第2章‐18 町の声が消えた!? 理系女子とスマホの電池残量
魔導ギルドでの初実験は、ひとまず大成功(?)に終わった。
エブリイはキラキラと魔力粒子をまとい、勝手に充電され、女王は笑い転げ、伯爵は胃を押さえていた。
そして今――
「いやー、やっぱり研究の後は肉でしょ!」
沙良が腕を突き上げる。
「また? 昨日も串十本は食べたじゃん」
夏帆が呆れ顔でついていく。
二人はすっかり常連扱いとなった肉串屋の大将のもとへ向かった。
町の人々の視線が自然と集まる。
「あっ、銀の箱の子たちだ!」
「おーい! 昨日のドリフト?見たぞ!」
まるで人気者。
沙良はにこにこと手を振って応える。
「はーい! サインは無いけど笑顔でサービスします!」
「いや、アイドルか」
夏帆は肩を落としつつも、つい笑ってしまう。
◆◆◆
肉串屋に到着すると、大将が両腕を組んで待っていた。
「おう、また来たか! だが今日は騒ぎを起こすなよ?」
「大丈夫ですって。今日はおとなしく、胃袋だけで勝負します!」
沙良は真剣な顔で答え、すぐさま串をもぐもぐ。
「……はやっ」
夏帆は慣れた様子で横で水をすする。
その後も二人は屋台をはしご。
甘い焼き菓子にかぶりつき、果実水を飲み、揚げ団子を頬張り――
すっかり町の風景の一部になっていた。
◆◆◆
ところが、事件は不意に起きた。
「すみません、この団子二つください」
沙良が店主に声をかけた瞬間――
「……?」
店主がきょとんと首をかしげる。
もう一度、沙良は繰り返す。
「団子二つください」
「…………???」
「え、ちょっと、なんで通じないの?」
沙良は青ざめた。
一方、夏帆が同じように声をかけると――
「あいよ! 二つだね!」
店主はにこやかに団子を差し出す。
「……え、なんで夏帆は通じるの?」
「知らないよ。でも普通に聞こえてる」
二人は慌てて原因を探り合った。
そこで夏帆が沙良の首元のストラップを見て気づく。
「ねえ、スマホのバッテリー何パー?」
「――はっ」
沙良は慌ててポケットからスマホを取り出した。
画面は真っ暗。電池切れだった。
「まさか……翻訳アプリ経由で会話してたのか!?」
夏帆の顔が強張る。
「え、じゃあ私、ただの謎の言葉をわめいてただけ!?」
「その通り」
「ぎゃあああああ!」
沙良は頭を抱えてうずくまった。
町の人々が「どうした?」と心配そうに見てくる。
だが沙良にはもう彼らの言葉は聞き取れない。
「うわぁ……文明の利器の偉大さを思い知らされた……」
「ほら、エブリイ戻ろ。充電しないとマジで詰むよ」
夏帆は沙良の腕を引っ張る。
◆◆◆
結局、二人は小走りでエブリイに戻った。
ポータブル電源につなぎ、スマホが再び光る。
「……ああ、文明復活」
沙良は胸を撫で下ろした。
「いやほんと、ディスプレイオーディオとスマホなかったら、私たちただの迷子だよね」
「それな……」
二人は同時にため息をついた。
こうして改めて、自分たちの「銀の箱」と文明のかけらの大切さを実感するのだった。
――だが、そんな彼女たちをさらに待ち受けるのは、予想外の“次の騒動”である。




