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第2章-5 氷の城下町と魔石の街道、初めての自由行動

屋台のおっちゃんの所へ戻ってきた二人。

昼の陽光は雪に反射して眩しく、軽く吹き抜ける風が頬を撫でる。


「ただいまー!」沙良が声をかけると、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。

おっちゃんは手を止めず、にやりと笑う。

「おお、帰ってきたか!待ってな、今二人分焼き立て出してやるからな」


炭火の火力にジュウジュウと音を立てながら肉が焼かれる。

香ばしい煙がゆらゆらと立ち上り、冷たい雪景色の中にほんのり温かい空気が混ざる。

見た目は腕まくりしたごつい男だが、その動きや声にはどこか気配りが感じられる。

「見た目はごついけど、気が利く人だねぇ」夏帆が小声で言うと、沙良も頷いた。


やがて焼き上がった肉が湯気を立て、香りがさらに濃くなる。

「おぉぉ、思ったより柔らかい!!」沙良が口に運ぶと、ジュワッと肉汁が溢れ、口中に広がる。

夏帆も負けじと一口頬張る。「肉汁も結構あふれてくる」


二人は顔を見合わせ、頷き合った。

「おっちゃん!うまいよ、これ!!」


大将は胸を張り、笑みを浮かべる。

「ふっ、当たり前だ!肉を焼き続けて十数年……俺よりうまいやつは……結構いるけど、な(笑)」


三人は声を上げて笑い、雪の城下町の通りに温かい空気が漂った。

その後、出身地や行き先など軽い会話を交わし、夏帆がさりげなく話題を変える。

「私たち、ちょっと旅の途中でね。街の様子を見て回ってるんです」


おっちゃんは笑みを浮かべ、「ああ、そうか。気をつけて行けよ」と手を振った。

「また来るよ!」二人も元気に返し、屋台を後にする。


雪の城下町の通りを歩く二人。

雪は昼の光に照らされ、きらきらと輝く。城下町の石畳は雪でうっすら白くなり、足元の軋む音が静かに響く。

通りを歩くたび、遠くの氷の城が青白く光り、雪原と街並みの光と相まって幻想的な風景を作っている。

建物は氷の城の影響か、どこか透明感を帯び、屋根の上には雪が積もり、煙突からは薄い煙が立ち上る。


「さて、次はどうする?」夏帆が問いかける。


沙良は少し考え、にやりと笑う。

「異世界あるあるだと、宿屋だよね」

「そうそう、で幼女が受付してるのね(笑)」


沙良も笑いながら、「いいねぇ。でも、エブリイで寝泊まりできちゃうんだよねー」と指摘する。

「でもさ、ガソリンとか、どうすんの?」夏帆が少し不安げに言った。

「うーん、あぁぁー……そうか、燃料問題か」


そんな時、ディスプレイオーディオの画面がふわりと光を帯びた。

文字が浮かび上がり、淡く青白く輝く光が車内に反射する。


『注意:異世界での安全な滞在のために、補給と宿泊の手段を確認してください』


「……また、これか」沙良は眉をひそめつつも、好奇心を抑えられない。

「便利だけど……ちょっと怖いね、これ」夏帆も画面を覗き込みながら言う。


街の通りは雪で覆われ、昼の光に照らされてきらきらと輝いている。

城下町の石畳を踏むと、雪と氷の軋む音が静かに響く。

屋台を離れた後の道中は、ほんのり温かい日差しが差し込み、雪原と氷の建物の青白い輝きと相まって幻想的な風景を作っていた。


「まず、燃料か……」沙良が呟く。

「え、ガソリンとか、どうするの?」夏帆が再び聞き返す。

「ま、まぁ、ちょっと街を回れば補給できるといいんだけど」

「ガソスタなんて無いでしょぉ……」夏帆。

「異世界あるあるには……」

「「ないよねぇェ」」二人は天を仰ぐ、仰いでもエブリイの天井しか見えるものは無いのだが。


とりあえず当てもなくエブリイをトコトコ走らせる。

城下町の中心部へ向かう途中、通り沿いには氷で装飾された看板や、雪に反射する光で彩られた窓が並ぶ。

住民たちは人型で、旅人や商人、子どもも時折雪遊びをしている。

異世界とはいえ、生活感は十分に感じられ、二人の緊張感は少しずつ和らいでいった。


「なんか……少しワクワクしてきたね」夏帆が笑う。

「うん、街を歩くだけでも冒険っぽいね」沙良も微笑む。


二人はエブリイを近くの空き地に停め、再び肩から鞄を下げる。

「さて……どこから手をつける?」

「補給と宿泊の確認、だね」


その時、二人のディスプレイオーディオが淡く光り、文字が浮かび上がった。

『街での燃料補給は魔石で可能です。最寄りの魔石商で入手できます』

沙良も夏帆も、同時にスクリーンを見て頷く。

「おおぉぉぉ~」

「なんと!!、魔石さえあればエブリイも動かせるらしい」

「なるほど、これで車中泊も安心ってわけか」夏帆も興味深そうに顔を上げた。

「しかし、幼女の居る宿屋も捨てがたい(笑)」


車から降りて

二人は少し歩きながら、城下町の通りや家々を観察する。

子どもたちが雪を踏んで駆け回り、商人たちは朝の準備をしている。

街全体に生活感がありつつ、氷の城の存在が町全体に神秘的な緊張感を与えている。


「見て、あの橋の上から氷の城がすごく綺麗に見えるよ」沙良が指さすと、夏帆は目を輝かせた。

「本当に、絵画みたい……」


二人は歩きながら、城下町の広場に差し掛かる。

人々は店の準備をしつつも、興味深そうに二人を見ている。

「外国人かな……」夏帆が小声で言うと、沙良は頷く。

「いや、私たち、この世界では異邦人だからね。目立つのも当然か」


「よし、戻ろぉ」


そしてエブリイに戻ったとき、ディスプレイオーディオが再び光を帯びた。

淡く青白い文字が浮かび上がり、二人の視線を引き寄せる。


『周辺施設情報を取得しました』

『宿泊、補給、商業施設までの最短経路を表示します』


沙良は画面に手を伸ばし、指で文字をなぞるようにスクロールする。

「……これ、結構便利かもね」

「でも……やっぱりちょっと怖いよね」夏帆も顔をしかめつつ、目を輝かせて文字を追う。


城下町の石畳を歩く足音、雪を踏みしめる感触、遠くで聞こえる住民たちの声――

現実と幻想の境界が混ざるこの街で、二人の異世界生活は静かに、しかし確実に始まろうとしていた。


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