表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/56

第三章-3 宴会

白銀の世界の夜は、柔らかな灯りに包まれ、宿の内部は外の寒さを忘れさせる暖かさに満ちていた。

ミスターブラウンの食堂には、すでに数組の客が座り、談笑や食事の音が響いている。そんな中、沙良と夏帆は、先ほど森で騒動を起こした“ホーンラビット”の記念すべき一夜を祝うかのように、宿の小さな宴席に腰を落ち着けた。


テーブルには、今晩の主役ともいえる料理が並ぶ。白銀の森から連れてこられた、角付きホーンラビットの肉料理。焼き加減、香り、盛り付け――すべてが丁寧で、普段の宿屋の料理とは比べ物にならない。だが、沙良たちのテーブルでひときわ目を引くのは、料理の横に無造作に立てられたホーンラビットの角である。


「これ……勝者の証って感じ?」

夏帆が笑いながら指さす。角は、ちょうど二人の席の中心に突き立ち、照明の灯りに反射して白く輝いている。


沙良は角を見つめながら、小さくうなずいた。

「……うん。今日の戦いの記録。まさか、バンパーに刺さった角がそのままテーブルに立つなんてね」


そこへマリアが、お盆を持ってやってきた。

「おねーちゃんたち、飲み物はどうするの?」

「うーん、私はオレンジジュースで」沙良が答えると、夏帆がぴしゃりと言った。

「アルコールはダメ! この後まだ車を触るかもしれないんだから」


二人は笑いながら、マリアからそれぞれの飲み物を受け取る。

やがて、料理が運ばれ始める。ホーンラビットのステーキ、煮込み、スープ、香草焼き……あらゆる部位を使ったコース料理が、次々と目の前に並べられていった。


「わぁ……これ、ホントにコース料理になってる……!」

沙良は目を輝かせ、手を合わせるようにして少し頭を下げた。

「まさか、森のモンスターが今日の晩飯になるなんて……感動しすぎる」


夏帆も負けじと箸を取り、ひと口ごとに顔をほころばせる。

「これ、肉が柔らかい……香りも絶妙……あー幸せ!」


すると、隣のテーブルの常連客たちが、ふと二人の様子を見て声をかける。

「お、そこの若いお嬢さんたち、あれはどうだ? 森の白兎だろう?」

「えぇ、そうです! 今日の森の冒険の成果です!」沙良は思わず調子に乗って答える。


「いやー、君たちのおかげで、美味しい晩餐が楽しめるとはな!」

客たちに褒められ、夏帆も思わず笑顔になる。

「ねぇ、ちょっと待って、これもう楽しい宴会じゃん!」


二人は食事を楽しみながら、次第に心も落ち着き、笑い声と会話が食堂内に広がった。雪の夜も、ここではまるで温かい春のようであった。


食事を終え、満足げに席を立った沙良と夏帆は、再びエブリイのところへ向かう。

夜空の白銀が反射して、車体の金属が淡く光る。後ろのバンパーを見ると――先ほどまで角が刺さっていた場所には、ポッカリと丸い穴が開いてしまっていた。


沙良はしゃがみ込み、そっとその穴に手をあてる。

「うーん……やっぱりちょっと寂しいな」

指先でバンパーの曲線をなぞりながら、ふとため息をつく。


夏帆もその様子を見ながら、考え込むように顔をしかめた。

「……ねぇ、これってさ、もしかして利点もあるんじゃない?」


紗良が顔をあげて首をかしげる。


「だってさ、バンパーってさ、車体の下を流れる空気が溜まって、抵抗になったりするじゃん?」夏帆は指で空気の流れを描くようにして説明する。

「その穴ができれば……空気の抜ける場所ができて、燃費がよくなったり、スピードを出した時に安定するかもしれないんだよね」


紗良は穴を見つめながら、少しずつ理解していく。

「……空気抵抗が減る……パラシュート効果の逆ぅみたいなこと?」

「そうそう! 理系バカの直感だけど、きっとこういうことだよ」夏帆は満足げにうなずく。


ウルウルしていた沙良も、夏帆の説明を聞くと、少し微笑みが戻る。

「なるほど……なら、穴が開いたままでも……いいのかもね」


二人は再び車体を確認しながら、夜の静けさの中で雪を踏みしめる。

森での恐怖も、森でのドタバタも、こうして笑いと理屈に変換され、また一つ冒険の思い出となった。


雪は静かに舞い続け、宿の明かりが遠くに反射する。

その夜、二人はエブリイの横に立ちながら、次の冒険に思いを巡らせるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ