邂逅4
どうしてこうなったんだろう。
そう感じてしまう程奇妙な状況に自分でも混乱してしまう。
ベンチに隣同士で腰掛けて隣を見ると、久遠真白がジッと自分の事を見ていた。
「ごめんなさい。ホントはもう少し安全な場所でお話したいんですけど、ただ少しの時間だったらここでも大丈夫だと思うので」
「いや、まぁ大丈夫ですけど。配信は付けたままにさせてください。」
いざという時の為に配信は付けたままで置く。
彼女から感じる雰囲気は俺を捕まえる為に来た様には感じられなかったが、それでも保険はあった方がいい。
常に周りを気にしながら話の続きを促すと彼女はポツリと呟き始めた。
「貴方からのメッセージを見て、そして先ほどまでの配信を見させて頂いて核心しました」
「貴方の言っている事が真実だと。その上で貴方にお願いがあります。」
下を向いて少し震えた様子の彼女は小さく喉を鳴らすと、決心した様子で自分をまっすぐ見つめる。
「ダンジョンから出てくるゴブリンを私と一緒に食い止めてくれませんか?」
決意の籠った眼差しだが、自分は関わりたくないのが本音だ。
あの警察の発表を聞いてもまだ助けたいとは思えない。
「ごめんなさい。食い止めるのはちょっと、あの発表の後にその考えは出来ません。それに、自分はそもそも、食い止めたいと最初は思いましたが、明確に人を助けたいとか、世の為にとか考えた事はありません。打算があったんです」
正直に話す。
実際、未来を知っている自分として事件を止めて今後の活動を有利にしたい打算があった。
「少しだけ自分はズルをしています。自分は強くならないといけないんです。その為にダンジョンに誰よりも早く潜る必要があった」
誰よりも早く覚醒している自分だから、誰よりも早くレベルを上げて強くなる必要があったんだ。
もう誰にも裏切られる事も搾取される事も無い人生を歩むために。
「では、貴方は一体なんの為に強くなりたいんですか?」
「死なない為だ。精神的にも、肉体的にも」
真白の方を見ずに悠馬はまっすぐ前を遠くを見る。
その様子を見た真白は訝し気な様子だった。
「貴方は...いえ、今はおいておきます。隠したい事情も、助けたいと思えない世間からの事情も理解しています。では、私を助けようとしたのは打算があったんですか?」
「えぇ。理由は今は配信が付いているのでお話できませんが久遠さんを助ける事に利益があると思ったのは事実です」
自分でも嫌な奴だと自覚しているが、こう言えば彼女はここから離れてくれるだろうし、もし仮に俺がこの後捕まったとしても彼女は共犯では無いと配信を見ている人は理解する。
そう思ったのだが、彼女は自分の意見を聞くと、くすっと笑って笑顔で俺を見てくる。
「では、打算があれば良いんですよね?」
「え?何がですか?」
「貴方にとって利益になるのであれば、貴方はダンジョンブレイクを止める為に手を貸してくれる。そういう事ですよね?」
何を言ってるんだ?
そう思って提案を聞く前に拒否しようとしたが、拒否させない様な雰囲気に思わず狼狽えてしまう。
二コリと笑いながら、俺の手をギュッと握ると彼女が立ち上がった。
「所で、気付いてましたか?スマホ、充電切れて配信とっくに止まってる事に。このまま此処に居たら逃げられないので、着いてきてくれませんか?安全な場所で話しましょう?貴方にとっての利益について」
時間は立っていたとは思っていたが、配信が切れているとは全く思っていなかった。
試しに[透明化]と言ってスキルを発動してみるが、全く発動しない。
逃げられない。
と言うより、逃げられない様に手を握ったのか。
振り払おうとしたが、女性を傷つけたく無いので力任せに振り払う事は出来ない。
それに、もし仮に彼女が警察に突き出すつもりなら、もっと前に警察が来ていても可笑しくない。
いや違う。
心の何処かで俺は彼女を信じたいと思っているのかもしれない。
「早く行きましょう?貴方に会ってもらいたい人がいるんです」
それよりももっと別の
「はぁ、分かりました。ただ、もし行った先が警察署とかだったら、暴れますからね?」
重たい腰を上げて彼女に苦笑いをすると、ニコニコと笑いながら
「大丈夫ですよ!それに、警察なんて行ったら自分も捕まっちゃうかもしれませんし」
そう言って歩き出す。
逃げる気なんて無いのだが、彼女は手を放す気は無い様で、公園の出口まで一緒に隣同士歩いていく。
公園の出口には黒塗りの高級車が一台止まっていた。
景観に似つかわしくないその車の前にはスーツを着た老年の男性が居て、俺たちが近づくと後部座席の扉を開けて一礼した。
「お待ちしておりました。真白様、それから佐藤悠馬様どうぞこちらにお乗りください。」
「お待たせしてごめんなさい創玄さん。彼も同意してもらいましたので、本社までお願いします」
慣れた様子で挨拶している所を見ると、知り合いなのだろう。
というか、本社って。
「あの、本社ってなんですか?」
恐る恐る確認すると、彼女は「着いてからのお楽しみです」と言って俺の背中を押して車に押し込んだ。
一体、何処に行くつもりなのだろうか。




