ある有り触れた死と予想外
朝の洞窟は、まるで血に染まった古い新聞紙の様に薄暗く、冷たかった。
俺はただ、荷物を抱えながら黙って跪いていた。ダンジョンが吐き出す匂い──湿った土と焦げた鉄と、人間の死体の匂いが鼻を蹂躙する。
……慣れた匂いだ。俺の人生はずっとこうだ。
俺の人生は、安い日雇い仕事と、冒険者ギルドでの雑用で出来ていた。
ダンジョンに挑む仲間たちの荷物持ち。血で汚れた装備の掃除。
手柄はすべて持っていかれ、報酬は小銭程度。
それでも、生きるためには仕方がなかった。
「おい、底辺。さっさと片付けろよ」
誰も俺の名前を呼ばない。呼ばれるのは「底辺」か「雑用」。
……ああ、今日も安定の二つ名だ。名前なんて誰も覚えちゃいない。
慣れたさ。慣れたつもりだった。
──あの日、全部終わった。
世界にダンジョンが現れてから世界情勢は一気に変わった。
ダンジョンで取れる鉱物やアイテムは、科学では説明できない超常の産物だ。
ケガや病気を一瞬で治す薬、石油の代わりになるエネルギー鉱石、そして兵器として使われる危険な代物。
……もちろん、底辺の俺には一生縁のないものだが。
ダンジョンが出来た当初は国が危険と判断して厳重に封鎖されていたが、意味が無かった。
と言うより、悪手だった。
ダンジョンは長時間放置して置くと中に存在する怪物、今は魔物と呼ばれている存在がゲートを突破して襲ってくる。
最近の研究で、ダンジョン内に存在する瘴気が一定ラインを超えると中のダンジョンを維持する為に外に瘴気を吸い込んだ魔物を放出する事が分かったが、当時はゲートに対する研究は全くされて居なかった。
沢山の人が死んだ。
ゲートを封鎖した国とそうでない国で、明暗は分かれる。
日本は封鎖した国だった。
東京に開いたゲートから魔物があふれ、【血の日曜日】と呼ばれる惨劇で一万人が死んだ。
救いもあった。
ゲートから溢れた魔物と対峙出来る存在が、民間人の中に出てきたからだ。
理由は今も究明出来ていないが、突然超能力に目覚める存在が出てきた。
超能力に目覚めると、今までゲームの中だけの物であったステータスウィンドウが現れ
レベル、ステータス、スキル、職業に目覚める。
目覚めた人は覚醒者と呼ばれて、今では国と企業が管理するギルドに所属してダンジョンに入り
魔物の討伐とダンジョンの破壊を行っている。
スキルや職業にはランクがあり、高ければ英雄、低ければ落ちこぼれ扱い。
俺は、後者だった。
ランクが高ければ高いほどステータスの成長補正やスキル効果が高く優秀とされている。
逆に言えばランクが低ければ低いほど能力補正が低く、落ちこぼれだと証明されるのだ。
そして覚醒者は、どんなにランクが低くてもギルドに所属が義務付けられていてダンジョンに入るのは必須なのだ。
佐藤悠馬は覚醒者である。
但し、最底辺
佐藤悠馬
レベル 10
職業 なし
スキル 荷物持ち rankG
逃げ足上手 rankF
HP 200
ATK 50
AGI 100
DEF 10
MP 0/0
LUK 100
これが10年かけて上げたレベル。
そして俺が1度目の人生での終着地点。
なんてことの無い、F級ダンジョンの筈だった。
能力値の無い自分は、F級ダンジョンの捜索パーティーに臨時で入った。
勿論、荷物持ちとして。
攻略は順調だった。
洞窟型ダンジョンには珍しく中は明るく、出てくるモンスターもゴブリン程度の弱い魔物だった。
当然、自分では倒せないのだが、5人パーティーからなる今回のメンバーは素行を除けば優秀で、安定して狩りを続けたが、問題が起きた。
パーティーの一人が見つけた小部屋に宝箱を見つけたのだ。
普段であれば、トラップを気にして注意しながら開けるが、このパーティーはセオリーを無視して開けてしまったのだ。
案の定トラップ部屋で現れたモンスターはF級ダンジョンでは絶対に出てこない
ワーウルフ
討伐するにはこのパーティーでは不可能であり、倒すにはC級以上の覚醒者が必要なモンスター
ワーウルフの咆哮が洞窟を揺らした瞬間、背中を強く押された。
「おい、底辺! 囮になれ!」
気付けば俺は魔物の目の前に突き飛ばされていた。
素行の悪いこのパーティーのメンバーに臨時で入ったとはいえ、注意していた筈だった。
ワーウルフの瞳が俺を射抜く。
次の瞬間、鋭い爪が胸を貫いた。
痛みよりも先に感じたのは「終わり」だった。
誰も助けない。誰も呼んでくれない。
「……結局、俺は底辺のままか」
世界が赤に溶け、音が遠のいていく。
ピー
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