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第2章‐17 魔導ギルド、銀の箱に触れる

氷の城下町を大混乱に陥れた銀色の小箱――エブリイ。

町人たちの悲鳴と怒号を背に、女王陛下は爆笑、沙良はスリップ痕を残しながら必死にハンドル操作、夏帆はお腹を抱えて転げ回る。


その顛末はリオネル伯爵とロドムによって「女王陛下直々の新兵器実演」という強引な落とし所がつけられた。

町人たちは半信半疑で納得(?)し、魚屋も毛皮商人も泣き寝入りした……かどうかは定かではない。


だが翌日。

その騒動は、思わぬ方向に転がった。


「異世界から来た銀の御車。魔導ギルドが調査する」


――そう布告が出されたのである。


◆◆◆


魔導ギルドは城下町の中心に位置していた。

巨大な石造りの建物、頭上には魔法陣が描かれた塔、そして前庭には青白い光を放つ巨大な魔法炉。

それはまさに「研究所+役所+消防署?」を掛け合わせたような、異世界の総合機関だった。


ギルドの役目は、魔法の研究と管理。

町を流れる魔力を監視し、暴走を防ぎ、新しい魔導具の技術を実験する。

いわば――魔法インフラの守護者である。


その前に、銀色のエブリイを停めた。


「……え、今なんて言った?」

沙良は思わず立ち止まった。


「魔法……って言った?」

夏帆の声が裏返る。


「ええ、魔法でございます」

ロドムは当然のように答えた。


「……マジで?」

「うわー、ファンタジー側きたぁぁぁ!」


二人は同時に叫び、顔を見合わせる。


沙良の瞳は驚愕と興奮で輝き、夏帆は慌てて手帳を取り出す。


「ちょっと待って! 魔法ってつまり、エネルギー保存則ぶっちぎり!? それとも未知のエネルギー形態!? 論文五本いける!」


「未知の現象は観察して、データ収集! 私たち、こういうのに弱いんだって!」

沙良も息を荒くする。


「二人とも、落ち着け」

リオネル伯爵が呆れ顔で割って入った。


◆◆◆


そこへ現れたのは、銀刺繍のローブを纏った初老の男。

魔導ギルド代表、アーベントである。


「よく来たな。異界の御車を持つ者たちよ」

威厳ある声に、二人は思わず直立した。


「……え、やば、校長先生系の圧だ」

「わかる、ホームルーム始まる雰囲気」


小声でヒソヒソしつつ、二人は頭を下げる。


アーベントは笑みを浮かべ、穏やかに言った。

「安心なさい。我々は君たちの“馬車”を没収するつもりはない。だが調査は必要だ。魔力と干渉するものを放置するわけにはいかぬ。そして、その“馬車”はギルドの保護下に置こう。外敵や盗賊からも守ると約束しよう」


沙良は一瞬ホッとしたが、眉を寄せる。

「……でも、“保護下に置く”って聞こえましたけど。自由を奪われるんじゃないですか?」


リオネル伯爵が答える。

「所有権は君たちにある。だが、運用はギルドの立会いが必要になる。……契約上の安全対策だ」


ロドムがすかさず羊皮紙を広げた。

「こちらに署名を。内容は“実験協力と引き換えに保護を約束する”ものです」


「うわ、異世界でもやっぱり書類仕事!」

「リアルすぎるぅぅ!」

「で、普通に走る分には、自由なんですよね」


夏帆と沙良は顔を見合わせ、結局サインした。

未知の魔法と科学のクロスオーバーに、理系の血が騒いで仕方ない。


◆◆◆


「では、説明しよう」

アーベントは杖を掲げた。


「我々がエブリイに興味を持った理由は三つ。


一つ、金属の車体が魔力場を乱すか。

二つ、君たちの“ポータブル電源”に魔石のエネルギーを転写できるか。

三つ、走行そのものが魔力に影響を及ぼすか」


「なるほど、ファラデーケージ案件!」

「うわ、ワイヤレス充電の異世界版じゃん!」

「物流インフラに直結! これもう社会実装フェーズだよ!」


アーベントは目を細めて笑う。

「……要は、“町のために役立つか確認したい”ということだ」


沙良と夏帆は同時に頷き、叫んだ。

「やろう! 実験しよう!」


女王陛下は両手を広げ、高らかに宣言する。

「よし! 魔法と科学の融合だ! わらわの王国に新たな時代が来るぞ!」


「陛下、勝手に導入決定しないでください!」

夏帆のツッコミが響き渡った。


◆◆◆


こうして――

エブリイは魔導ギルドの実験対象に。


魔力粒子が光の粉となって車体に吸い寄せられ、ポータブル電源のランプが勝手に点灯する。

「うわ、勝手に充電始まった!」

「異世界ワイヤレス、効率やばっ!」


走行試験では、エブリイの周囲に青白い光の尾が走った。

「やば! 粒子流が可視化されてる!」

「写真! 写真撮らなきゃ!」


そんな二人を見ながら、女王は爆笑、伯爵は頭を抱える。


――そして、騒動はさらに広がっていく。


異世界の銀の箱、魔法の研究所に突入!

まだまだ爆走は止まらない。

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