救済と永遠
久遠真白と悠馬は車で移動して20分程度走ると目的地についた様で、東京新宿近くの一等地にある20階以上ある大きなビルの地下に入っていった。
移動中、真白は他愛もない話をして、悠馬は少しだけ打ち解けて話す事が出来たのだが、運転してる創玄は一言も話さず真面目な様子で運転していた。
途中、検問は無かったが、やはり俺を警察は探しているようで、パトカーは普段より多く走っていた。
ビルの中に入って駐車場に車が止まると、三人とも降りて地下駐車場からエレベーターへと向かっていき、エレベーターに入ると創玄は最上階のボタンを押して上がっていく。
「ここが何処だか分かりました?」
「いや、まったく知りませんけど」
上の階へどんどん上がっていくエレベーターの中で話すと信じられないと言った表情で俺を見てくる。
「流石に、知らなすぎじゃないですか?ここは栄華グループの本社ですよ?」
栄華グループって言えば....あれか!
驚きの表情を浮かべた俺に満足そうに頷く彼女だったが、自分は別の意味で驚いていた。
栄華グループと言えば、前回の人生でダンジョンが現れる前は世界的に見ても一流企業だった。
日本でもトップ3に入る程の大企業だったが、ダンジョンが現れ世界情勢が変わっていき、次第にダンジョン資源に適応した新興企業に押され遂には経営破綻した。
詳しい内容は覚えていないが、俺が死んだ時には既に栄華グループは跡形も無く消し飛んでいた記憶がある。
「実は私、栄華グループの会長の娘なんです。ホントはお父さんの力にはあんまり頼りたく無いんですけど....説得してみました!」
「いや、説得って。それに初耳です久遠真白さんがまさか栄華グループの会長だなんて」
そう言って俺が彼女に対して返答すると不思議そうに俺を見て「けっこう有名なお話ですけど」と言ってチラッと創玄さんに目配せする。
「さっきも思ったんですけど。悠馬さんって」
ポーンと彼女の話を遮る様に機械的な音が流れてエレベーターの扉が開く。
「到着しました。真白様、悠馬様どうぞこちらへ」
そう言ってエレベーターから一足先に出た創玄は二人を案内するように先に歩き出す。
それを見た真白は話を中断して悠馬と並んで歩き出す。
さっきは何を言おうとしたんだろうか。
そもそも俺は久遠真白の事はあんまり知らない。
調べたこともあんまり無いのだから当然なのだが、そんなに俺の世間一般的な知識は不足してるのだろうか?
コツコツと革靴の音を響かせながら歩く創玄の後ろを歩きながらぼんやりと考えていると、重厚な扉の前に移動した。
扉の脇には会長室と書かれたプレートが付いていて、創玄さんがノックをすると、中から「どうぞ」と低い声が聞こえる。
静かに扉を開けて中に入る創玄に合わせて「失礼します」と言って悠馬が入り続いて「突然ごめんね」と言って真白が続けて中に入った。
部屋の中には壮年の威厳を感じさせる佇まいをした男性が豪華な机の前に立っており、ジッと悠馬を観察して、その後真白へと視線を向け笑顔を浮かべた。
「いやぁ構わない。最近全然連絡も無かったからな。久しぶりに会えて嬉しいよ真白」
「ごめんね、最近仕事が忙しかったし。それよりも元気そうで良かったよ。それで電話でも話したけど紹介するね」
そう言って俺をチラッと見た彼女が会長に紹介をしようとすると、手を前に出して遮る様に首を会長が振る。
「まった。その続きは彼から聞こう。すまない挨拶が遅れたね、私は栄華グループの会長をしている久遠英明です。貴方の事は色々聞いているし、知っているが改めて聞かせて頂きたい」
ハッキリとした声でしっかりと俺を見ながら話す英明さんを見て、大企業の会長と言うだけあると感じる。
真面目な表情で小さくお辞儀をして、しっかりと相手を見つめる。
「初めまして、佐藤悠馬と言います。この度は真白さんに対してご迷惑をお掛けしてすみません。」
「全くだ....と言いたいが、ふむ。やっぱりこの目で見ないと物事は分からんな。息子達にも一度現場を見に行けと言うべきか」
ジッと観察しながら独り言を話しはじめ返事に困っていると英明さんは俺を見て笑顔を向ける。
「いや、すまない。君の表情、雰囲気を見て察しが付いた。家の娘が死ぬのを回避させる為の行動だろう?感謝する事はあっても避難する事はない。それにしても、覚醒者か。飛んでもない能力だな未来が見えるとはね。」
厳密に言えば未来視を能力で行ったのでは無いのだが、黙っておく。
とは言え、好意的な感じを受け取って嫌な気分にはならない。
何処か懐かしさを感じさせる様な雰囲気に今までの緊張が解れてくる。
自己紹介が終わったタイミングで丁度いつの間にか創玄さんが紅茶とコーヒーを持って入ってきた。
会長机の前にあるテーブルに並べると、英明さんと真白さんが向かい合わせで座り、真白さんがソファを軽く叩きながら俺に座る様に促す。
「失礼します」と言って俺が座ると真白さんはコーヒーを英明さんは紅茶を一口飲み自分を見つめる。
「さて、自己紹介も済んだ。君の謝罪も受け取った。だから今度は商談をしようじゃないか」
さわやかな笑みを浮かべた英明は独特な雰囲気を出しながら悠馬を見つめた。




