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第1章-4 車中泊仕様計画、はじまる

山の道の駅で温泉を満喫した帰り道。

助手席の夏帆は、すっかり元気を取り戻し、帰路は音楽に合わせて軽く鼻歌を歌っていた。

紗良は、温泉帰りのあの心地よい脱力感と、程よい疲れが混じった幸福感を胸いっぱいに吸い込みながらハンドルを握る。

 

そのとき――ふと頭をよぎった。


「そうだ、車中泊仕様…作ろう」


もちろん以前からぼんやりとは考えていた。

だが、今日のドライブで決定的になったのだ。

エブリイの広い荷室。

後席を前に倒すと現れる、まるで畳一畳分そのままのスペース。

あれを見てしまったら、理系脳は自然とレイアウトの設計図を描き始める。


帰宅して、夕食後。

ノートパソコンを開き、車中泊改造ブログや動画を片っ端からチェックする。

「うーん…やっぱ固定しちゃうとキャンパー登録だよねぇ…」

キャンパー登録、つまり8ナンバー化の話だ。


素人にはあまり馴染みのない制度だが、車を「キャンピングカー」として正式登録するには、内装の構造や設備が一定の条件を満たしている必要がある。

ベッドやシンクを固定したら、その瞬間に車検証の用途欄が変わってしまう。

そしてその先に待つのは――構造変更の手間と費用、保険料アップ、車検費用の増加。


「いやー、それはさすがに…」

紗良は椅子の背にもたれ、天井を仰ぐ。

頭の中で、電卓を叩く音が響く。

バイト代と生活費と学費と、次のスキーシーズンの費用。

8ナンバーの道は、財布事情的にも険しすぎる。


「よし! 固定せずに積んでおこう! 積読だ!」

声に出した瞬間、自分で笑ってしまう。

いや、それはお前の枕元のラノベたちの話だろ、という自分ツッコミ付き。


決まった。

“固定しない”を大前提に、車中泊用ベッドと収納を作る。

そうすれば4ナンバーのままで、保険も車検も今まで通りだ。


資材調達へ


「とりあえず、ホムセン行くべ」

勢いでそう言って、翌日には行動に移していた。


やってきたのは、コッコのマークでおなじみのホームセンター。

新潟創業の老舗で、地元のDIYerや農家に愛されてきた店だ。

広い駐車場には、平日昼間にもかかわらず軽トラやワンボックスがちらほら。

入口近くには、すでに切り揃えられた材木や、園芸用の土の山が積まれている。


「最近は近所のホムセン、みんなDCMになっちゃって、同じもんしか置いてないんだよなぁぁ」

ぶつぶつ言いながら、自動ドアをくぐる。


店内に流れるのは、聞き慣れたあの店内BGM。

地方のホームセンター特有の、なぜか懐メロと新曲が混ざった不思議なプレイリストだ。

それを鼻歌で口ずさみながら、木材コーナーへ向かう。


足元は少しざらついた感触。

農業資材のせいか、床には乾いた土や木くずがうっすらと散らばっている。

その匂いが、これから始まる作業のワクワク感を煽る。


エブリイの荷室を頭の中で再現しながら、合板や角材を物色。

「ぶっちゃけ折り畳みベッド置いたら早くね!?」

思わず口に出してしまった。


もちろんそれはそれでアリなのだが、動画で見たあの引き出し式収納や、ポリタンクがすっぽり収まるスペースも捨てがたい。

寝床の下に荷物をしまえるようにして、炊事用の水も積んで、コンパクトなキッチンセットもあったら――。


「いや、豪華すぎても使わなくなるパターンだな…」

現実的な理系女子の冷静さが顔を出す。

動画の中のプロ仕様に比べ、自分ができる範囲とコストを考えた結果、シンプル路線に戻る。


「やっぱベッドか」


木材コーナーを抜けて、家具売り場へ。

そこにはソファベッドや折り畳みマットレスが並び、試し座りや寝転びをする客がちらほら。


紗良はその中で足を止めた。

「おぉー、これイイな…」

分割されたマットレスが積まれていた。

厚みはちょうどいい8cm。畳んでしまえば場所も取らない。

三分割されたそれは並べれば荷室の幅ぴったりで、段差を埋めるクッション材も簡単に作れそうだ。

[JOINはシートが厚い分、真のフラットにはならない。]


脳内で図面が完成していく感覚――まさに理系女子の快感ポイントである。


一通り寸法をメモし、必要な合板と角材、L字金具、蝶番、滑車、そして収納ボックスをカゴに放り込んでいく。

金属音を響かせながら、カートはどんどん重くなる。

横を通り過ぎるおじいちゃんが、「何作るんだい?」と興味深そうに覗き込んでくる。


「軽バン用のベッドと収納です」

そう答えると、おじいちゃんはニヤリと笑い、

「そりゃまた、ええ遊び道具になるねぇ」と言って去っていった。


レジを抜けると、午後の陽射しが眩しい。

戦利品をエブリイの荷室に積み込みながら、紗良はふと気づく。

荷物を積んだだけで、すでに“キャンパー”っぽく見える。

この光景だけでテンションが上がるのだから、完成すればどれほどの満足感があることか。


その夜。

部屋に戻った紗良は、戦利品を見ながら”滑車”!?何に使うんだ?

[理系女子、面白そうだから入れてしまった]

そして、ホームセンターのレシートを見ながら軽くため息をついた。

「うん、まぁ…これくらいなら予算内…」

そうつぶやく声には、これから始まる工作の日々への期待と、少しの不安が混じっていた。

『バイト増やそう……』

[課題もあるよぉぉ~夏帆の声が聞こえた気もする]


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