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第12話:【Side:討魔軍/レオノラ視点】 サトルさんがいないだけで混乱?

 話をさかのぼること十数時間前、討魔軍南部師団の執務室のレオノラにきつめの眼鏡、いかにも有能という感じの女性副官アルティスが書類を見ながら報告を行っていた。


「百匹前後の魔獣が我が軍の陣営の側面を通過して川沿いに移動中。目的、行き先は不明。四足歩行のサーベルベアーとシルバーウルフ。獣将ヴァルワン軍の一部でしょう」


「モルティスの街を襲うつもりでしょうか?」


「進路からは街を迂回してさらに北に向かうと推定されます」


「たかだか魔獣百匹では王都を襲うとも思えませんね」


「大規模な戦闘を行うというよりも、なにか獲物を追っかけているように見受けられます」


「とにかく、追撃しましょう。今動かせる隊は?」


「グスタフ中隊長の第二、第三小隊なら可能です」


 第二小隊、たしか、サトルさんの隊ね。

 今は、もういないけど……。


「わたくしも出ます。念のためアルバナにも声を掛けて下さい。万が一、敵が王都にまでたどりついては南部師団のメンツに関わります」


◇◆◇


 北門の前に集合した小隊に合流したが隊列が半分程度しかできておらず、兵や魔道士たちがバタバタと走ってきて列に加わっている。


 もうじき出撃だというのに、なにをモタモタしているの?


「グスタフ中隊長、これはどういことですか?」


「あっ、レオノラ様! それが、第二小隊の準備がまだできていないようで……」


「出陣は二時間前には決定していたではないですか」


 管理が行き届いた小隊だったはずですけど。

 あそこでわめき散らしてる痩せた男が確か小隊長のバルペス、だったかしら。


 どなられてるのは、確かアルバナがかわいがっている胸の大きい三人娘ね。


「お前ら、なんでこんなに遅いんだよ!」


「三十分前に連絡されたって、そんな早く準備できないわよ!」

「そうよ、女の子は時間がかかるんだから!」

「もっと早く決まってたでしょ!」


「正式な命令書つくんのに時間がかかるんだよ!」


「以前は決まったらすぐ、支援班のサトルさんたちが事前に連絡してくれてたわよ!」

「サトルさんをクビにするからこんなことになるのよ!」


「うるせー! さっさと準備しろ!」


 あっちでも、なにやら騒いでますわね。


「おい、支援班! 食料と水の積み込みがまだ済んでないぞ!」   

「だから言ってるだろ! 必要量の連絡が来てないんだよ!」

「以前はちゃんと担当で打ち合わせして、必要な量を手配してたじゃねーか!」

「それはサトルがいたころだろーが、アイツはもういねーんだよ!」


 こっちもサトルさん退職問題ですか。

 目立たない仕事、縁の下の力持ちが人事的に評価されないのは軍の課題ですわね。


 サトルさんが軍に残りたいと言っていただければ、わたくし、力になることできましたのに。


 いいえ、見捨てられたのは軍であり、わたくしなのですよね……。


◇◆◇


 北に向かって進軍を続ける。


 兵士、剣士、黒魔道士、白魔道士の順で隊列を組み、その後ろに続く幹部用の四人乗り馬車に乗る。

 向かいには副官のアルティスとグスタフ中隊長。


「アルバナ様は南部戦線の視察から戻り次第合流されます」


「そうですか。彼女の高速歩行魔法ならもうじきでしょうね。グスタフ中隊長、敵にはいつごろ追いつけそうですか」


「我々は街を突っ切って直進していますので、王都に向かう進路をとるのであれば、じきに遭遇するかと思われます」


 王都に向かっているとも限らないのに。

 アルバナ到着次第、追撃隊を編成するしかないですわね。


「ところでグスタフ中隊長、出陣にあれだけ手こずるとは第二小隊は少したるんでいるのではないですか? 以前はこんなことはなかったはずですが」


「そ、それが、最近、バルペス小隊長がベテランの支援係をリストラしたらしいのですが、まだその穴を埋めていないようでして……」


 やれやれ、失態の責任はあいかわらず部下におしつけですか。

 アルティスもメガネ越しにジロリとにらんだ。


「小隊の人事権を持つ中隊長の貴殿が、そういう人事を承認されたわけですよね」


「そ、それは……」


 サトルさんの退職後に気になって調べてみたら過去に因縁があったとか。

 私情を交えた人事が横行するとは、サトルさんに愛想をつかされるわけですね……。


”うわーっ!!”

”ギャー!”


 なに⁉

 前方から兵士たちだろう男性の悲鳴が聞こえ騒々しくなっている。


”キャ――!!”


 女性の悲鳴、つまり白魔道士たちが攻撃を受けている。


 前方から攻撃を受けているなら、進軍を止めて魔道士を後に引かせるはずなのに、なすすべなく敵につっこんでいるの?


「見てまいります!」


 グスタス中隊長が馬車を降りて前方に走っていくが、すぐに”グワー!!”という彼らしい悲鳴が聞こえてきた。


「わたくしも出ます!」


 腰の聖剣の柄に手をかけながら馬車から飛び降りて、前方に走っていく。


 ヒッ……。

 異様な光景に息が詰まる。

 長さ数十メートルの巨大なスライムが第二小隊、第三小隊のほぼ全ての人間を体内に捕らえている。


 獣将ヴァルワン軍の使役獣、ギガスライム。

 ヤツラの主力戦力がこんなところに⁉

 コイツと剣との相性は……最悪。


 こっちに気づいたのか、半透明の体の一部が何本も触手のように伸びてきて向かってくる。


 ヒュッン、青く輝く聖剣の一振りで全て根元から断ち切り、地面に落ちた触手はベッシャとつぶれるが、本体から新たな触手が伸びてくる。


 コイツは斬っても斬ってもキリが無い。

 魔法攻撃、特に焼き尽くすのが一番だけど魔道士たちは……。

 前方で黒魔道士も白魔道士も全員が半透明の体内に取りこれまれてもがいている。


 しまった!


 触手が背後から腰に巻き付き、宙に持ち上げられてしまった。


次回、『第13話:妹がヒロインを助けたついでに軽くザマアもしてくれました』に続きます。


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