仮定と愚かな選択
久遠真白は、自身の体が何か別の物になってしまったのではと思ってしまう。
それくらい衝撃を受けた。
最初の衝撃は渦を発見した時
2回目の衝撃はリバイブの配信に映っていたモンスターとの戦闘
3回目は先ほどの配信の内容だった。
仕事が終わって帰宅した後、明日のニュース番組に向けて準備をしながら何か目新しい情報は無いかチェックしていたのだ。
昨日の事件の後、現場に居た事で局内では現地の様子を解説する為に何時間も拘束されていた。
勿論、それを嫌だとは全く思っておらず、むしろチャンスと捉えて積極的にテレビで発言していたのだ。
とは言え、明日以降の事を考えると何か別の情報が無ければこのチャンスは生かせない。
「あ!リバイブさん配信始めた!!」
バッと食い入るようにスマホの通知を確認すると、直ぐに配信の視聴ボタンを押して、仕事机に向かうとPCを立ち上げる。
どんな情報も聞き漏らさない。
そう思って配信を視聴し始めたのが、数十分前の事。
最初の話からかなり衝撃的な話ではあった。
ダンジョンの存在
放置する事の危険性
だがそれ以上の衝撃は、覚醒者の存在と覚醒する人の存在。
「私だよね」
ぽつりと呟いた。
自分でも驚くほど声は震えていた。
怖い。
もし、私が彼と同じ覚醒者であるのであれば、
彼の言っている事が全て真実であれば
自分はあのモンスターのいるダンジョンの中に入らないといけないの?
多分、局の人間は皆、積極的にダンジョンへの突入を推奨する。
数字が取れるから。
でも、私は出来ない。
あんな怖いモンスターと戦うなんて絶対に出来ない。
あの日居た登山の恰好をしていた男性。
多分あの人だ。
なんで私が覚醒者になれると言ったんだろう。
「体よくヘイトを向けられるから?スケープゴートってやつかなぁ」
だとしたら、良い手ではあるかもしれない。
「これで、私が本当に覚醒した場合、彼の発言は真実だと世間にしらせる事ができる」
多分これが本命なんだろう。
彼は今、指名手配犯だ。
重要参考人としてだけど、多分国は彼の動画が真実だと分かったんだ。
そして、彼は指名手配にされている現状が鬱陶しいんだろう。
モンスターを躊躇なく殺す所を見ると間違いなく危険人物だし、逮捕されても[やっぱりね]と思ってしまう。
だからといって、彼は猟奇殺人を行う人では無い。
なぜなら、そんな力に目覚めても、無視して戦わない選択をすればいい。
どちらにせよ、ダンジョンからモンスターが溢れると分かっているのであれば、その後に戦えば良いのだから。
「だとしたら、彼の目的ってなに?」
PCを立ち上げて、彼についての考察をしているサイトを隈なくチェックしていく。
そして、一つのあり得ない結論が自分の中で組みあがっていく。
「彼の能力はコメントを具現化、、これって具現化じゃなくて事象の干渉じゃないかしら、鑑定ってなんんで?,,,じゃあもし仮に未来予知って打ったら?」
もし未来予知と打って試したらどうなるんだろう。
もし自分が彼の立場ならそうする。
そして見てしまったら?
「人が大量に死ぬ未来が見え、た?え、で、でもそれならなんで私と言う存在を仄めかしたの?」
人が死ぬ未来が見えたのなら「未来予知と打って未来を見た」と言えばいい。
「そもそも未来が見えたわけじゃない,,,それとも」
「私が力を使った未来を見た?いや、でも鑑定って言ってたし,,,,これ、やっぱり彼の発言おかしい」
仮定と推論
もし仮に未来予知なんていう能力は行使出来なかったけど鑑定は使えたとしたら。
その場合は単純に彼は私を世間の先頭に立たせて自分は世間からの風当たりを排除する為に配信をした。
もし仮に未来予知をして私が力を使ったのを見たのであれば
彼は、何か不都合が起きると考えて私の存在を世間の先頭に立たせようとした。
勿論指名手配の解除は両方必須だけど。
どちらも、私をスケープゴートにするための戦略である事には変わらない。
じゃあこの仮定に意味は無いか。
「いや、違う。そうよ、鑑定だけだと理由として適切じゃない。ダンジョンのゲートからモンスターが出る事も、自衛隊の使う銃が効かない事も確定事項として話してた。あり得ないでしょ」
いきなり、覚醒してステータス画面が見えても、ダンジョンについての注意事項を書かれていたとしても
普通は信じない。
「なら、未来を見たって事になる。そしてそれを言えない理由がある。それは、私なの?」
自信がある。
もし覚醒していて
もし自分の力が回復系だったとして
人を治す事が出来る状況で
報道人として
怖くても、治す力があるのであれば、戦闘はしなくて良いのであれば。
私は現場で治療する。
喉が渇く。
もし、最前線で無かったとしても、戦闘能力のない私が現場にいて
もし自衛隊の防衛が機能しなくなって
私の目の前までモンスターが来たのなら
「私は未来で現場にいた?そしてそれを明確に伝えない理由って,,,,私が死んだから?」
私を助けるため?




