邂逅2
外に出ると辺りは真っ暗だった。
当然と言えば当然だが、これからどうしようかと移動しながらボーっと考える。
自分のミスとは言え、警察からの指名手配は結局解除されないどころか、全ての元凶とも言われている。
「一先ず東京から離れるか」
昨日、今日と会社が休みだったので何とかなっていたが、明日以降会社にも行けなくなる。
当然、就職も今の状態では出来ないし
そうなると、ダンジョンが解放されて普通に入れる様になるまでは今の貯蓄で何とかするしかない。
一応ダンジョンで手に入れた魔石やアイテムはあるが、売りに出そう物なら直ぐに警察が来るのは目に見えている。
「そもそも、ダンジョン解放された後も自分の指名手配が解除されないのであれば、毎回透明化して入らないと行けないし」
それはMP消費的にも非効率だなぁと思ってしまう。
それに配信の問題もある。
配信するにしても、今の状況で配信してどうなるんだ?
正直、もうダンジョンからゴブリンが溢れて来て人を襲う[血の日曜日]事件を止める気はない。
たとえ、知らない人が沢山死のうが
今後、覚醒者が奴隷の様に扱われる未来がこようが
どうでもいい。
自分が快適に暮らせればそれで。
それに、そもそも何で俺は血の日曜日を止めたいと思ったんだろうか。
霞んでは消えていく遠い日の記憶が何かを思い出させようとしてくるが
思い出す前に事態は変わる。
それも、最悪な形で。
慣れ親しんだ町を抜けて駅に向かっている最中
通りを出た直後に見えたのは、赤色灯を回すパトカー数台とそこから降りてくる複数人の警察だった。
違う人を探していると一瞬短絡的に考えたがどう考えても違う。
明らかに自分を見てこちらに近づいて来る警察。
無意識だった。
今までの人生で何度もダンジョンに潜り、死に掛け、そして惨めな人生を歩んできたからか
一瞬の緊張の後、直ぐにスマホを起動して配信を付けていた。
即座にコメントで[透明化]を打ち込む。
視聴者の数は2000人を超えていた。
透明化を発動して直ぐに自分の姿を見失った警察を後目に駆け出して駅と反対方向へスーツケースを担いで駆け出す。
こんな事ならリュックで来れば良かったと思うが仕方ない。
ステータスの上がっている今の自分の走る速度は一流アスリートよりも早く、直ぐに警察の姿が遠く離れる。
だが、パトカーはまっすぐにこちらへと走りだした。
赤色灯を回しながら自分へと一直線に向かうパトカーに舌打ちしつつ全力で逃げる。
俺の姿が見えなくなった時点で俺の配信を確認したのだろう。
カメラは起動している。
いくら透明になっても、画面は街並みが映っている以上どこにいるかは想定できる。
透明化が消える。
ダメ元だった。
コメントは一度しか打ってない。
あれから、何度か試して知っている。
透明化と一回しか打っていない以上は1回しか効果を発動出来ない。
再発動するにはコメントをもう一度打つか、´誰か´がコメントを打っていないと行けない。
「【透明化】」
透明化が切れて全力疾走している俺を見ていた人が驚いた様子で回りを見回していた。
過ぎていく通行人が「消えた!?」と叫んでいるのが聞こえる。
胸が少し熱くなる。
誰かが、俺を逃がす為にコメントを打った。
いや、もしかしたら違うかもしれないが、そう願いたい。
カメラを走りながら映らない様に自分の胸側に向ける。
向こうが配信に気付いている以上は少なくとも映像ではこれで追えなくなるはず。
問題は音声だが、これは分からない以上放置するしかない。
透明化が切れる。
[透明化]を発動する
もしかしたらと思い[身体強化]と口にする。
[身体強化]が発動する。
幻想の様にコメントが´聞こえる´
逃げろと
捕まるなと
あんな怪しい事を言っている自覚がある俺に対して
路地裏に入り、どんどん入り組んだ通りを走り抜ける。
パトカーの音が遠ざかる。
息が切れてくる。
ここまで逃げれば一先ずは安心だろうと考えて「ありがとう」と自然と口にした。
スマホのカメラが外の様子を写さない様に再度位置を調整した。
俺はもう助ける気が無いのに。
「コメントありがとうございます。会見の件見た人いると思います。」
自然と口が開く
「俺はこの通り動けなくなりました。だからこれはコメントしてくれた皆さんへの感謝を込めて忠告します。今すぐ東京を離れてください。死にたくないのならこれだけは信じてください」
ゆっくりと歩きだす。
路地を抜ける瞬間に[透明化]と言う。
再度スキルが発動した。
大通りに出る。
既にパトカーは居ない。
音も聞こえないので完全に見失っているのだろう。
スマホを出せないのでコメントは見れないが、しばらくこのままで行こう。
歩き出しながら無意識に口ずさんだ歌は一体なんて曲だったか。




