第2章‐20 商人ギルドと不可思議コーヒー、そして再び魔導ギルドへ
宿屋での夜が明け、沙良と夏帆は重いまぶたをこすりながら布団から這い出した。昨夜の酒と幼女成分補給でほわほわになった頭を、今日もまた忙しく動かすことになる――もちろん、目的は日々の生活資金である。
「んー……今日もやっぱり現金が欲しいよね」
沙良は伸びをしながらつぶやく。
「だよねぇ。陛下が色々世話をしてくれるって言っても、やっぱり手元に欲しいですもん」
夏帆も同意し、二人は軽快に街へと繰り出した。
目指すは――商人ギルド。ここでちょっとした“お小遣い稼ぎ”をするのだ。
昨日までの爆走騒動で町の人々に顔を覚えられてしまった二人。歩けば声をかけられ、手を振れば笑顔で応える沙良。そんな様子に、夏帆は軽くあきれ顔をする。
「ほんと、いいコンビだよね、二人とも」
「うん、あはは……」
沙良は手を振りつつ、心の中で“ああ、やっぱりこの町も嫌いじゃないな”と思った。
◆◆◆
商人ギルドに到着。
二人の目論見はいつもの通り――コーヒーを淹れてちょっと儲ける、である。
しかし、ここで予期せぬ異変が起こった。
「……あれれ、コーヒーが……」
沙良がエブリイの棚の瓶を見つめる。
「どうしたの?」
夏帆が首を傾げる。
「んーとね……増えてる? っていうか、減ってない、みたいな……」
「はぁ!?」
夏帆も思わず叫ぶ。
棚には、二人が淹れて消費したはずのコーヒー豆が、元の量のままビンいっぱいに入っていたのだ。以前ギルドに卸した量も含め、論理的には減っているはずの豆が、増えているように見える――もしくは、消費が帳消しになっているように見える。
二人は理系脳をフル稼働させて考える。
「え、これって……何かの物理法則? 量子の位相が、豆を増やしているとか?」
「いや、まさか。いやでも……うーん……」
考えても考えても、頭の中はモヤモヤ。不可思議な現象に、二人とも手も足も出ない。
「うん。きっとこーゆーモノなんだよ」
沙良が肩をすくめる。
「そうね……深く考えたいけど……そーゆー物なのよ」
夏帆もあっさり結論づける。
減っているよりはいいだろう、と二人は顔を見合わせ、笑った。
◆◆◆
そして、商人ギルドの以前の担当官と談笑。
「陛下との町中爆走は……なんとも、すごかったですねぇ」
担当官は眉をひそめつつ、興味津々で尋ねる。
夏帆はすかさず軽口を叩く。
「まあまあ、あれは私たちのご愛嬌ですよ。皆さん、大丈夫でしたか?」
沙良は横でくすくす笑いながら相槌を打つ。
談笑の末、二人は今回も金貨を少々手に入れることに成功した。
「よーし、まずは肉串だな!」
沙良が張り切る。
「またそれか(笑)」
夏帆があきれ顔でつぶやく。
◆◆◆
二人が町の肉串屋台へ向かうと、さっそく大将が迎えてくれた。
「お、来たな二人組。今日も爆走してたんだろ?」
沙良は軽く手を振り、「はいはい、顔覚えてますよね~」とにこやかに応える。
そこへ、ロドムが颯爽と現れた。
「サラ様、カホ様、魔導ギルドへ一度お越しください」
また何かが始まる予感……。
二人は顔を見合わせる。
「またですか……」
「うん、でも楽しそうだね」
こうして、エブリイに乗り込み、二人は再び氷の城――魔導ギルドを目指して走り出す。
城下町を抜け、銀色の小さな箱と共に、新たな騒動の幕が上がった。
◆◆◆
エブリイのエンジンは静かに、しかし確実に回る。
「さて……今日も何が起きるやら」
沙良は笑みを浮かべながらハンドルを握る。
「二人なら、なるようにしかならない」
夏帆も肩をすくめて笑った。
こうして、異世界の日常はまた、ちょっとだけ騒がしく、ちょっとだけ不思議に進んでいくのだった。




