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第三章‐16 氷の研究所と、閉ざされた塔

「さて、次は研究所を見せよう」

ユルゲンはにこやかに言うと、二人を導きながら雪道を歩き始めた。

中央広場を背にして、氷の結晶でできた建物群の間を抜ける。太陽の光が結晶を反射し、地面に淡い白銀の輝きを散らす。


夏帆は小声で沙良に囁く。「ここ、本当に魔法使いの町って感じね」

沙良も頷きながら、「うん……足元滑らないように気をつけないと」と応じた。二人は、足を踏みしめるごとにきゅっきゅっと雪の音を立てながら、ユルゲンの後ろについていく。


やがて、塔のようにそびえる建物の前に到着した。

「ここが氷の研究所――アルト博士の研究室だ」

ユルゲンが紹介する。扉の前で、金属製の飾りが雪の光を受けて反射する。扉を開けると、冷たい空気に混じって、ほのかな魔力の匂いが漂った。


中に入ると、大小の氷壁模型や魔法陣、浮遊する氷結晶のサンプルが所狭しと並んでいる。中央には、白髪の老学者――アルトが立っていた。


先ほどの広場で簡単な挨拶を交わしていた沙良と夏帆に、アルトは柔らかく微笑む。

「さあ、研究所に入ったな。前回話した氷壁の異変について、ここで詳しく見ていこう」


「よろしくお願いします、博士」

沙良が軽く会釈すると、夏帆も続く。

「はい、よろしくお願いします」


ユルゲンが説明する。「博士、二人は隣町から来ました。魔導馬車“エブリイ”の運用も確認したいとのことです」


アルトは興味深そうに目を細める。「ほう……それは面白そうだ。では、まずは研究所内を案内しよう」


研究室内を歩きながら、アルトは壁の氷結晶標本や魔法陣の仕組みを丁寧に解説する。沙良と夏帆も質問を重ねる。「これはどういう仕組みで光るんですか?」「氷結晶の成長は魔力の流れに影響されるのですか?」

アルトはひとつひとつ答えながら、棚の奥にある小さな塔模型を指す。「ここ――閉ざされた塔は、この町の氷壁の異変の発生源だ。普通の観光塔ではない」


「閉ざされた塔?」夏帆が声を潜める。

「はい。塔の内部には強力な魔法結界が張られており、通常の住民は入れない。しかし、この結界は最近、外部の魔力に敏感に反応しているのです」

沙良が眉を寄せる。「外部の魔力?」

アルトは頷く。「君たちの銀色の馬車――エブリイの魔力だ。実は、エブリイの動力系統は周囲の魔力を感知し、出力や防御機能を自動調整するよう設計されている。それが塔の結界と微妙に共鳴している」


その瞬間、遠く塔の方からわずかな振動が伝わる。

「おや?」アルトは模型を置き、窓の外を指さす。「感じるか、サラ君、カホ君?あの塔が、君たちの魔力に反応している」


沙良は思わず息を呑む。塔の上部から青白い光が漏れ、氷壁が微かに震えているのが見える。夏帆も手を伸ばして空気を触れる。「わ、わかる……なんか、魔力の波動が、こっちに向かってる」


アルトは真剣な表情で言う。「この塔、外から見ても何も分からない。しかし内部では魔力の流れが変動し、周囲の環境にも影響を与えている。この現象を確認できるのは、君たちのような魔力を持つ存在だけだ」


夏帆は沙良を見て小さく笑う。「ね、やっぱり来てよかったでしょ?」

沙良も頷く。「うん……でも、ちょっと怖いね」


ユルゲンが説明を付け加える。「博士は、塔内部の調査は慎重に行うよう言っていた。まずは周辺の魔力の状態を把握するだけでも意味がある」


その瞬間、研究室の空気がわずかにざわめいた。

「……塔が魔力の影響を受けているようです」アルトが指さす先、窓の外にそびえる閉ざされた塔。青白い光が漏れ、微かに氷壁が揺れているのが見える。


その時二人のスマホが震える。

夏帆がスマートフォンの画面を確認しながら小さく息を漏らす。「沙良……見て。何か表示してる!」

沙良も画面を覗き込む。「なにこれ!もしかして、エブリイの魔力を感知して反応してるとか!」

エブリイのディスプレイオーディオに表示される光の点滅と振動のアイコンが青く点灯し、魔力を感知したサインを示している。

「なるほど……これなら、私たちはここにいながら、エブリイの状態を把握できるんだね」沙良。


アルトは眉を上げる。「ほう……やはり、あの魔導機械はただの移動手段ではない。周囲の魔力に反応し、自動で出力や防御機能を調整しているようだ。これなら、塔の異常も前もって察知できるだろう」


夏帆は手を握りながら笑う。「うん、ここからが本番ってわけね」

沙良も微笑む。「よし、エブリイ、頼むぞ」


外の雪道に目をやると、遠くに閉ざされた塔がそびえ、氷壁に反射した光がきらきらと揺れていた。

それはまるで、二人とエブリイを試すかのように、青白く光を放っている――。

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