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第11話:妹に「そんな人間いませんよ」と笑われました

 前からサーベルベアーの巨体が迫って僕らの頭に長い爪の生えた岩のような腕を振りおろす。


「おにいちゃん、伏せて!」


 ミーナは僕の背中を押して地面に伏せさせて、片ひざをつき、パン! と右の手の平で地面を叩いた。


「黒魔法究極奥義、獄炎環球!」


 二人を囲むように地面に赤い魔方陣が現れて縁に沿って炎が吹き出した。

 炎は半球のドームになって二人を覆って外へと広がり始める。


 襲ってきたサーベルベアーは広がる炎に飲まれて一瞬で焼き尽くされた。

 炎は大きなドームになって外へと広がっていく。


 炎に触れる魔獣を焼き尽くしながらドームはさらに大きくなる。


 獄炎環球だって⁉

 周囲の全ての敵を焼き殺す黒魔法究極奥義だ。


 以前、南の魔王を包囲した三つの小隊がこの魔法で全滅させられたのを戦場で遠くから見たことがある。

 何十人もの兵士、剣士、魔道士が広がっていく半球の炎に飲み込まれて焼き尽くされた。


 なんで、ミーナがこんなすごい魔法を使えるんだ?

 それにあの頭についてるの、あれ、どう見てもツノなんだけど……。


 手の平を地面につけながら魔法を発動させているミーナを見つめた。


「終わりました」


 そう言ってミーナが地面から手を離すと炎のドームが消えた。

 周囲には燃え尽きた魔獣の黒いカスと大きく丸く焼けた地面しか残っていなかった。


 また光の表示板が現れ、対象者の数字がどんどん小さくなっていく。


 スキルレベル、対象者レベル、アップシマシタ。


 スキル: 増幅  Lv1 → Lv2

 対象 : 魔道士 Lv23 → Lv28

      魔力  1150 → 1440


 僕のスキルのレベルが1あがって、ミーナのレベルと魔力も元からは上がったということなのか。


「おにいちゃん、すぐ治癒魔法で治します」


 ミーナが僕の手首に手をかざすと傷が金の光に包まれて肉と肉とがつながっていき、傷がふさがった。


 治癒魔法は女神の加護による聖なる力の白魔法。

 もともとは魔の力だった黒魔法とは相容れず、黒魔道士は白魔法を使えない。


 なんでミーナは両方使えるんだ?

 そもそも、頭に付いてるの、どう見てもツノにしか見えないんだけど……。


 ミーナのツノは少しずつ小さくなっていき、そしてなくなった。


「……ねえ、ミーナ、聞きづらいんだけど、もしかしたら、ミーナって人間じゃなくて、その……、魔族?」


「あれ、言いませんでしたっけ?」


 シーン……。微妙な間が生まれた。


「聞いてない、と思うんだけど……」


 ミーナはクスクスとおかしそうに笑い出した。


「やだー、おにいちゃん、一晩で十二歳も大きくなるなんて、そんな人間はいませんよ」


 うっ……、言われてみれば確かにそうだ。

 ツノが出るまで全く気がつかなかった僕は相当にぶいんだろうか。


 それだけミーナは人間と変わらなかった。


「おにいちゃんに抱きしめられたあと、魔力がすごく大きくなって、ツノも生えてきて、できなかった魔法が使えたんです」


 そうか、「増幅」のスキルは相手の力を増幅するのか。

 だけど、なんで突然、スキルが発動したんだろう?


「この力はきっと二人の愛の力です!」


 同期がなんとかって言ってたけど、無我夢中で覚えてない。


 ミーナがそっと腕の傷をなでてくれた。


「おにいちゃん、痛くないですか?」


「もう大丈夫だよ。だけど、なんで魔族のミーナが白魔法を使えるの?黒魔道士は白魔法を使えないはずだけど」


「そうなんですか? なんとなく使えてますけど」


 ミーナはまた優しく腕の傷をなで始めた。


「ちちんぷいぷい、いたいの、いたいの、とんでけー」


 ミーナの美しい横顔、そしてその下の白いシャツを大きくふくらませる胸がイヤでも目に入ってしまう。


 ミーナが魔族というのは『エルフ、ケモ耳でもOK』の僕としてはあまり気にしないけど、昨日まで六歳だったんだよなあ。


 だけど、ここは異世界だし、ミーナは魔族だし……。


 いかん、この魔道具を早くなんとかしないと。

 理性がいつまでもつのか自信がない。



 再び出発し、モルティスの街に行くために南へ南へと歩き続ける。


「ミーナ、街に行くの初めてなんです。おにいちゃんと初デートですね」


 うれしそうなミーナと手をつないで散歩気分で進んでいく。



 もうすぐ、街が遠くに見えてくるかという距離まできたとき、ミーナがピタリと足を止めた。


「また、魔獣、いえ魔物です。一匹ですがかなり大きいです」


 またか!

 今日はいったいなんて日なんだ。


 用心しつつ先に進んでいくと、長さ数十メートルの巨大なスライムと討魔軍が戦っている最中だった。

 獣人族が使役して武器に使うギガスライムだ。


 戦っていると言うよりも、ほぼ全員の数十人の兵士や魔道士がスライムに飲み込まれて体内でもがいていたり、触手のように伸びた体の一部にまかれて苦しんでいるのが見える。


「なんで、ギガスライムがこんな街のそばにいるんだ?」


 スライムの体内でもがいている兵たちの中にデブのグスタス中隊長とやせっぽちのバルペス小隊長の姿が見えた。


「あっ、やられてるのは僕のいた第二小隊だ」


 僕の視線に気づいたミーナが、グスタスとバルペスを指さした。


「あのお二人、お友だちでしたら助けますか?」


「うーん……、でも、ミーナの魔法でギガスライムを焼き払っても、一緒に焼け死んじゃうからなあ」


「おにいちゃん! あっち、オッパイがいっぱい!


「あっ、あの子たち⁉」


 ミーナの指さす先、後ろの方で体内に取り込まれた黒魔道士や白魔道士班の中に『たわわ三人娘』がもがいているのが見えた。

 スライムの体内で服が溶け始めて、苦しそうに体をよじるたびに、むき出しにされたオッパイが大きく揺れている。


「あっちのオッパイのが大きいです!」


 三人のさらに後で長い金髪の女性が何本もの触手にまかれ、背中をこちらに向けて浮いていた。


 青く輝く軌跡を描く細身の長剣で触手や胴体を切り裂くが、すぐに新しい触手が胴体から生えてきて身体にまとわりつかれている。


「あの剣の光、聖剣か!」


 女性は身体をよじり、こちらを向いた。

 ボロボロになった服から胸がはだけて大きなオッパイが見えそうになっている。


「レオノラ⁉」



次回、『第12話:【Side:討魔軍/レオノラ視点】 サトルさんがいないだけで混乱?』に続きます。

時間を少しさかのぼり、サトル退職後の第二小隊がどうなったかをレオノラ視点で見ていきます。


更新の励みになりますので、ぜひ、★評価、ブックマークよろしくお願いいたします。


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