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第三章‐9 エブリイ強化相談編

 雪に覆われた町の石畳を、二人と一台が進んでいく。


 冬山から転げ落ちてきた(異世界転移)スキー帰りの少女二人と、ありえないほど場違いな銀色の軽バン――エブリイ。

 その奇妙な取り合わせは、もうこの町ではそこそこ有名になっていた。


「ねぇ夏帆、やっぱり思い立ったが吉日だよ!」

「だからって、ほんとに突撃していいの? ギルドとかって、普通予約とか要るんじゃないの……?」


「だって、あのままだとさぁ……エブリイ、またお尻に穴あくよ?」

「いや、それはホーンラビットの角が特殊だったんじゃ……」

「違う違う! 今後だってどんな魔物が来るかわかんない。そしたら防御力アップさせとくのが理系的発想でしょ!」


「理系って言うよりマニアだろ(笑)……あんたのは突拍子なさすぎ!」


 二人の声が、氷の町に反響する。雪の結晶がキラキラと降り注ぎ、銀色のエブリイのボディに薄く積もってはすぐに溶けていった。


 やがて彼女たちがたどり着いたのは、町の中央にそびえる氷の城。

 そしてその中にある魔法ギルド――これが氷の魔導師たちの拠点であった。



 巨大な氷の門をくぐると、内部は荘厳な青白い光に包まれていた。

 壁も柱もすべて透き通った氷でできており、魔法陣の光が脈動している。

 まるで冷たい水晶の中に迷い込んだような感覚だった。


「やっぱ、すっご……! 理系でもこんなの思いつかない……!」

「うん、何度見てもこれは……もう魔法バカの仕業だわ」


 沙良と夏帆は、目を丸くして見上げる。


 受付の魔導師が事情を聞くと、すぐに奥へ案内された。

 どうやら「銀色の鉄の馬車を持つ娘たち」として、当然ギルド内でも噂になっているらしい。


 そして彼女たちの前に現れたのは――


「やあ、また君たちか」


 銀の刺繍を施したローブをまとい、白髪混じりの髪を後ろで束ねた初老の男。

 魔法ギルドの代表、アーベントである。


「アーベントさーん!」

「お久しぶりです!」


 二人が手を振ると、アーベントはわずかに苦笑し、杖を軽く突いた。


「さて……今日は何をしに来た? いや、言わずとも分かる。君たちの顔に“何かやらかす気”と書いてある」


「やらかすって(笑) 違いますよ! あのですね……」

「この子、言うから」夏帆が沙良を指さす。

「ちょっと! 夏帆だって同意してたじゃん!」


 そんなやり取りを見て、アーベントは杖の先でコツコツと床を叩いた。


「いい、話してみたまえ」



「実は……」


 二人はギルドの広間の真ん中にエブリイをどーんと停めた。

 青白い魔法光に照らされて、銀色の車体が不思議な神々しさを放つ。


「この子、エブリイっていうんですけど……前にホーンラビットにやられて、お尻に穴が空いちゃったんです」


「ふむ……?」


 アーベントが近づいて、じっと覗き込む。

 車体後部のバンパーに、まだ小さな裂け目の痕が残っていた。


「……確かに、これは魔物の角の突き跡だな」


「ね? だからこの子を強化したいんです! 防御魔法的なもので!」

「どんな魔物が来ても跳ね返すくらいに!」


 沙良は両手を広げて熱弁する。

 夏帆は横で「跳ね返すって、マリカーのスーパースターかっての……」と呟いた。


「マリカー?」とアーベントが首を傾げる。

「えっと、異世界の例えです!」


 アーベントは少し眉を上げたが、すぐに頷いた。


「なるほど。つまり“絶対防御”を望んでいるのだな」



 その言葉を皮切りに、氷の広間は一気に騒がしくなった。

 周囲にいた魔導師たちが、わらわらと寄ってきたのだ。


「ふむ、金属の外殻を対象とするなら、耐氷結結界か?」

「いやいや、万能結界を重ねがけして……」

「魔力を通すのか? 動力は何で動いているのだ?」


 わあわあと白熱する魔法バカたち。

 理系的な討論に混ざりたい二人だが、専門用語が飛び交いすぎて理解できない。


「うわー、なんか実験室のゼミ思い出す……」

「うん、絶対これ研究室の発表会前だよね」


 二人は顔を見合わせて苦笑した。



 そこへ、氷の扉が乱暴に開かれた。


「サラ殿! カホ殿!」


 駆け込んできたのはリオネル伯爵とロドムだった。

 雪をまとったマントをはためかせ、息を切らしている。


「……なぜここに」アーベントが怪訝な顔をする。

「お二人がまた何かやらかしたと聞いてな! 慌てて来たのだ!」リオネル伯爵が叫ぶ。

「普通なら先触れを出すべきですぞ……」とロドムが肩をすくめた。


 沙良と夏帆は顔を見合わせ、「やっぱりやらかし認定されてるー!」と同時に叫んだ。




 さんざん議論の末、アーベントが杖を振り上げた。


「決まりだ! 魔法陣の上にこの“鉄の馬車”を乗せ、防御魔法を付与してみよう!」


 広間に歓声が上がる。

 魔法師たちはすぐさま準備に取り掛かり、床に輝く巨大な魔法陣を描き始めた。


 沙良と夏帆はわくわくしながらその様子を見守り、リオネル伯爵とロドムは頭を抱えていた。


「……本当に、大丈夫なのか」

「伯爵、もう止められません」


 二人の呟きは、氷の広間のざわめきにかき消された。

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