第1章-8 ポータブル電源&電気毛布導入、真冬の快適車中泊チャレンジ
寒さは最大の敵
あの初スキー遠征から数日後。
沙良はパソコンの前で唸っていた。
「……やっぱポータブル電源だな」
氷点下の車中泊で寝袋だけでは心許ないことは、すでに身をもって体験済みだ。
次こそは、ぬくぬくの夜を過ごす。
そして、ぬくぬくと朝まで眠りたい。
だが、ネット検索を繰り返すうちに、スペックの数字やら充放電サイクルやらは理解できるが――。
「……これ、実物どんだけデカいんだ?」
サイトの写真では弁当箱サイズに見えても、実際は米びつ級だったりするのが世の常。
バッテリーは重さも重要だ。エブリイの積載量を考えれば、無駄に重いのは避けたい。
いざビッグでカメラな電気屋へ
そこで沙良は決意した。
「実物を見に行くしかない」
とはいえ、一人で行っても財布の紐が堅くなる予感がした。いや、緩くても中身が……。
そして閃く――そうだ、パッパを連れて行こう。
実家に帰省したその週末、沙良はさりげなく切り出した。
「ねぇパッパ、アパートで停電になったらどうする?」
「ん? そりゃ……懐中電灯くらいはあるだろ?」
「いやいや、冷蔵庫止まったら食材腐るよ? 冬なのに暖房も止まるし、スマホも充電できなくなるし……」
“女の子の一人暮らし”というワードを交えつつ、危機感をじわじわと煽る。
パッパの眉間にしわが寄った瞬間、沙良はすかさず追撃。
「ポータブル電源があれば安心なんだけどなぁ……」
「……ほう」
その数分後、父娘は車に乗ってビッグでカメラな電気屋へ向かっていた。
実物の存在感
店に入ると、防災グッズコーナーの一角に鎮座する各社ポータブル電源。
その姿はまるで小型金庫、あるいはミニ冷蔵庫。
「おぉ……」と、思わず声を漏らすパッパ。
沙良もひとつひとつ手をかけて持ち上げ、重さを確認する。
「これだと車中泊にも十分だし、非常時にも使えるね」
「こっちは出力が大きいから、電気毛布とスマホ充電を同時にできるな」
スペック表を見ながら父娘で真剣に議論する様は、まるで理科室の実験前打ち合わせ。
だが沙良の頭の中では、すでに“どうやってパッパの財布を開かせるか”の方程式が完成していた。
沙良、パッパを落とす
「パッパ、これだったらアパートで停電しても怖くないよね?」
「まあ、そうだな……」
「キャンプだって行けるし、夏帆ちゃんとスキー場で夜景見ながら鍋とかできるし」
「……鍋?鍋ならカセットコンロのが良いだろ」
「車中でそんなん使ったら何たら中毒になっちゃうよ」
完全に警戒心が緩んだ瞬間を逃さず、沙良は畳みかける。
「しかも今ならポイント10%還元だって! 非常時に役立つものを今のうちに備えておけば、パッパも安心でしょ?」
――十数分後、レジにはパッパのクレジットカードが差し込まれていた。
夏帆の感想が聞こえる
帰宅してポータブル電源をエブリイに積み込む沙良。
頭の中では、もし夏帆がここにいたら……という声が再生される。
『沙良こわい子……』
自覚はある。だが安全と快適のためだ、仕方ない。
しかも今回は家計(パッパ財布)への被害だ。自分の貯金は無事である。
電気毛布は実家から
電気毛布も買おうとしたが、パッパが「押入れに昔のがあるぞ」と言うので、実家の古参毛布を回収することに。
黄ばんだタグには昭和後期の年号が書かれている、PSEマークなど当然ついていない。が、動作確認は問題なし。
これで次回は氷点下でもぬくぬく確定だ。
ついでに、カセットコンロも貰っていこう。いざというときのために……。
寒がり夏帆を強制招集
数日後。
沙良は電話で夏帆を呼び出した。
「えー、寒いの嫌いって言ったじゃん」
「だーいじょうぶ! ポータブル電源と電気毛布あるから」
「……そういう問題じゃ……」
「ほら、ゲレンデで夜景と鍋」 『ゲレンデは山奥だ、夜景など見えるわけがない』だが
「鍋……」
結局、“鍋”の二文字で夏帆は折れた。
再び雪山へ
当日、ルーフボックスにスキー道具を放り込みエブリイの荷室には車中泊セット、そして新導入のポータブル電源が鎮座している。鍋の材料のクーラーボックスも抜かりない。
助手席には厚着した夏帆が毛布に包まって座っていた。
「ほんとに電気毛布持ってきたんだ……」
「もちろん! 今日の目標は“ぬくぬく車中泊”だからね」
国道、県道と順調に進み、ゲレンデ近くの上り坂では先日導入したチェーンを試しに装着。
その安定感に夏帆も「おぉ!」と声を上げる。
真冬のぬくぬく車中泊
夜。
駐車場でポータブル電源に電気毛布を接続すると、数分で暖かくなった。
電気毛布にくるまった夏帆は
「うわ……これはやばい……」
「でしょ? 文明の利器って最高」
外では雪がしんしんと降り積もる。
ホットプレートのグリル鍋から湯気が立ち、二人はぬくぬくと笑いながら食べる。
沙良は心の中で、パッパに感謝した。
――そして次の遠征では、さらに快適装備を追加する計画を密かに立てていた。




