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第2章‐21 魔導ギルドで再び、エブリイの魔力を探る

昼間とはいえ異世界の街は、澄んだ空気と冷たさが混ざり合い、雪の光を反射してほんのり眩しかった。

しかし沙良と夏帆にとってはもう、そんな空気の冷たさもなんのその――銀色の箱、エブリイに乗り込めば城門までの道はまるで自分の庭のようにスムーズだった。


「……なんかもう、勝手知ったるって感じだね」

沙良はハンドルを握りながら、自然と笑みがこぼれる。


「ほんとね……城門を抜けるとき、まるで私たちがこの城の一部かのようだわ」

夏帆は肩をすくめながらも、ちょっと呆れたように言った。


門の兵士たちもまた、二人とエブリイに慣れた様子で軽く会釈する。

「おはようございます……銀の箱の皆さん」

門番の一人が半分冗談、半分本気で言う。沙良は手を振り、夏帆は小さく笑った。


門を抜け、広場を横切り、魔導ギルドの塔が見えてくる。前回の騒動を思い出すと、少し緊張しつつも、二人の胸はやはりワクワクで満たされていた。


塔の扉を押すと、待っていたのはリオネル伯爵とロドムだった。


「おう、君たちだな」

リオネル伯爵は眉をひそめつつも、少し微笑を浮かべている。

「本日は陛下は朝の公務でご多忙のためご不在だ。……しかし、いい加減に仕事をしていただかないと政務が滞ってしまうので、私としては少々お冠というわけだ」


沙良と夏帆は、いつものように心の中で軽く息を吐き、二人のテンションはもう最高潮だった。

「うわー、今日も何か実験だ!」

「やばい、データ取りまくりだ!」


二人はわくわくしながら、リオネル伯爵に導かれ執務室へ。ロドムは後ろから苦笑しながらついてくる。


執務室に入ると、すでにアーベントが待っていた。

「おお、よく来たな。前回の実験の続きだ」


アーベントは大きな机に広げられた紙資料や、魔導具の小道具を前に、にこやかに説明を始める。

「まずは前回の走行試験だ。エブリイが魔力粒子を吸収した量を計測した結果、驚くべきことに……」


説明は数値とグラフで進む。

「ほう……魔力吸収量が、時間に比例して増加している?」

沙良は目を輝かせ、夏帆は手帳を取り出してメモを取りながらうなずく。


「そうなんです。このデータから、どうやらエブリイは走行中に周囲の魔力を吸収し、それを車体内に蓄積しているようです」

アーベントは指でグラフを指し示す。


「つまり、魔力が蓄電されるような仕組みですね!」

沙良は息を荒くして叫ぶ。目の奥に光るものがある。

「これは……実験の幅が広がるな。各地点で魔力粒子の濃度を計測すれば、異世界の魔力分布も可視化できるかもしれない」


夏帆も興奮して、手帳に矢印や補足を書き込みながら言った。

「前回のデータだけでも、エネルギーの変換効率とか、魔力の充填速度も計算できるわね。これは論文案件……いや、学会発表ものかも」


アーベントは苦笑しつつも、彼女たちの理系テンションを微笑ましく眺めていた。

「君たち、魔法そのものの理屈は理解できなくても、数値とグラフでこんなに興奮するとは……ある意味、異世界の理系魂を感じるよ」


「いやもう、数値化された未知現象って最高です!大好物です(笑)! 魔法のメカニズムなんて知らなくても、観察と解析で楽しめる!」

沙良は手を振って笑う。


「さて、今回の実験だが……」

アーベントは少し身を乗り出し、紙に描かれた走行コースを指し示す。

「エブリイを魔導ギルドの周囲で走らせ、魔力吸収と放出の挙動を観測してほしい。もちろん、安全面は我々がフォローする」


「安全面……大丈夫ですかね」

夏帆が少し眉をひそめる。前回の町中爆走の記憶が頭をよぎる。


「心配は無用だ、今回は城内だ。民家はないし、兵士も警備している」

リオネル伯爵が真剣な顔で答える。


二人は笑いながらも、心の中でワクワクが止まらない。

「ほほう、今回は町民の悲鳴が聞こえないのね……ちょっと残念なような安心なような」

沙良がつぶやく。


「でも、理系的には、こういう制御された環境でデータ取れるのはありがたいわね」

夏帆も同意する。


準備が整い、エブリイは塔の周囲をゆっくり走行開始。車体から青白い光の尾がふわりと広がる。

「わわ、やっぱり可視化されてる!」

沙良は思わずスマホで撮影。夏帆も手帳に観測記録をつける。


エブリイが魔力を吸収すると、走行のたびに微妙な加速や挙動の変化が生じることがわかる。

「なるほど、摩擦と魔力干渉で挙動が微妙に変わる……これは制御理論の応用範囲が広いぞ!」

沙良はハンドルを握りながら、理系的興奮を抑えきれない。


「わ、わたしも実験の結果を整理しておかないと……!」

夏帆もすでにメモの嵐だ。


こうして、二人は笑いと興奮に包まれながら、エブリイを使った異世界実験を楽しむのだった。

リオネル伯爵は眉をひそめつつも、後ろで黙って観察。ロドムは小さく頭をかきながら、二人のハイテンションを微笑ましく見守っていた。


そして、この日もまた、エブリイの魔力吸収メカニズムと二人の理系魂は、魔導ギルドの塔で静かに、しかし確実に記録されていったのであった。

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