。
この魔石の存在は世界情勢を変えるのが分かったからだ。
「分かるだろう?真白、この事実がある限り、国はダンジョンを崩壊させたいとは考えない。なんせ無限に出てくる資源の宝庫だからな。危険性は別としてな」
「な、なら、どうして警察は彼に協力を求める様な動きをせずに捕まえる方向に?まだ知らないから?」
「恐らくそうだろう。むしろ出て直ぐにここまで情報を持っている人間が日本に現れたのが奇跡みたいなものだ。後、事情が変わったんだろうな。だから無理な理屈を並べてでも確保したかったんだろう。」
無理な理屈と言うのは俺に対する罪状だろう。
でも確保したい理由ってなんだ?
「今の説明で確信したよ。自衛隊は既に敗北してる。」
自信を持って行った英明さんの言葉にゾクッと背筋が凍る。
俺と同じように恐怖した様子の真白さんも腕を組んで自分を守る様にして震えていた。
「君は配信で´デカい図体をしたモンスター´を倒していただろう?それと、近くに小さいモンスターの死体も映っていたが、国の目的はそれだ」
そう言って魔石を指さす英明さんを見て納得した。
自衛隊でも、通常のゴブリンなら倒せる。
だから、気付いた。
ゴブリンの中にある魔石に。
魔石の解析は出来ていないだろうけど、もしかしたら重要な何かである可能性は考慮するのが普通だ。
それで、ゴブリン狩りを行った自衛隊は遭遇したんだ。
復活したゴブリン将軍に
「その魔石とやらが、エネルギーの代替えになる事実はまだ国も気付いていないかもしれないが、何か重要な資源になる可能性がある事には気付いたんだろう。そこに、君の配信だ」
そう言って俺に目線を向ける英明さんはかなり真剣な様子で俺を見る。
「自衛隊でも倒せたモンスターだけならそれでも良かったが、倒せないモンスターの魔石を持っていて、倒す実力もある。そんな人間を放置して、よその国に引き抜きでもされれば、今の国の財政状況を考えても、不利益になるのは確実だ」
「ちょっとまってよ!お父さん!今の言い方だと、彼を捕まえて魔石を奪って、尚且つ無理やりダンジョンのモンスターを倒させようとしてるじゃない」
まったく胸糞悪い話ではあるがその通りだ。
英明さんも真白の方を見て「そう言ってるし、今起きているのはそういう事だ」と言って俺を見た
「君が配信でコメントの返答時間を設けたのは正解だったな。確か君が言っただろう?真白の能力は良く分からないけど´´回復系´´と。結果戦闘能力が無いとみなされて一旦は放置されたんだ」
危ない橋を渡っている自覚はあったが、真白さんを危険に回した場合もあった事にホッとする。
「ふむ。そうなると、だ。今後の事を考えると取れる選択は限られるが、幸い君と真白には大衆を味方に付ける伝手がある。」
じっくりと考えこんが英明は人の悪い笑みを浮かべる。
「こうも国に良いようにされるのは良い気分じゃない。そうだろう悠馬君」
そう言って俺を見つめる英明さんに俺は肯定の意味を込めて大きく頷く。
「幸いな事に私はこう見えて、大企業の会長でね。横の繋がりも大きい。所で経営者として業績を伸ばす手っ取り早い方法は何か知ってるかい?」
そう言って、英明は扉の前に居る創玄を一瞥すると、全てを理解したかの様に一礼をして会長室から出ていく。
「あの、手っ取り早い方法ってなんですか?」
さわやかな笑みを浮かべ立ち上がった英明は直ぐに意地わるそうな笑みに変わる。
「簡単だよ。答えはイカサマだ。君も覚えておくと良い」
そう言って英明もスマホで何処かに電話を掛けながら会長室を出ていく。
英明が出て直ぐ、ドッと疲れが出てソファに深く腰を掛ける。
「ははっ!お疲れ様。私も少し疲れちゃったけど今後の事を考えると落ち着けないや」
そう言って俺を見ながら笑う真白さんを見て、先ほどよりもかなり落ち着いた様子の彼女に少し疑問が残る。
さっきまで、慌てたり狼狽えていたのに何で落ち着いてるんだ?
「あ、私が落ち着いてる理由が不思議?まぁ、そうだよね。でも私は知ってるから。」
「知ってるって?」
「お父さんが動くのって珍しいの。特にここ最近は兄に任せっきりだったし。でも、お父さんはこの会社を大企業まで押し上げて魔王なんて呼ばれている人だから。きっともう大丈夫」
「それに、イカサマって言ってたでしょ?私にも分かる。どんなイカサマをするのか。私は未来は見えないけど予言してあげる!」
そう言って彼女もスマホを取り出して立ち上がる。
「悠馬君は後2日以内に自由に出歩ける様になるよ」




